幻覚彼女
シィータソルト
第1話
カリカリとシャーペンを走らせる速さが遅くなる。ウトウト……ウトウト……と微睡む意識。
「はっ!!いけない。寝ちゃうところだった。もう少し……このページが終わるまで頑張らないと」
徹夜で高校受験の勉強に励むこの女の子は水野心。勉強が苦手であるが、どうしても進学したいという公立清蘭高校への憧れから、偏差値30くらいの心に担任から違う高校に進学するよう三者面談でのアドバイスをされたがそれを跳ね除け、偏差値65のこの高校に進学するのだと宣言した。担任は呆れていたが、私立はせめて自分に合う滑り止めを受験しろと伝えられ、面談は終えた。そして、私立は先月に受験を終え無事合格を果たし、今は本命である公立清蘭高校に向けて勉強に励んでいる。
「先生にも、家族にも絶対合格するんだって宣言したんだ。将来に向けても何になりたいかはまだ未定だけど、勉強はできるに越したことはない。やり遂げるんだ、私」
コンコンと心の部屋をノックする音がする。
「心、まだ勉強しているの?そろそろ寝ないと体調崩すよ」
「うん、このページ終わったら寝るから、お休みなさい、お母さん」
「無理しないのよ、お休みなさい」
母親は隣にある部屋へと入っていった。
「よし、あと少し。答え合わせしたら終わりだ」
答え合わせの結果、全問正解。
「やった、勉強していたら正解率が上がっている。努力が結果に出て嬉しいな」
そして、凝り疲れた体を伸ばす。
「うーん、今日はここまでにして、また朝勉強しよう」
現在、0時過ぎ。目覚まし時計を4時に設定してベッドに入り部屋の電気を消した。
だが、目を閉じても睡眠状態にならない。目が冴えてしまっている。
「眠れないから、勉強しよう。そうだ、落ちるわけにはいかない。私はここに合格するんだから。皆よりバカだから皆より一層勉強しないといけないんだから」
心は部屋の電気をつけると、机に向かいだした。結局一睡もせず朝を迎えることとなる。太陽光がカーテンのすき間から射し、心は慌てる。
「嘘!?もう朝!! 今何時だ!?! 6時! 朝ごはん食べて学校行く支度しなくちゃ!!」
制服に着替え、1階の茶の間に向かう。
「おはよう、よく眠れた?」
「おはよう、いや、結局眠れなかったから勉強してた」
「まぁ……頑張っていることは良いことだけど、本番で体調崩さないようにね……今日、学校休む?」
「いくら、受験シーズンで自習だからって、休むわけにはいかないよ。いただきます!!」
母親が用意してくれた朝食を急いで流し込み、身支度を整えて、通学路へ着く。
「おはよう、今日も寒いね~」
「おはよう、寒いね~。公立受験までもう少しだね~」
「だね~」
同級生と合流し、挨拶を交わし、共に学校へ行く。
学校へ着き、しばらくして、ホームルームが始まる。と言っても、受験生の担任から発せられる言葉は、受験のことばかりだ。最後まで諦めないこと、体調を崩さないようにすることだ。時間割は、各自勉強したい科目の自習となる。皆、無言でノートやルーズリーフにカリカリと回答を書いている。心もうつらうつらと眠気を堪えながらも、問題を解いていく。今日も絶好調。いよいよ今週の土曜日が試験日。周りも心と同じように志望校合格に向けて勉強している者ばかり。居眠りをしている者はいなかった。40人いるクラスだが、皆、志望校に合格できますようにと願いながら心もシャーペンを走らせていく。
いよいよ、受験日前日の夜。最後の追い込みをかけていた。長時間ノートに向かって凝った体を伸ばしていると、
「早く寝なさい。でないと明日の試験で眠ってしまうよ」
という声が。母親でも父親でもない声。誰だろう?聴いたことない女性の声だ。周りを見回しても、耳を澄ませても声の主がわからない。何だったのだろう?疲れているのだろうか。もう今日はまだ22時であるが寝ることにした。寝坊しても困るし、勉強は今までやれることはやってきた。明日、その成果を発揮するだけ。受験では、目覚めパッチリで、答案はバッチリだったと思う。
そして、合格発表の日。
「やった~!清蘭高校合格したよ~!!」
受験結果発表の日の午後、心は母親と共に志望校合格したことを喜んだ。
だけど、受験日までは、連日徹夜で勉強をしてこの結果発表まで結果がどうなるかとハラハラしていて精神的にやられていた。もうフラフラだ。合格に浮かれる者、不合格で嘆く者の集団から何とか抜け出し、家路へと着く。
制服のままベッドへ横倒れると寝てしまった。合格したという安堵感から深い眠りに入った。だが、聴こえるまた謎の女性の声。
「合格、おめでとう!念願の清蘭高校へ行けるね」
そして、目の前にその姿は現れた。黒髪ツインテールで心と同じくらいの背丈だ。ストレートにしている心に対して、ツインテールの少女は、幼く見える。
「私、夢華。これからずっと一緒だよ」
というところで目が覚めた。声の主が、夢に現れた。これはもしかして正夢になるかも。友達になる子かもしれない。なんだか、親友にもなれそうな気がする。予知夢を見れたような気がして、高校合格だけではなく、かけがえのない親友もできたのではないかと浮かれた。そこへ、
「心ー今日は、心の好きなもの一杯作ったわよー。早く下りてらっしゃい! 今日はお祝いよ!!」
「はーい!」
心は、ウキウキしながら1階へ下りていく。テーブルには心の大好物の料理が並んでいた。手を洗い、席に着く。
「いただきまーす!!」
「その前に、心、志望校、合格おめでとう!乾杯!!」
父親は仕事でいなかったから、母親と一緒に御馳走を食べた。
「ごちそうさま~!! とっても美味しかった」
「それは良かったわ。心が頑張ったからよ。高校でもこの調子で頑張ってね」
この高校を合格できたのは、受験生になってからだけど毎日遅くまで勉強していたから。睡眠時間を削って、頑張るということを継続しなければならないということだ。体がもつだろうか。でも、進学校に進学したんだ。勉強しないとついていけない。もっと勉強時間増やさないといけないかもしれない。なんだか不安になってきた。進学校だったら遊びより勉強が優先なのかな。休み時間もお喋りじゃなくて、教科書と向き合わなきゃいけないのかな……成績がひどい時、お母さんもお父さんも厳しかった。時には手も上げられた。だから、こうして成績が上がって、褒められているのが嬉しかった。小学生の時は並、中学生になって落ちこぼれとなり、両親は心の成績のことで頭を抱えていた。しかし、塾に通わせる経費はなく、自主的に、だけど、監視的に勉強をさせていた。小説や漫画を読むこと、ゲームすることが好きであったが、中学生になってからは取り上げられてしまった。高校生になったら返してくれるかな。それとも高校生の成績次第なのかな。漫画もゲームも続編でているから気になるし。
歯を磨き、ベッドに横になる。目を瞑ると、すぐに夢の中へ。
「さっきの御馳走、私も一緒に食べたかったなぁ~」
「えと、夢華ちゃんだっけ? 分けてあげたかったけど、まだ直接会ったこともないし……高校できっと、私達、会えるんだよね?」
「いや、もうすでに会っているじゃん!! まずは夢の中だけど、その内、現実でも会えるよ!」
「そっか! やっぱり私達、友達になるんだね!! 今から楽しみだよ。同じクラスになれるかな??」
「それはどうかな……?ふふふ」
「そっか、違うクラスだとしても、部活仲間とかという場合もあるか! そういえば何部に入ろうかな??」
「ふふふ、別に悩まなくてもずっと一緒だって、言っているのに……」
「え、だから、それって同じクラスというい……み……」
というところで朝を迎えた。
「結局、夢華ちゃんって、私の夢の中の人物なのか、実在する人なのかわからないなぁ。春休みに高校の入学説明会があるし、その時に会えるかな?」
夢華に会えるかもしれない入学説明会の日。春休み中はまだ中学生として在籍中なので、中学の制服で。早く高校の制服着たいな。セーラー服だから。中学はブレザーだったからね。
「わぁ~部活も活動しているなぁ。見学することもできるんだ。あ、そうだ。教科書貰いに行かないと。その後に入学に当たっての説明聴いて、それから部活の見学ができるね。夢華ちゃんにも会えるかな」
「私はあなたとずっと一緒に居るよ」
「わぁ!!」
そこには、高校の制服を着た夢華が居た。
「あ、そうか。同い年じゃなくて、先輩という場合もあったか。えと、初めまして。夢華さん……でよろしいでしょうか?」
「そうだよ。私達、同い年だよ。だって、あなたと私は同じ時を生きているんだから」
「え???とにかく、同い年なら、夢華ちゃん……でいいかな?それに何で高校の制服着ているの?今日はまだ中学の制服を着なくちゃいけないんじゃ……」
「ま、細かいことは気にしない気にしない。間違いは誰にでもある!」
「あはは、夢華ちゃん、面白い。てっきり先輩かと思ったよ」
「ほら、急がないと」
心達は教科書を貰いに行った。だけど、夢華は、貰っていなかった。
「どうして、夢華ちゃんは貰わないの?」
「え? 必要ないから??」
「そんな……勉強どうするの???」
「心ちゃんがきちんとしているかどうか見ててあげる」
「え? 私任せ???」
「だって、あなたと私は同じ時を生きているんだから」
「また、その言葉……どういう意味……?」
ふと、目を逸らした隙に、夢華は消えた。
「え、どうして?夢華ちゃん、どこに行ったの!?」
頭で疑問に思いながらも、説明会の時間がもうすぐだ。その後の部活見学の時にまた会えるだろう。説明会の話を聞き、いよいよ、部活見学の時間となった。その頃になり、夢華がまた突然現れた。
「夢華ちゃん、どこに行ってたの? 私を置いて先に説明会に行ってたの?」
「え? ずっと、心ちゃんの側にいたよ?」
「どういうこと?」
からかっているのだろうか。だけど、夢華の顔は何を言っているんだ?と逆にこちらがどうかしているみたいな目を向けている。
「もう~だから、ずっと一緒だってどんな時も」
「じゃあ、何でさっきは姿が見えなくなって……」
「疲れてたんじゃない? ほら、説明会も終わったし、部活見学に行こうよ」
「ん~? なんか納得できないけれど、行こうか」
本当にどこへ消えていたのだろうか。近くにいたって言うし。後ろにいたのかな……でも、360度周囲を見回したというのに見当たらなかったというのに。
部活見学をした結果、中学でも入っていたテニス部に入ることにした。同じく入っていた同級生も見学に来ていたからもしかしたら、また一緒にテニスできるかもしれない。
さて、部活見学も終わり、帰宅した。風呂を済ませて、夕食を食べて、ベッドに入った。本当は教科書も貰ってきたし、高校の予習をするべきだろうけど、疲労が半端ない。そのまま眠りに落ちた。
「ねっ、現実でも会えたでしょ? 心ちゃん」
「夢華ちゃん、結局、あなたは何者なの?」
「何者って……友達だよ」
「友達なの? じゃあ今日何で突然消えたりしたの? ずっと一緒じゃなかったの?」
「心ちゃんが疲れていると、私の姿ぼやけちゃうんだよね」
「どういうことなの? 幽霊なの?」
「幽霊ともまた違うんだよね……今度、現実で私に会ったら触ってみて。熱を持ってるから」
「え、じゃあ生きているってこと? ますますわからない」
「まぁ、とにかく、心ちゃんの友達だよ、忘れないで」
「私も夢華ちゃんのこと、何だか特別って思えるから友達だよね。ありがとう、友達になってくれて」
春休みはずっと寝て過ごしていた。今までの受験の疲れがどっと出たのだろう。ご飯、風呂も時々忘れる程、寝ていた。けど、両親はこの時、疲れているだけだろうと病院には連れていかなかった。
いよいよ、高校、初登校日。
セーラー服に袖を通し、自転車で通学路に着く。いよいよ、高校生か。結局、予習しないでこの日を迎えてしまった。今日は始業式だから良いけど、明日からは早速授業が始まる。不安が募る。
「おはよう、心ちゃん」
「おはよう、夢華ちゃん」
夢華は自転車に乗っている心の左隣を飛んでいた。
「やっぱり幽霊!? 飛んでる!?!?!」
「よそ見運転は良くないよ。前見て!」
「うわぁ! 危なかった!! あやうく人を轢くところだった……」
「ほらね」
ぽんっと、夢華の右手が心の左肩に置かれた。確かに、昨日言っていた通り、温かい。それに触れられている感覚もある。今、信号待ちをして手持ち無沙汰になっている間、置かれている手にそっと右手で触れてみる心。
「温かい。だけど、飛んでる……生霊???」
「だから、幽霊じゃないってば。ところで、私と会話する時は周りに誰もいないところの方が良いよ。独り言大きい人みたいに注目されちゃうよ。もしくは、電波で痛い女の子扱いかも」
「あ、そうだね……」
何人かが心を見ていたが、黙ったのを見て前を向いた。信号もちょうど青になった。10分くらい走って、高校に到着。高校は中学校の隣にあるのだ。心は地元の進学校に進学できたのだ。実は実家から近いというのも志望理由でもあった。通学に使う時間を少しでも勉強に充てる為だ。名簿一覧が配られ、自分の名前の横に所属教室がどこか書かれていた。1年A組のようだ。1階にある1年A組の教室に入っていく。
「おはよう」
挨拶しながら教室に入ったが、まだ少数の生徒しかいなかった。しかも女子は誰1人いない。席は、縦5席、横8席で並んでいた。出席番号順に座るようにと黒板に書いてあった為、朝の名簿で見た通り、38番。教室の扉側一番端で、後ろから2番目だ。仕方ない。勉強でもしているか。と、今日は必要ない数学の教科書を取り出して、予習をしていた。途端に具合が悪くなった。何だ?視界がぐるぐる回る。
「心ちゃん!! 保健室行こう!!」
夢華が保健室に行こうと提案してくるも無視して、机に突っ伏していた。保健室の場所わからないし、初日から病人としてクラスメイトに認識されるのが嫌だから。
「おはよう」
隣のクラスメイトが来たようだ。心に挨拶しているように聴こえたので、頭を上げて
「おはよう」
と返す。女子だった。やっと来たんだ。
「今日から同じクラスだね。よろしく、私、水野心」
「あたしは、橋田愛、よろしくね、水野さん」
「心でいいよ」
「じゃあ、心、よろしくね。あたしのことも愛でいいよ」
「わかった、よろしくね、愛」
やった、さっそく友達ができたと浮かれる心。だけど、話を続けようと思ったが、体調が優れず、また机に突っ伏してしまう。
だけど、何だか外の空気が吸いたくなってきた。HRまで時間はある。ふらふらとした足取りで、教室の外へ出る。向かう先を決めていないけれど、その足取りは屋上に向かっていった。
屋上の鍵は開いていた為、あっさり入ることができた。塀の所には鉄格子があり飛び降り対策が施されている。ただ、そこを見ているとなんだか飛び降りたい気持ち駆られるのだ。
「心ちゃん、そちらに行ってはダメ。教室に戻りましょう」
「……わかった」
何で、急に死にたくなったのだろう……? わからないまま、心は教室に戻る。時計が8時を指していた。
後5分でHRが始まる。屋上に行っている間にクラスメイトは全員揃っていた。
「心、どこ行っていたの?」
「外の空気吸いたくてちょっと屋上に」
「え、屋上開いていたんだ、じゃあ、これからお弁当食べる時、屋上へ行こう! ってか、屋上行くならあたしも誘って欲しかったなぁ」
「ごめんごめん、今度は一緒に行こう」
「おはよう、水野さん、私は渡辺文。愛と同じ中学なんだ。よろしくね」
「よろしくね」
後の席から声を掛けられた。愛はいいな。同じ中学出身の子が近くに居て。心はクラスが離れてしまった。休み時間になったら会いに行こうかな。
始業式が終わり、帰りのHRも終わり、授業が無い為、午前中で帰途に着く。愛達は電車通学で反対方向なので、朝同様、1人で下校する。家に着き、普段着に着替え、ベッドに座ると、隣に夢華が現れる。
「そういえば、クラスに居た時、誰も夢華ちゃんに挨拶しなかったね」
「うん、だって、私の姿、心ちゃんにしか見えないもの」
「だから、HR中にふらふらと歩いてても注意されなかったのか」
「私の正体わかった? 今日触れてきたけど、生きているみたいでしょ!」
「ますますわからなくなった。教えてよ」
「私の正体はね、お医者さんに聞いた方良いよ。そうすればわかる」
「え、何科の先生?」
「それは……」
「心ー。昼ご飯よー」
「あ、はーい!」
「じゃあ、夢華ちゃん、この話はまた後でね」
心は昼ご飯を食べに1階へ下りていった。昼ご飯を食べ終わっても結局、夢華は正体を教えてくれなかった。
次の日。今日からもう授業は始まる。だが、授業中に、心はまたも具合が悪くなったのだ。目立ちたくなかったが、我慢が出来ず手を挙げて
「先生、体調が優れないので保健室へ行ってきます」
「おぉ、水野か。朝から具合悪そうだったものな。行っておいで」
「あの、水野さんの付き添いします」
「ああ、橋田。頼む」
先にフラフラと歩く心の後ろを愛が追いかける。愛は心に肩を貸した。
「ありがとう、愛」
「どういたしまして。って、心。こっち保健室の方向じゃないよ?」
「屋上に行きたくて」
「空気吸いたいの? 仕方ないなぁ」
心と愛は屋上へ向かう。
「わぁ、屋上から良い眺め。これならお弁当食べてる時、楽しい気持ちで食べられるねって……心!?」
心は鉄格子を上り始めようとしていた。
「あ、いけない。心ちゃんが死ぬ前に私がなんとかしなきゃ」
いつの間にか現れた夢華はとんかちを取り出し、それを心の後頭部に思い切り叩きつけた。
「痛!?」
そして、崩れ落ちる心。それを支える愛。心は白目を向いて気絶していた。
「保健室の先生呼んでこなきゃ。待ってて、心!」
愛は駆け足で保健室に向かった。
心が目を覚ましたら、ベッドの上だった。周りを見回すとどうやら病院のベッドらしい。
手に握られていたナースコールに、「目を覚ましたらナースコールでお呼びください」と書いてあるメモが貼ってあったので、ナースコールを押し、看護師を待った。
「水野さん、目を覚ましたようですね。白目向いて気絶していたので、CTとMRIの検査をしましたが異常はなかったです。あと、当てはまるとしたら、精神科の急性症状ですね。心辺りはありませんか?」
「精神……ってことは私、ストレスで参ってしまったってことですよね?」
「そうです。高校生になって緊張していたとかでしょうか」
「いえ、私、勉強が苦手で、受験生になってから今の高校に入学する為に徹夜で勉強している日々が多かったんです。きっと、勉強疲れだと思います。あと、私にしか見えない女の子が見えます」
「まぁ……先生に報告しないと。おそらくですが、統合失調症の陽性症状が出てしまったと思われます」
「とうごうしっちょうしょう?」
「はい、精神疾患の一種です。陽性症状では、幻覚や幻聴がでます」
「あぁ、まさにそうだ。春休みに幻聴が聴こえて、それがやがて幻覚になったんです」
「そうでしたか……では、今、先生を呼んできますね」
15分後、担当医がやってきた。
「看護師から事情を聴きました。統合失調症の治療をしていきましょう。そうそう、看護師から聞いているかもしれないけど、幻覚が見えているってことは、陽性症状が出ているということです。なので、食後にこの薬を飲んでください」
「私、精神疾患になってたんですね。だから、毎日辛かったんだ。あの、先生。実は学校の屋上から飛び降りようともしたことがあるんです」
「それも、君の事心配していた友達から聞いたよ。余程、追い詰められていたんだね。勉強は無理しない程度にして、夜はしっかり寝ること」
「はい」
治療が早い段階で行われたことや、家族、友人、学校の理解があることにより、心の回復は早かった。夢華は今では見えない。最後にはこんな言葉を残して去って行った。
「そう、私、夢華は心ちゃんが生み出した幻覚。あなたが死なない為に生み出された抑制装置。また、私と会うことがないように、どうかお元気でね。心ちゃん。さようなら」
幻覚彼女 シィータソルト @Shixi_taSolt
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