じゃんけんが勝てない幼馴染のせいで、俺には恋人ができない
青葉久
略奪愛のババ抜き
Prologue 俺は幼馴染と約束をする
これが夢だと、すぐに俺は気づいた。
忘れるわけがない。それは、まだ俺が小さな子供だった頃の光景だった。
近所の公園で、夕暮れになるまで俺は一人の女の子とずっと遊んでいた。
どんな時も一緒にいるのが当たり前。一緒にいない方が不思議だと家族に思われるくらい、ずっと一緒だった女の子が俺にはいた。
いつものように夕暮れになるまで彼女と遊び、門限でいつもの通りに俺が家に帰ろうとした時のことだった。
帰ろうとする俺に、彼女はあることを告げた。今見ている夢は、その場面だった。
断言しても良い。俺はこの光景を生涯忘れることはないだろう。
あの時、彼女が告げたあの言葉。それが俺が彼女とかけがえのない約束をするキッカケの言葉になったのだから。
「しょーくん! わたしがしょーくんに
まるで太陽のような満面の笑顔で、俺に人差し指を突きつけて――彼女はそう言っていた。
恥ずかしいのか頬を赤らめた、子供ながらの告白だった。必死に想いを伝えたい一心なその気持ちを、精一杯の言葉で彼女は俺に伝えていた。
誰かを好きになる気持ちは、大人も子供も変わらない。
その気持ちが時間と共に誰かに移り変わろうとも、今抱いている好きだと言う気持ちに、嘘はない。
大人になると気持ちを素直に伝えることができない。それは子供だけ特別に許された、素直で、まっすぐな告白だった。
「うん! いいよ! ぼくもしーちゃんとけっこんしたい!」
そんな素直な告白に、子供だった俺も素直に答えていた。
物心がつく頃からずっと一緒にいた可愛い幼馴染。子供ながらでも、俺は一緒にいる彼女のことが好きだった。
何気ない仕草、楽しそうに笑う表情、日々を一緒に過ごしていくなかで色んな彼女を見ているうちに、自然と俺は彼女のことが好きになっていた。
だから俺に、そんな彼女の告白を受けない理由なんてなかった。
「ほんとうっ! しょーくん!」
「うん! だってぼく、しーちゃんのことだいすきだもん!」
「わぁ……! わたしもしょーくんだいすきっ!」
心の底から嬉しいと胸の前でぎゅっと両手を握り締めて、彼女は太陽のような笑顔を見せていた。
両想いの男女が、互いに想いを告白する。そうなれば後は簡単だろう。
これで二人は晴れて恋人同士、普通ならそうなるに決まっている。
小学生にもならない子供が恋人を作るなんてことをしているのは、思い返せば随分とませていたと思う。
だけど俺達の場合、それは少し違っていた。
「じゃあわたしもしょーくんのおかあさんみたいなこくはくにする! だから――」
そう言って、彼女は拳を空へと掲げた。
彼女のやりたいことは、当時の俺も分かっていた。
俺も、彼女と同じように空に向けて拳を掲げていた。
互いに拳を空に掲げる行為。それが俺達に意味するのは、とある勝負の合図だった。
簡単で、単純で、誰でも知っている勝負の合図。その合図だった。
「わたしとじゃんけん、しよ!」
じゃんけん。その勝負を、彼女は俺に挑んでいた。
彼女が勝負で勝つことにこだわるのには、とある理由がある。
俺に勝負で勝つこと。彼女には、それに大きな意味があった。
だから俺も、その勝負を受ける。同じく俺にも、彼女との勝負で負けることに大きな意味があった。
「わたしがかったら、おとなになったらけっこんしてね!」
「うん! ぜったいする!」
そうして、俺と彼女は約束を交わした。
大人になるにつれて、馬鹿みたいだったと思えるような約束。
いつか時間と共に、薄れて消えるかもしない約束を。
「じゃあいくよ! しょーくん!」
「うん! しーちゃん!」
俺と彼女が空に掲げていた拳を突き合わせる。
そしてまた、勢いよく俺達は拳を振り上げた。
じゃん、けん――ぽん。
簡単な掛け声と共に、俺達は拳を振り下げた。
しかしその時、当時の俺は見ていた。
彼女が振り上げた拳が振り下ろされる瞬間、彼女の手がチョキを作っていたことを。
それを見ていた俺は、無意識に反応していた。
その勝負の結果は――言うまでもなかった。
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