番外編

閑話1「仲良し3人組」

始帝国 首都ヴァーテック


浮遊都市内の訓練場に金属同士がぶつかり合うような音が響く


他にも、タタタタタッと誰かの駆ける音もする。武器の振られるブォッという風切り音も響く。


そこでは、都市長のレイラとガルザムが模擬戦をしていた。


ガルザムは刃を潰した模造刀でレイラは素手で闘っている。模造刀と言ってもガルザムほどのレベルだと軽く振っても鉄を切れるほどだが、レイラの手には魔力が纏われていて素手でも模造刀と渡り合っている。


すると、訓練場に入ってくる者がいた。


「おいおい!せっかく休みをジン様から貰ったのに訓練してんのかお二人さん?」


入ってきたのは都市長のヤマトだった。

ガルザムとレイラは模擬戦を止めると2人から別々に文句を言われる。


「うるせぇ!」

レイラは簡潔に


「何を言うヤマト、この体はジン様を守るための盾であり矛、刃は磨かなければ錆びる。

一分一秒が無駄にできない。それに、ヤマトはだな・・・」

と延々と喋りだす。


(めんどくせぇ)

と内心思ってるヤマト


「わかった!わかった!俺が悪かったよ。

だがな、せっかくジン様からお休みをいただいたのに使わないのももったいなくないか?」


「う〜ん」

「それはそうかもしれぬが…」


ここで、ヤマトは大きな爆弾を落とす


「それに、ジン様は俺たち都市長には休みで息抜きをしっかりしてほしいほしいそうだ」


それを聞いた途端

「俺は休む」

とレイラが叫ぶ

「ジン様の願いだ、休むとしよう」

と渋々承諾するガルザム

「そうこなくっちゃ」

と嬉しそうに言うヤマト



「して、なにをするのだ?」

とガルザムが聞いてくる。


「酒飲んだり、飯食ったりじゃねぇの?」

「ヤマトは馬鹿じゃねぇのか?休みこそ、戦うんだろ!ん?でも、模擬戦はダメなのか?」

と矛盾した自分の考えに頭を捻らすレイラ


「我は書庫で本を読んでもいいのだが、お前達は本を静かに読むようなものじゃ無いだろう」


「その通りだな、それよりは体を動かしたいな」

「本は難しくてわからねぇ」

「レイラはもっと頭を使え」


すると、何かを思い出したかのようにヤマトが口を開く


「あぁ!そういえば、ジン様が新しいツヴァイで学校を開いたと聞いたな。首都には大学をつくったから、教鞭に来ないかと言われていたな」


「腕がなるな」

と自信満々に答えるガルザム


「面白そうだ」

と楽しげに答えるレイラ


こうして、三人が教鞭を取ることが決定した。



         *



始帝国ファウスト


第二都市「ツヴァイ」

国立帝徒大学


この大学は始皇帝ジン・ファウストによって

救われた民が多く、税金などの法律の改正によって不満を持つものがほとんど出ず。この大学に入りたい者もたくさん現れた。


そんな大学のとある学部に野望を持つ少年がいた。


戦闘学部

この学部は冒険者や兵士、自警団員になりたいものが通う学部である。


(とうとう入学できた!これからは僕の時代だ!)

などと内心張り切っている学生の名はオーシィ


元々は貴族の長男だった少年だ。


彼は国が多種族共生国家に敗北し没落した。

その後、ジンの力を見て憧れ渇望した。

あの力が欲しい!と


だが、彼には魔術の際がなかったが戦うことを幅広く学べる戦闘学部に入った。


そんなオーシィが張り切っていると、教室の扉が開かれる。


「みんなおはよう!」

入ってきたのは、この国の黒浪騎士団の騎士の1人だ。基本的に大学の講義は騎士やメイド

など、ゲーム時代のジンの配下たちが行なっている。この騎士は黒浪騎士団の一兵卒だが

この世界の住民からしたら強い部類に入る為この大学で講師をさせている。


(この国の騎士だって、僕の力ならいずれ追い越せる。そして、始帝国の幹部まで登り詰めてやる!)


そんなことをオーシィが考えていると


「今日は特別講師の方が来ている。この国の幹部、ヤマト様、ガルザム様だ」


始皇帝を除いてこの国で最上位に位置する者の登場に生徒全員が驚き騒いでいる。

オーシィも内心驚いていた。


(幹部が直に教えてくれるだと!?僕はなんて幸運なんだ。ここで幹部に認められれば出世街道に乗ったも同然だ!)


「『鬼神』ヤマトだ。今日はよろしくな」


「『蟲神』ガルザム。手加減はしないぞ」


そして、2人の実技講習が始まった。



          *



生徒全員が訓練場へ移動


「まずは、君たちの実力が知りたい。一人一人俺たちが相手するからかかってこい」


そして、ヤマトとガルザムは刀を抜き放つ


生徒は二組に分かれ一人一人ヤマト達と模擬戦をする。


オーシィはヤマトが相手となる。


オーシィの前に並ぶ生徒達はヤマトにアドバイスを受けながら軽くあしらわれている。

そんなことを、数回続けると最後のオーシィの番が回ってきた。


(とうとう僕の番だ!)


オーシィは剣を抜く

「戦闘学部1年生オーシィです。よろしくお願いします!」

「おう」


オーシィは踏み込み上段から振り下ろす

それをヤマトは受けようとするが剣の軌道が変わる。オーシィが無理矢理剣を引き戻し突きを繰り出す。


だが、ヤマトは軽く頭を動かし最小限の動きで避ける。


「ほぉ」

と少しだけヤマトが感心する。


だが、それだけだった。


その後は何もなく、他の生徒と同じく倒された。


「最初の突きは良かったな。だが、それだけだ。他は才能に任せた力任せの攻撃ばかり。

型がなければ経験もない考えもない、残念な攻撃ばかりだ」


(くそっ!言い返せない!)

オーシィはヤマトの言葉に言い返せず、情けない自分に怒り訓練場の地面を殴る。


「自分が情けなく思えるのはわかるが、そう思っている間に周りは進んでいく。君には才能はある、たが才能は磨かなければ光らない

だから、努力をするんだ。まず型を学べ、そして模擬戦や実戦で経験を積むんだ。そうすれば型は体に馴染み実戦により自分だけの型が生まれる努力をやめたら負けだ。まぁ頑張れ」


オーシィにはその言葉が心を打った。

自分の才に傲り昂った。伸びた鼻をおられたような気分となり、自分の未熟を知った。


(高い、高すぎる。強さも心も負けている

才能に溺れた僕は到底叶わない)


オーシィはすぐに立ち上がり深く腰を折る

「ありがとうございました!」


ヤマトは手をひらひらさせてその場を後にした。



その後、オーシィは冒険者となる。世界中で困っている者達を助け導き、剣を教えた。

そして、有名な剣術道場の師範となり。

とある若者に一番強かったのは誰か?という質問に「あの方には到底敵いませんよ。強さも心も」という言葉を残したが、それはまだ誰も知らない物語。



          *



ヤマト達の訓練が始まっていた時


レイラは魔術学科にいた。


魔術学科

戦闘学部のなかで魔術に特化して教える教室


「『獣神』レイラだ、よろしくな!」


レイラの挨拶の後、魔法支援団から来た魔術師が説明を始める。


「今日は昨日言った通り召喚獣について教えるのだけれど、特別講師として幹部のレイラ様が来てくれました」


教室内では、生徒が「レイラ様だ」とか「綺麗だ」とかヒソヒソ話している。


「では、レイラ様お願いします」

「わかった」


レイラが一歩踏み出す

「まず、召喚魔術について話そう」


そこからは、レイラの召喚魔術講座が始まった。


まず、召喚方法は3種類ある。


一つ目は詠唱での召喚

これは、媒体がいらないと言うメリットがあるが階梯によっては召喚できない物もあるので注意すること。


二つ目は召喚術式を地面に描く召喚

消費魔素量が少ないが描くのに時間がかかるデメリットがある。


三つ目はスクロールに術式を描き発動させる召喚

発動時間も少なく、自分の使える階梯の一つから二つ上までの魔術が使えるが魔素量の消費が倍ほどに増える。


と言うふうに召喚方法のメリットデメリットを説明し終わるレイラ


「じゃあ実践しに外へ出ようか!」

そして、全員が外の魔術演習場へと出る。


そこには一つの大きな召喚術式が描かれていた。


「この術式は第八階梯魔術『判決召喚ジャッジメントサモン

レイラの言葉に皆が驚く、それもそのはず

この世界で第八階梯など雲の上の存在神々の使用する技とされている。


「この術式は誰でも使える術式であり発動者の実力や素養によって召喚獣が変わる物だ。

ここからは、一人一人召喚してくれ」


そこからは、召喚がたくさん行われた。

とある男の子は大きな虎のような召喚獣

とある女の子は目で追うのがやっとの速さで動く鳥のような召喚獣


二つ首の犬や小さいが人型のスライムのようなものも出てくる。


全員が召喚を終えたと思ったら演習場の隅に1人の女の子が座っていた。


「あの子は誰だ?」

その言葉に全員が分かりきった表情で答える


「あの子体が弱いらしいんです。だから、みんなに迷惑かけないように隅で見てるんだって」

1人の生徒がそう答えた


「そうなのか…」

そして、レイラはその子に近づく。


その子はレイラを見上げるように見る。

すると、レイラはしゃがんで目線を少女に合わせる。


「お前、名前は?」

「シーラ」


少女は小さくそう呟く


「あぁサラとか言う奴の妹だったっけ?」


シーラはコクンと頷く


「召喚やってみないか?楽しいぞ」


「どうせやっても失敗する、私はお姉ちゃんに守られてばっかだもん」


「そんなの、わからないぞ」

「わかるよ」


そして、レイラは「はぁ」とため息をつく。


「お前は、ずっと姉ちゃんに守られてたいのか?恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしいよ、でもどうしようもできないんだもん」

「なんで、わかるんだ?やってもないのに。

強くなろうと努力しろよ」


「じゃあ何をすればいいのよ!」

「目の前にあるじゃん、召喚術式。お前の召喚獣で姉ちゃん守ってみろよ」


シーラは息を呑む

「わかったよ」


シーラは立ち上がりテクテクと歩き出す。

召喚術式の前に立ち召喚を始める。


すると、自然の魔素がどんどん集まり召喚獣が形作られていく。その大きさは人の倍以上に大きくなる。


それは、炎を纏った巨大な獅子だった。

サラが召喚したものと同じ個体が召喚された


「えっ!?」

シーラは驚いて尻餅をつく


「汝の召喚に応じた。名はなんという?」

「シ…シーラ」


「良い名だ、我は卑小なる身であるがこの世界で炎の霊獣王をしているクシャルだ。よろしく頼むぞ主」


「は…はい」


「「「おぉーー!!!」」」

霊獣王に驚いた他の生徒が「すごいね!」とか「契約するとどんな感じ!?」だとかシーラに言い寄っている。


霊獣王クシャルの隣にレイラが立つ


「坊や、あと9年ぐらいは復活しないと思ってたんだけどねぇ?」


クシャルは呆れたように言う

「何をおっしゃているのですか、貴方様があの娘のために私を復活させたのでしょう。あたかも召喚されたように見せるなんて器用なことをして」


「何のことやら」

そしてレイラは仕事を終えたとその場を後にした。


そしてシーラはその後、王真教で枢機卿の姉サラの直属部隊の隊長になるのだが、まだまだそれは先のお話。



          *



「ヤマト、大学はどう感じた?」

ガルザムがふと質問する


「まぁ悪くねぇな、俺たちレベルは生まれないとしても元五英傑レベルには届くんじゃないか?」

「そうだな」

「ジン様は流石だな!」

レイラは自分のことのように喜んでいる


「なぁこの後、城のBARで一杯どうだ?」

「うむ、いいだろう」


「それじゃあヤマトの奢りだな!」

「それが良い」

ガルザムもレイラの話に乗る


「何でそうなるんだよ!」


三人の笑い声が夕空に響いた。






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