Oh, my boy !

進藤 進

第一章 反抗期

久しぶりに息子と歩いている。


今日はパパが出張で。

創立記念日で小学校が休みになったタックンと、買い物がてら都心に繰り出したのだ。


「お昼、何が食べたい、タックン・・・?」

買い物が終わってデパートを出た時、私が聞いた。


「やめてよっ、お母さん・・・タックンなんて・・・」

顔をしかめて吐き捨てるように言う息子に、ズキンときた。


「ごめんなさい・・・」

反射的に出た謝りの言葉が、母である私の気持ちを暗くさせる。


初夏の日差しに照らされる息子の顔を、眩しそうに見つめた。

自分と同じ目線になった成長ぶりと共に。


同時に言いようのない淋しさと切なさが、体中を包んだ。

遂、最近まで私の胸の高さまでしかなかったのに。


小学校4年生までは、歩く時は必ず手を繋いでいたのに。

息子、タックンの方から当たり前のように指を絡ませてきたのに。


今は両方の手の距離以上に、タックンが遠く感じる。


一人息子。

遅くに、あきらめていた歳に生まれた私の宝物。


ずっと、パパママと呼んでいた両親の名が。

今は、父さん、母さんになっていた。


「だって、恥ずかしいんだもん」

小学6年生のタックンは俯いて言った。


世に言う反抗期は中学生くらいだと思っていたのに。

12歳で早や、親離れなのか。


「しょうがないさ、男の子だし・・・」

パパは特に気にせずに明るく慰めてくれる。


「でも・・・」

私の言葉は空中でシャボン玉のように弾けて消えた。


いい歳して、マザコンと思われたくない。

そういう気持ちと、何か夫に裏切られたようで寂しかったから。


「うぎぇーん・・・」

幼稚園で泣きながら帰ってきたタックンが、胸に飛び込んできた。


小さな温もりをギュッと抱きしめると、私の心はキュンキュン音をたてて脈打っていたのだ。

こんな愛おしいタックンをずっと、ずっと抱きしめていたかった。


そう、思っていたのに。


いつの間にか、私と並ぶくらいに背が伸びた。

元々、私の身長は人並みで高い方ではない。


夫は背が高く、いつも見上げるように話している。

タックンも遺伝なのだろうか、12歳にしては大人びた身長になっている。


だから「ママ」ではなく、「お母さん」と呼ぶことにも違和感はない。

そうだけど・・・。


やはり、少し寂しい。

休日の喧噪に包まれる街並みを歩きながら、ママではなく、母はそう思ったのである。

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