プリンと戦う異世界冒険記
ろぅ
第1話 始まりは突然に
あぁ、こんなことなら、コンビニプリンじゃなくて高級と噂のプリン研究所のにでもしておくんだった…。
鈴代
●◯●◯●◯●◯●◯
遡ること1週間。
それは、2つ違いの兄からの"お願い"としてやってきた。
「じゃぁ、クエストっていうのを1個終わらせればいいの?」
私は冷蔵庫にあった今日の分のプリンをお皿に出しながら兄に聞いた。
「そそ。クエは俺が良さそうなの見繕うし、蛍はホント、インしてついてくるだけでいいから。」
兄は人のプリンを一口せしめようとスプーンに手を伸ばしながら言った。
その手をぺちんとはたき落としながら、考える。
やることは、ゲームのキャラクター作成と兄についていくこと。作成は手間だがクエストとやらを合わせても正味30分ほどで終わるお願いだろう。それでコンビニプリンの勝手ながらランキング1位と認定している濃厚なプリン(200円ほど)なら、まあ悪くない話か。
今年大学生になった兄はバイトもできるしお小遣いが値上がりしたからいいが、バイトのできない高校生の私では手を出しにくいコンビニプリン。ぷるぷると震える黄色、それだけでも美味しいが、口に変化をもたらすこんがりしたカラメルソース。あぁ、プリンよ、あなたはどうしてプリンなの?毎日食べても飽きないこの至高の甘味を、だがしかし実際毎日食べるためにはコスパを考えスーパーで買うしかないのである。
「いいわ。その代わり、濃厚プリン忘れないでよ、お兄ちゃん?」
「あぁ、もちろん!蛍ありがとな!」
ふふふ、これでなんたら石がうんたらかんたら、と自分の世界に入っていった兄を眺めながら、私は目の前のプリンを満喫することにしばし注力した。
●◯●◯●◯●◯●◯
カシャッ!
自分をスマホのカメラで撮影してゲームに読み込ませてから早速プリンのための"お仕事"に取り掛かる。
「髪は茶色でー、服は黄色がいいなー♪」
「いや、服はキャラメイクでは選べないから…」
「ちぇー。じゃぁ金髪に茶色の帽子がいいかなー。」
兄が横で苦笑しているのを聞きながらさくさくキャラメイクを進める。
「うーん、職業かー。弓とかかっこいいなぁ。お兄ちゃん剣士って言ってたよね?せっかくなら違う職業が面白いかなー。」
こういうのは、直感が大事なのである。
とりあえずパッパッと決めていってキャラメイクを終わらせると、使っていたスマホをゲーム専用接続板に載せた。
このゲームは『Hello WORLD online』。
先ほどまでのようにスマホで操作することもできるが、人気なのはフルダイブもできること、らしい。
専用の接続板と呼ばれる充電器も兼ねたトレイのようなものにスマホを載せ、これまた専用のイヤホンとアイマスクをつけると自分のキャラクターとしてゲームの世界に降りたてるのだそうだ。
シュワン、とでもいうような音がした後、目を開けるとそこは中世の街並みのような場所だった。
「蛍!」
少し離れたところから兄に似た人物が駆け寄ってきた。
昨今の外出規制による人との関わりの激減という問題を受けて、このオンラインゲームでは代わりの交流の場になればと自分の髪色以外は現実通りの姿になるように制限しているらしい。まあ、髪色なら現実でだって染めたら変えられるもんね。
「ここでは、フローライトだよ、お兄ちゃん」
交流のために本名でプレイしてもいいそうだが、みんな今までのゲームの流れなのかキャラクターネームを使っていると聞いたので私もせっかくなのでネームをつけていた。
「あぁ、悪い悪い、フロー。
じゃぁ、早速だがクエを受けにギルドに行こう。」
言い終わらないうちに兄は私の手を引いて移動し始める。
兄曰く、現在、新規ユーザー獲得キャンペーンの一環で開催されている初心者育成応援の報酬がおいしいらしい。なんでも、新規ユーザーの初クエストを一緒に達成した既存ユーザーにはガチャを回すために必要ななんたら石がガチャ30回分もらえるのだそうだ。
なお、育成される側になる新規ユーザーである私も、ログインボーナスという名前でなにやらたくさんのアイテムを持っているようだったけど、正直よくわからない。だってこのあと兄についていってクエストが終わればもう終わりだしね。くふふ、プリン♪濃厚プリン♪
●◯●◯●◯●◯●
「ありがとう、冒険者さん。おかげで今夜の肉が手に入ったよ。」
ふくよかな女性がお礼を言ってクエスト終了のポップが出てきた。
兄が選んだクエストは、森で野うさぎを捕まえるというものだった。だが、ただ捕まえて終わりではない。チュートリアルを兼ねていたのか、うさぎを罠にかけるための道具を拾ったり買ったり、いざ捕まえても横取りしようと現れた狼を倒したりとなかなかに盛りだくさんだった。
「よっしゃー!服装備きた!」
早速育成応援キャンペーンの報酬でもらったなんたら石でガチャを回していたらしい兄がガッツポーズを決めた。どうやら欲しかった物が出たらしい。よかったよかった。これで安心して私もプリンをもらえるわけだ。なんなら、私のおかげで欲しかった物が出たのだから、2個くらい買ってくれてもいいんじゃないかとも思う。これはゲームを終わらせたら交渉してみよう。
「じゃぁ、お兄ちゃん、私先にー」
言いかけたところで、耳に膜が張ったような違和感。例えるなら、プールに入ったときのような。
続いて目眩が襲ってきて立っていられなくなる。なにこれ気持ち悪い。
早くゲームを終わらせようと、メニューを呼び出しログアウトしようとするが、
「あれ?」
ない。ないわけないけど、ない。ログアウトのボタンが、ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます