第11話 逆転を信じる

明輝弘の逆転タイムリーが出て3対2となった。

 マウンドには立松を囲う様に選手たちが集まっており話をする


「完璧に打たれたな」


「あぁ 正直ナメてたわ」


「むしろスタンドに入って無いだけラッキーだよ 入ってたら2点差だしな 1点差なら逆転の可能性は十分にある」


 そう話しながら立松を見るキャッチャーの選手

 その視線は集まった選手全員が立松へと向けられると、立松はフゥっとひと息吐き話を始める。


「わりぃ この失点は俺のせいだ だからよ、この回このまま終わらせて逆転しようぜ」


 立松の言葉に選手らはニヤっと互いに笑みを見せ合うと、円陣を組み出し1人の選手が叫び出した。


「よっしゃ!守るぞ!!」


『おう!』


 円陣が崩れていき選手らは守備位置へと戻って行く。

 マウンドに引き続き立つ立松の表情は先程の動揺を感じさせない顔つきに変わっていた。


ギィィン……


「あぁ もうー」


 5番堀に対して立松はストレートで押していく。

 フルカウントまで粘った末に、立松渾身のストレートは堀のバット根元で当てさせ内野ゴロに打ち取った。


「よっしゃ!」


「ナイピッチ!!」


 追加点を与えなかった愛知明工

 そして点差を広げる事が出来なかった聖陵学院


 試合は、2回と3回の点の取り合いから一転して投手戦を見せていく

 序盤立松にホームランからの後続打者にタイムリーで2点を失った秀樹だが、逆転してもらった事で落ち着きを取り戻したのか安定感のあるピッチングで愛知明工打線を抑えていく。


 また聖陵学院打線は、3回表の逆転劇以降快音が聞こえない。


 そして迎えた4回裏の愛知明工の攻撃

 先頭打者として立松が打席に立つ。


「立松ー!頼む!」


「同点ホームラン打っちまえー!」


 打席に立つ立松の背中を押す様にベンチから声が飛ぶ。

 その声に応えるかの様に立松は堂々と大きくバットを構える姿は威圧感たっぷりだ。


(ヒデ、徹底的に内で攻めていこう)


 竹下のリードは強気のインコース攻めに対し、秀樹はコクリと大きく頷く。

インコースに構える竹下のミット目掛けて秀樹はボールを投じる。


「おらぁ!」


カキィィン……!!


「え?」


 思わず言葉を溢した竹下。

 インコース足元へのボールに対し立松は掬い上げる様なバッティングを見せる。

 金属音を残してレフト方向へ上がる打球にレフトの青木が追っていく。


「かぁー!タイミング早かったか」


 悔しそうにする立松。

 打球はそのままレフトファールゾーンへと切れていく当たりとなった。


 しかし、タイミングが合えばそのままスタンド一直線であっただろう打球に竹下は背筋が凍る思いを感じた。


(少しでもタイミング合ってれば確実にホームランだったって事かよ)


 立松の打撃に恐ろしささえ感じてしまう竹下。

 だがマウンドの秀樹に目をやると、彼の目は恐れてはいなかった。


(ヒデ なるほど まだ諦めるのは早いってか)


 決して諦めていない秀樹の目に竹下は安心感を感じる。

 エースが諦めていないのに自分が諦めていられないという思いに駆られた竹下は目を瞑りながら深呼吸をする。


(よし ヒデ、コイツを打ち取るぞ!)


 竹下の表情が変わる。

 その顔を見て秀樹はうっすらと笑みを見せる。


(流石竹下 お前は自信に満ちた顔が1番だよ それの方が、俺にとって信頼して投げれる!)


振りかぶり2球目を投じた秀樹。

 その投じられたボールは再びインコースに構えた竹下のミット目掛けて投げ込まれた。


「ストライク!」


(お?球威が強くなってきた?)


 力のこもったボールを見送る立松。

 その彼の顔からは、楽しみに満ち溢れた笑顔が溢れだす。


(面白え 面白え 面白え!燃える!この状況!)


 今日の試合が始まってから立松にとって楽しく、そして燃える展開となったであろう秀樹との勝負。

 3球目、4球目と秀樹の投じるボールをファールにすると立松の顔からは笑みが消えることはなく、むしろ更に強くなっていた。


(すげぇピッチャーと対戦が出来るこの喜びは最高だ!)


 準決勝の土屋との対戦。

 そして今回の秀樹との対戦に、立松は心躍らせた。


(全国に出れば、もっと多くの投手がいる チームもある こんな楽しみが詰まった野球を、辞めらんねぇよなぁ!)


 バットを大きく構える立松に、秀樹も表情が笑みへと変わって行く。

 久しぶりに味わう強打者の威圧感。

 ピッチャーとしてはこれ以上にない楽しみだろう。


(ホント全国って広いよな 立松より凄い打者がまだまだ多く居るんだよな 俺は、その舞台で更に進化していきたい!)


 秀樹もまた立松との勝負を通して、強打者と対峙する楽しみを見出していた。

 そんな2人の思いがぶつかり合う5球目が投じられた。


(これで…)


(この1球で…)


((決める!))


 秀樹の投じたボールはインコース高めへのストレート。

 そのボールに対し立松はフルスイングで打ちに行く。


ガキィィィン……


 金属音が球場に響き渡る。

 立松の弾き返した打球はセンター右方向へと舞い上がり、秀樹は打球の方向を見る。

 打った立松もバットを放り、走り出しながら打球の行方を追う。


「クソ……」



 そう悔しそうに言葉を漏らす声。



「力負けだ」


 そう続けて言葉を漏らすのは立松。

 打球は角度は良かったものの、次第に失速していくと落下地点へと着いた俊哉のグラブの中へと収まった。


「アウト!」


 立松と秀樹の2度目の対決。

 結果は立松のセンターフライとなり、2回目は秀樹が勝ちとなった。


「おっしゃ!」


 マウンド上でガッツポーズを決めながら降りて行く秀樹にベンチやスタンドから拍手が注がれる。

 聖陵学院の1点リードのまま試合は中盤から終盤へと進んで行く。


 次回へ続く

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