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 課長が破り捨てた通知書だが……「紛失した」と云う嘘の連絡をして、「正義の味方」監査委員会に出向く際は、公的な身分証で代用出来る事になった。

 そして、明日から俺は、公休扱いで会社を休む事になった。

 仕事は……他の奴に回された。……と言っても、本当にウチの会社にとって、誰かにやらせる必要が有る「仕事」なのかは不明だ。

 多分だが……「社員」を洗脳し服従させる為のモノだろう。

 久し振りの定時退勤。

 社員寮に返ってPCを立ち上げる。買った時点で中古で、更にそれから5年は使っている。一応は「モバイルPC」だが、最新機種に比べると持ち歩くには重過ぎるし、バッテリーもヘタっている。

 来年にはOSのサポート期間が終るが……どうやら、次バージョンのOSにはハードが対応していないらしい。

 液晶モニタには……ところどころにドット落ちが有る。そう……液晶モニタなんて旧式の代物だ。あと5年もすれば、液晶モニタは有機ELその他の後継技術に押され博物館の科学史コーナーでブラウン管や内燃機関式の自動車と一緒に余生を送る事になるだろう。

 ダラダラと書いてる小説投稿サイトに投稿した「魔法少女もの」の小説は……やっぱりPVが伸びてない。

 昔のハリウッド俳優が「いつの時代も、自分をスーパーマンだと思って毛布をマント代りにして屋上から飛び降りる馬鹿は居るモノだ」と言ったそうだ。

 座右の銘にすべき御言葉かも知れないが……個人的には若干の異論が有る。

 多分、フィクションが現実の人間の脳を侵食するより、現実によるフィクションへの侵食の方が、いつの時代も甚しい気がする……。

 同じジャンルだがPV数が伸びてる小説を読むとそう思う。

 そんな小説をUPしてるのは……多分、若くてアラフィフ。「魔法使い」以外は「魔法」が存在しているなど信じてない時代、「変身能力者」以外は「変身能力者」なんて存在していると信じてない時代、「超能力者」以外は以下同文、「妖怪系」以外に関しても以下同文。

 そんな時代を知っている人なら……たしかに「現実に似ているが、特異能力者が存在していない世界で『魔法少女』ものが書かれたら?」と云う設定の小説を堂々と書けるかも知れない。

 だが……物心付いた時には特異能力者の存在が当り前になっていた時代に生まれ……ましてや、「原理は不明だが、町1つ一瞬で滅ぼせるほどの特異能力者が実在する」としか思えない事件が何度も起きた、あの久留米が故郷の俺には……そこまで脳天気な妄想を紡ぐ事が出来ない。

 俺が子供の頃、TVから特撮ヒーローものが消え、代りに「子供向け時代劇」が放送されるようになった。

 本当に、スーパーヒーローやスーパーヴィランが存在する世界では、ヒーロー番組は生々し過ぎるモノになった。

 アメリカのMARVELは……〇〇ゼロゼロ年代に、まだ自社が映画化権を持っていたマイナー・ヒーロー・チーム「アベンジャーズ」の映画化を目論んだが……鳴かず飛ばずだった。

 そして、同じMARVELでもコミック部門は、左前になってた時に「英雄内戦シビルウォー」ってエピソードを大々的に始めたら……その途中に、現実のアメリカで「第二次南北戦争シビルウォーⅡ」が起きてしまい、そっちにも多数の「特異能力者」が投入され、現実と虚構の垣根があっさり崩れた余波で、MARVELコミックは一時的とは言え倒産した。

 なんて題名か忘れたが……「リアル路線」のバットマンものは、「リアル」過ぎたが故に逆に荒唐無稽と思われ、3部作の予定が2作で打ち切りになったらしい。映画マニアの評価は高かったそうだが、特異能力者がゾロゾロ居る事が判明した世界で、全く特異能力者の犯罪者が居ないヒーロー映画など、「リアル」過ぎたが故に、誰も「リアル」とは思わなくなってしまっていた。

 太平洋の向こうでは、アメコミ・ヒーローものの再流行が起きてるらしいが……日本の戦隊モノは当分復活する事は無いだろう。「戦隊ヒーロー」風のパワードスーツを着装した戦闘部隊を擁していた「対異能力犯罪広域警察」こと通称「レコンキスタ」の不祥事のせいで、「戦隊ヒーロー」にまでとばっちりが及んでしまい……あと一〇年は日本では新シリーズが作られる見込みは無く、戦隊シリーズのファンはアメリカから逆輸入された「パワーレンジャー」を観るしか無い。

 魔法少女も……たしかに実在していた。

 現実の魔法の修行は、結構厳しいみたいで、現場に出られるのは早くて十代後半らしいが……。

 もちろん、コスチュームを生成する魔法なんて現時点では存在が確認されていないので、魔力切れになっても、コスチュームが消える訳じゃないので、「リアル路線」の「魔法少女」ものは「お色気シーン」に制約が有る。

 更に、部外者には実態が知られていない「正義の味方」チームに所属する「魔法少女」は顔を隠している。当り前だ。認識阻害系の魔法も有るらしいが、現実の「魔法」は対生物・対霊体特化のモノがほとんどだそうだ(そりゃそうだ。クソ長い魔法の歴史の大半において電子機器も近代兵器も存在していなかったのだから)。当然、電子機器には認識阻害系の魔法など通じないので、顔を撮影されたら正体がバレるのは時間の問題で、そうなったが最後、本人のみならず、家族・友人・恋人・親類・クラスメイトに御近所の皆さんなどが危険に晒される。

 と云うか、久留米で活躍したコードネーム「大元帥明王アータヴァカ」(女の魔法使い系ヒーローの名前だ。念の為)以降、民生用パワードスーツの災害救助仕様レスキューモデルの改造機を着装する「魔法少女」も増えた。

 その手の「ヒーローチーム」に属さない、いわゆる「独立系ヒーロー」の魔法少女も居るには居るが……やっぱり、予算や人的リソースの無さは、コスチュームの外観にも影響を与える。はっきり言えば、駄目なコスプレにしか見えない場合がほとんどだ。

 あと、その手の「独立系」魔法少女の格好も……当然ながら防御や実用性は考慮されている……残念ながら。

 昔から、首輪やチョーカーをしていた「独立系」魔法少女は少なくなかった。防刃・防弾性の有る素材で出来た喉や頚動脈を保護するれっきとした「防具」だったが……。

 靴も可愛い系のモノじゃなくて、歩いたり走ったりし易いモノ……。金がないらしい「独立系」魔法少女の中には、可愛い系の衣装に、靴だけ実用性重視のスニーカーやウォーキング・シューズだったりするのも少なくなかった。場合によっては軍用や警察の特殊部隊用のブーツを履いてる「魔法少女」も居て、それはそれでフェチなファンが一定数居たが。

 そして、俺の故郷である久留米を中心に活動していた御当地ヒーローである「悪鬼の名を騙る苛烈な正義の女神」ことコードネーム「羅刹女ニルリティ」のせいで、「独立系」魔法少女のコスチュームから「ミニスカ&生足」が一掃された。

 女としても小柄で「無茶苦茶強い非特異能力者」でしかない「羅刹女ニルリティ」が、プロレスラー並の体格の大男を倒す場面が動画サイトにUPされた事が直接の原因だった。

 倒した方法は……大腿動脈切断による大量出血と、それに伴なう失神。……あっと云う間に少なからぬ「独立系」魔法少女を含めた生足を出してた女のヒーローも悪党も、防刃繊維製のタイツで太股を護るようになった。

 萌えオタにとっては哀しい事に……現実には、「格好いい魔法少女」は居ても、「お色気たっぷりの魔法少女」や「萌え系魔法少女」は実在しない。

 そりゃ、小説投稿サイトの小説や、オタク向けアニメでも……格好いい系「魔法少女」はともかく、萌え系「魔法少女」やお色気系「魔法少女」が廃れてしまったのも仕方ない。

 書く方も現実に脳を毒されているのが多いので……堂々を嘘を吐く事が出来なくなり、判る奴には「作者が自分が生み出した『物語』や『キャラ』を『信じて』おらず、テンプレ通りの粗筋やキャラにするしか無い」のが丸判りになりつつ有る。俺も含めて……。

 やれやれ……PV数増やす為に……異世界ものか時代劇ものにジャンル変更した方がいいのかも知れない……。

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