青色の下で・・・Third season

第9話 愛知明工ペース？

　秀樹の投じたボールはカーブ。

　コースもアウトコースいっぱいに決まる自分自身でも完璧と言えるほどのボールだった。

　しかし

　打席に立っていた立松は、そのボールを捉えるとカキィィンと快音を残しながら打球は空を舞い上がり勢いが失うことなくスタンドまで運ばれて行った。

「あれが届くんかよ……」

　そう思わず呟く秀樹の表情は苦笑いをしていた。

　むしろ笑うしかなかった。

（カーブをあそこまで、しかも強引に引っ張ってスタンドまで持っていかれると……正直ショックがデカい）

　自信のあったコースへのボールを簡単にスタンドまで運ばれたことへのショックを隠せない秀樹だが、ここは切り替えていくしかない。

　打席には五番打者が入り、秀樹は竹下のサインに頷くと初球を投じる。

「ボール！！」

　インコースへのボールが外れてしまいボール。

　続く２球目も高めへ行ってしまいボールとなると、竹下は小さく首を傾げながらボールを返す。

（少しコントロールが乱れてるな　やっぱホームランが残ってるのか？）

　マウンドへ行って言葉がけをしたいところだがタイムの回数は限られており、竹下本人の判断でここではないと判断をする。

　気持ちを整えてほしい事を願う竹下だが、そんな彼の意思をかき消すように愛知明工打線が襲いかかる。

　カキィィン……

「うぉ……」

　３球目のアウトコースへ甘く入ったストレートを弾き返されると三塁線を抜けていくヒット。

　打った打者は一気に二塁へと到達した。

「ヒデ！落ち着いていこう！！」

　大きな声を張り上げながら檄を飛ばす竹下に秀樹は右手を挙げて応える。

　しかし、愛知明工打線が更に勢いを増していく。

カキィィン……

　６番打者は送りバントを決められ一死三塁とピンチを作られると、７番打者に対してはフルカウントまで粘られた結果甘く入った変化球を弾き返され三遊間を抜けていくヒットを打たれてしまい三塁ランナーがホームを踏む。

「２点目！！」

　立松のホームランと連続ヒットで２回裏に２得点を入れる愛知明工。

　大盛り上がりのベンチ。

　球場中の空気が完全に変わっており、愛知明工側へと傾きかけている。

「まずいな……」

　ベンチで顎を手で触りながら難しい表情を見せる。

「橘と長尾。ブルペンで用意しとけ」

「はい！」

「は、はい！」

　指名を受けた廉と長尾が返事をしてベンチから出るとブルペンへと向かう。

　その様子をグラウンドの選手らも見ており、投手交代も視野に入れているというベンチの思惑を受け取る。

（この愛知明工ペースを切り替えるには投手交代が最善と言えば最善だけど‥‥　ヒデの気持ちを考えれば、ここで交代はダメージがデカすぎる）

　竹下がベンチの動きに対し一定の理解を見せるものの秀樹の事も考えれば、すんなりと受け入れる訳には行かない。

（この回をどうにかしないとな）

　キャッチャーとしての責任も感じる竹下。

　秀樹を活かす為にもこの回の守備を上手く収めなければならないのだ。

　一死一塁。

　打席には７番打者が入る。

「さぁいこうぜ！！」

「おぉ！！」

　ベンチからの言葉に背中を押されるように打者はバットを大きく構える。

　皆が打てるんだから自分も打てる。

　そう言い聞かせているような堂々とした打席での佇まいだ。

「ファール！！」

　７番打者はフルカウントまで粘られ、なおもファールで粘る。

　その後も粘られる秀樹は、大きく息を吐きながらマウンドに立つ。

（そろそろ‥‥終わらせてくれ！！）

　投じられたこの打席での９球目。

　秀樹の投じたボールはインコースへの投げ込まれるも、打者は自信を持ってバットを振り抜いてくる。

　カキィィン‥‥

「センター返し‥！！」

　はじき返した打球はピッチャー秀樹の足元を抜けていく痛烈な打球。

　秀樹と竹下はヒットを打たれたと覚悟しただろう。

　だが、彼の後ろには信頼のおける守備陣がいたのを忘れていた。

「な、にぃ！？」

　痛烈な打球に腕いっぱいに伸ばした逆シングルで捕球をしたのは山本。

　打球に素早く反応した山本のグラブに吸い込まれるように捕球がされた事に球場からワッと歓声が上がる。

　そして反応をしていたのは山本だけではない。

「宮原！」

　逆シングルで捕球をした山本は、そのまま手に持ち帰る事無くグラブから直接ボールを投げるグラブトスを見せる。

　そのグラブトスをした方向には待ち構えていたように宮原がグラブを構えていた。

「ナイスです山本さん‥‥！」

　山本からのグラブトスを受け取った宮原は、流れるような動きで二塁ベースを踏みながら一塁へ送球。

　待ち構えていた明輝弘のグラブに送球されたボールが収まると、一塁塁審の腕が高々と上へ挙がる。

「アウト！！チェンジ！」

「よっしゃ！！」

「ナイス！ナイスナイス！」

　マウンドから降りていく秀樹がガッツポーズをとり、竹下もガッツポーズをしながら立ち上がりベンチへと戻っていく。

「山本！琢磨！ナイス連携！！」

「おう」

「山本さんのお陰です　完璧なトスでした」

　ベンチへ戻ってくる選手らが喜びを見せながら山本と宮原を褒めたおす。

　愛知明工にむきかけた流れをこの回は抑えることが出来た聖陵学院は、逆に流れをこちらへ向けて行きたいところ。

　しかし、マウンドに立つ立松のストレートに糸口が見えない。

　三回表の聖陵学院の攻撃。

　８番青木と９番山本は共に空振り三振を喫してしまう。

　二死となり打席には先頭に帰り俊哉が入る。

「トシ！頼むぞ！！」

　ベンチから秀樹が檄を飛ばす。

　その声に俊哉は無理むかずとも、背中でしっかりと受け取る。

（わかってるよヒデ　取られた分を絶対に取り返してやるからな‥‥）

　秀樹だけに苦しい思いをさせる訳には行かない。

　その思いがバットに通じたのだろう。

　立松の投じた初球を俊哉が振り抜くと、バットを芯を捉えた打球が左中間へと飛んでいく。

「うぉ‥マジかよ！？」

　打球の方向を振り向きながら思わず叫ぶ立松。

　俊哉の放った打球はグングンと伸びていき、俊哉が一塁方向へ走りながら叫んだ。

「行けー！！」

　次回へ続く。