朝焼けを見たことがありますか?
遥石 幸
🗻
「朝焼けを見たことがありますか?」
「朝焼けを見たことがありますか?」
かつて、俺は『年下の女の子』にそう問われたことがある。
残念なことに、そのときの俺は質問の意味なんてろくに考えもしなかった。
あなただったらきっと質問者の意図を探るだろう。なぜ相手がそのようなことを尋ねてきたのかを考えるはずだ。
そして、賢いあなたは一つの結論に辿り着くに違いない。
この問いは「単に朝焼けを見たことがあるかどうかの有無を尋ねているのではない」ということに。
申し訳ない。少々先走りすぎてしまった。
気持ちが焦るあまり勝手に話を進めてしまったから、もしかしたら本当に今話を聞いてくれている『あなた』が早々に脱落してしまっているかもしれない。
悪いのは完全に俺のほうなのだけど、もしよかったらもう少しお付き合いいただきたい。
例えばの話だが、あなたがこれまでに見た朝焼けの中で一番綺麗だったのは、何年の何月何日、どこで見たものだったか答えることができるだろうか。
質問を受けた当時の俺はおそらく答えることができなかった。
真剣に朝焼けと向き合ったことなどなかったから。
いつかどこかで見たはずの景色。
それは意識を向けていなければ印象に残らない場面として埋もれてしまう。
記憶としては存在しているのかもしれないが、それを必要なときに引き出すことはできなくなり、まるで脳の中に亡霊が棲みついたかのように「確かにあったはずだ」とかろうじて主張をするだけになる。
だからそういった意味で、俺は朝焼けを見たことがなかった。
いや、実のところ俺は未だにちゃんと朝焼けを見たことがない。
高校生のときに『彼女』に問われてから、ずっと気にしていたにもかかわらず。
でも、もうすぐそれも変わるかもしれない。
そのために、俺は今寒くて暗い夜の道を必死で歩いている。
きっと長い道中になるだろうから、ぜひ俺と一緒に来てくれないだろうか。
退屈はしないように暇つぶしのお話を用意してきた。
昔話だ。随分と昔のこと。
高校三年生の夏、受験勉強をする日々の中で体験した、とある後輩との忘れられない出会いと別れの物語。
少しは興味を持ってくれただろうか?
いずれにせよ、俺は先へと進まなければならない。時間は待ってはくれないからね。
さて、あなたはどうする?
……ついてきてくれるんだね? ありがとう。
それじゃ、歩みを進めながらちょっとずつ話していくとしよう。
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