第四十話「各々の思惑」
その後のジン達は順調に帝国への道のりを歩んでいた。
そして、帝国の首都アーウェンへと辿り着く
*
帝国首都アーウェン城門前
「ステイン様、そろそろ始帝国の方々が来る頃でしょうか?」
と言われた長い白髪をオールバックに撫で付け、背中の綺麗に伸びた上品な男はガスバ帝国の宰相ステイン・ルーラ・ガーマイド。
皇帝サルファ・ルーラ・エルドールの叔父にあたる男で長年先代の兄を支え、ここまで国を大きくした二代目であるサルファを子供の時から育ててきた男で、とても優秀な男であった。
「そうであるな」
ステインは短く答える。
「それにしても、宰相であるステイン様が迎えなければならないのでしょうか?」
とステインに先ほどから聞いている女騎士はエンファ多種族共生国家の《五英傑》にスパイとして入っていたミレイと同じ帝国最強の騎士四人である
《四華》の筆頭騎士「鉄華」シュレイ
目鼻立ちの良い顔と引き込まれそうな碧眼に輝く金髪。それに見合わないはずの無骨な鎧は何故かよく似合っていた。
「私も皇帝陛下に頼まれた時は驚いたものだ。しかし私が出なければならないほど皇帝陛下は始帝国を重要視しているのだろう」
「では、私たちもしっかりしなければなりませんね。お前たち!ステイン様の言葉が聞こえたな!これから始帝国の方々がお越しになる。私たちは帝国を代表してお迎えするのだ!恥ずかしい姿を見せることは私たちを信用してくれた皇帝陛下に泥を塗る行為だ!気を引き締めていけ!」
とシュレイは後ろの騎士達に喝を入れる。
「「「ハッ!!!」」」
と騎士達は声を上げて気を引き締めた。
すると、馬の駆ける音がしてきた。
「おそらく、始帝国側の先触れかと」
シュレイがステインに言う
「であろうな」
ステインの視線の先には少し離れた場所に止まる馬車と騎士達がいた。
そうこうしてると馬に乗った騎士がステイン達の前についた。
「馬上より失礼する。私は始帝国ファウスト使節団のランスロットと言う。私達は終戦会談への参加要請に応えて参上した」
「ようこそお越しいただきました。我々は始帝国使節団を歓迎いたします」
ランスロットにステインが応えお辞儀する。
「では、その旨陛下に伝えてこよう」
と言ってランスロットは使節団の方に戻っていった。
すると、ぷはっとシュレイが息を吐いた。
「どうした?シュレイ殿」
シュレイはものすごく運動をしたように肩で息をしている。
「ステイン様は何も感じなかったのですか?」
「ランスロット殿から何か感じたのか?」
「えぇ、私の目には不思議な力があるのをご存知ですか?」
「たしか、相手の力量がオーラでわかるだったか」
「はい。その目で先ほどランスロット殿を見たのですが。人とは思えない力を持っていました。おそらく私では敵わないかと」
「そうか……陛下から聞いてはいたが、面倒なものだ…」
ステインは天を仰いで疲れた表情をした。
その後、ジンやアーサー、都市長の二人を見たシュレイが気を失いかけるという事件があったが、ジン達は問題なく帝国へと到着したのだった。
*
帝国・エンファ多種族共生国家使節宿舎
「ユダ様、始帝国の者達が到着したようです」
部屋の大きな椅子にはユダが足を組みながら座っている。
そして、ユダの前には跪くウェストン。その背後にも数人が跪いている。
「作戦は順調なの?」
「はい、ユダ様のおかげでとても順調です。部下の方々もお借りできますから、問題ございません」
「ならいいわ。当日は私も会談の場に身を隠して出るから、ぬかりなくね。ウェストン」
の言葉と共にウェストンの跪く背に重い重い圧がかかる。
「うっ……ご心配なく。ユダ様」
周りの者たちも、もう一度深く跪きお辞儀する。ユダの計画はもうすぐ始まろうとしていた。
*
帝国首都アーウェン
帝城の皇帝執務室では宰相ステインが皇帝サルファにジン達について話をしていた。
「そうか…やはり始帝国と敵対するのはまずいか」
「そうかもしれません」
サルファはため息をついて椅子から立ち上がり、窓へ向かい外を伺った。
「ミレイにも聞いたが、シュレイにも聞いておこう。彼らに私たちのアレは通用するかな?」
扉の横で直立不動の姿勢を保っていたシュレイにサルファが聞く。
サルファは重い口を開く。
「おそらく、ミレイは口伝だけで聞いたのでしょうが。直接見た私からすればアレとあの方達が五分五分だとは思いませんでした。もしかしたらがあるかもしれませんが。私は…通用するとは思えませんでした」
サルファはシュレイの言葉を聞いて椅子に戻ってドサリと座った。
「やはりそう言うか…まぁ現在、進行形で敵対はしてないのだから、明日の立ち回り次第だな。暗部からは共生国家の妙な動きも報告されていたが内容まではわからなかった。
さぁ…明日はどうなるのやら」
サルファは机に置いてあるティーカップに砂糖を一つ落として、紅茶を一口飲んだ。
会談前日の夜は様々な者たちの思惑と共に更けていった。
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