第3話 どうやら付き人も学園に入るようです

 公爵様方が食事をしている際、俺達使用人は立って話を聞いている。


 今は特にお嬢様についてのお話で盛り上がっている。


「リア、お前ももう15だ。来月からは学園生活になるな」


「そうですね! クロノと一緒の学園生活が楽しみです! ねえ、クロノ?」


 突然の爆弾がお嬢様の口から俺の下に飛んでくる。学園生活? 俺が?


「すみませんがお嬢様。私はこの屋敷に雇われている身。お嬢様と共に学園生活を送ることはできません」


「何言ってるのよ。一緒に学園に行くわよ。ねえ、お父様?」


「うむ、そうだぞ、クロノ君。君は我が娘が認めた唯一の付き人だ。付き人が主人の傍に居なくてどうするんだ? それに既にクロノ君の分まで入学試験費は払ってあるしな」


 初耳すぎるんだが。それに学園生活となると、王都に行かなければならず学生寮に入らなければならない。それでは公爵家で働くことができない。


「しかし、私には使用人としての職務があります」


「リアに付き人として付いていくのもまた君の仕事だ。よろしく頼むよ」


「私からもよろしくね、クロノ君。君はリアの騎士様ナイトなんだから」


「ちょっと!? お母様! それは内緒だって言ったじゃない!」


「あらあらごめんなさいね。つい口が滑ってしまったわ」


 何の話なのだろうか。俺は騎士ではないし、内緒にされるようなことも無いと思うんだが。


「とにかく、あなたは来月から私と一緒に学園に通うの。これは決定事項よ」


 少し赤みを帯びた整った顔でそう告げられる。


「畏まりました。ありがたく通わせていただきます」


 そう言えば学園なんて通ったことが無いな。強引に通わされることになったが実は結構楽しみかもしれない。


「あんまり嬉しそうじゃないわね。私と一緒じゃ嫌?」


 俺の事務的な返事にシュンとした顔でお嬢様が落ち込んでしまう。これはまずい。一大事だ。公爵様もこちらをわかっているよな?と目で語り掛けてくる。


「いえいえいえいえ! そんなはずがありません! 私にとってお嬢様と一緒に学園に通えることはまさに至上の幸福でございます! あまりの嬉しさに言葉が出てこなかったのです!」


 俺はお嬢様の近くまで素早く移動し、跪くと大声で宣言する。


「嬉しいのね? 本当なのね?」


「勿論でございます!」


「良かった、迷惑だったらどうしようかと思ってたの」


 良かった、任務成功だ。公爵様からも満足の意を表する頷きを貰う。


 こういうところがダメだな、俺は。感情表現が下手くそなところを直していかねばまたお嬢様を悲しませてしまう。


 2年という長い付き合いを経て、先輩の使用人たちを含む公爵家の方々は今の俺にとって家族のような存在だ。特にお嬢様とはほとんどいつも一緒にいる。


 この人だけは絶対に守り抜くのだと、公爵様と男の約束を交わしたほど俺はお嬢様の元気な姿に惹かれていた。


 最初のころは追放されて傷ついていた心もお嬢様の笑顔のお陰で今では完全に癒された。その恩は一生をかけて返さなければ。


「しかし、問題は入学試験だ。クロノ君、勉強は好きかい?」


 ニヤリと笑いながら公爵様が言ってくる。俺が勉強嫌いだとでも思っているのだろう。生憎だが俺は追放される前に一通りの教養は頭に叩き込まれている。


 恐らく入学試験位なら楽勝だろう。


 しかし、流浪者が教養があると絶対に怪しまれる。


 ここは隠すか。


「いえ、私は勉強は全然でして」


「うむ。だと思ってリアと共に家庭教師を呼んで勉強する時間を設けてある」


「何から何まで私如きのためにありがとうございます! 期待に沿えるようがんばります!」


「なに、良いさ。君が合格できないと私がリアから怒られてしまうからね」


「一緒に勉強して受かりましょうね?」


「はい!」


 そうして先輩の使用人たちに良かったなと言われながら公爵様方が食べ終えられた食器を片付けるのであった。

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