(5)

「あの……意識を取り戻されたばかりで、こんな質問をするのは何ですが……」

「へっ?」

 目が覚めると、目に飛び込んで来たのは鬼女の顔。

「貴方は会社員との事ですが、職場に何か問題は有りますか?」

「い……いえ……」

「では、カルト宗教などに入信された御経験は?」

「い……いえ……」

「妙ですね……」

「何がですか?」

「貴方の脳または精神には……暗示や洗脳にかかりやすい性質が有るようです。異常とまでは言えないにせよ、二〇人か三〇人に一人しか居ない程度のレベルで」

「へっ?」

「先程、私がかけた脳を調べる『魔法』も、平均的な人なら、ある程度の時間は『抵抗する』か『受け流す』事が可能な筈なんですが……」

「ご……ごめんなさい……心当りが無いです」

「しかし、調べてみた限り、貴方の脳の暗示や洗脳にかかりやすい性質は後天的なモノのようです。例えば、学生時代に入っていた部活が、今時、めずらしい超体育会系なモノだったとか、お勤め先が、いわゆる『理不尽企業』だったりなどの事は、本当に有りませんか?」

 うわあああああッ‼

 たしかに、その通りだ。

 「正義の味方」達に「悪」として断罪された組織の大半には……ある共通点が存在する。

 そして、それは、ウチの会社やその上部組織にも当て嵌る。

 早い話が「超体育会系」。

「あ……あの……それだと監査委員には……」

「監査委員の方は『御自分なりの意見』を持たれている必要が有ります。他の監査委員や監査対象である『特殊武装法人』側の意見・主張に唯唯諾諾と従うなら……監査委員の意味が有りません」

「は……はぁ……では、その……私は……御役御免でしょうか?」

 考えろ、考えろ、考えろ。

 ここで、「正義の味方」監査委員を馘になって会社に戻ったら殺される。

 しかし、監査委員になろうとして、うかつな事を口走れば……ウチの会社が「正義の味方」達が「悪の組織」と見做してるとこのフロント企業だとバレて……最もマシなケースでも、俺の職場はこの世から消えてなくなり、俺は露頭に迷う。

 いや……待て……俺の勤め先が「悪の組織」のフロント企業だとバレてないなんて……有り得るのか?

 だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。

 考えがまとまらない。

「貴方には2つの選択肢が有ります。1つは、このままお帰りいただく事」

「あの……もう1つは……」

「こちらの内容を良く読まれて御理解した上で、サインするかを決めて下さい。サインいただけない場合は、何もせずにお帰りいただく事になります。貴方の場合、監査委員の公務を行なう場合には、この訓練を受けていただく必要が有ります」

「は……はあ……えっ?」

 白い鬼に渡された書類の一番上には、ゴシック体で、こう書かれていた。

 「精神操作・洗脳・暗示・催眠等への抵抗訓練の受講同意書」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る