第2話 試験1

「これより、戦闘試験を開始する」




 教官のその言葉に部屋の空気が一段と引き締まる。訓練生たちからの緊張を感じ取った教官は少しおどけるように続けた。




「そんなに緊張するな、いきなり不死者イモータルと戦え、とかではない。二人一組のチームで課題をクリアしてもらう。たったそれだけだ」




 教官の言葉に安堵とともに戸惑いが混じる。




「そうだな、簡単に試験の説明をするとしよう。まず独立機動隊は基本的に二人一組で行動する。故にチームを組むのだ。もちろん不死者を模した人形も出てくる。当然だな。独立機動隊の目的は不死者の討伐だから。今までの訓練で散々言われただろうが、不死者を殺せるのは我々死神リーパーだけ。そして不死者は脳を破壊することで死ぬ。その時は必ず魔力を纏わせること。でなければ殺せないからな。毎年、言っても忘れる訓練生がいるんだが。この試験で君たち訓練生がどこの班に配属されるか決まる。心して臨むように。」




 教官はそう言うと素早く情報端末を操作する。




「君たちの情報端末デバイスにチームと試験場所を送信したので、各自確認して試験場所に向かうように。各自健闘を祈る」




 教官が話し終えると同時に、アルカたち訓練生は情報端末を確認する。




「キョウと同じチームで、第三訓練場で試験だね。」


「ヨシッ!行くぞっ!」




勢いよく立ち上がったキョウを追って第三訓練場に向かう


 第三訓練場入り口にはすでに、先ほどとは別の教官が立っていた。




「君たちが九十九アルカさんと轟キョウさんですね」


「そうです」


「魔動武装は用意しておきました。試験頑張ってくださいね」


「「はい!」」




 二人は元気よく返事をし、アルカは長さの異なる二本の刀型を、キョウは重厚な大剣型の魔動武装を手に訓練場に入っていった。




「はぁー、よくもまあこんなに…。車にコンテナにプレハブの家まであるのか」




 訓練場はいつものただ広いだけの空間から様変わりしていた。様々な遮蔽物が置かれ、小規模ながらも実戦を想定したものとなっていた。




「さて、課題は“不死者を模した敵を倒せ”だってさ。サクッとクリアしますか」




「キョウ、油断大敵。試験が簡単に終わる訳ないよ」




「わかってるって。アルカは心配性だなぁ。ほら、行くぞ」




 大剣を担ぎながら、とりあえず突っ込んでいくキョウの後を追い、アルカも駆け出す。




「はぁ、まったく……」




 そんな親友の姿に、思わずため息をついたアルカであったが、自然と笑みがこぼれていた。


そして目線の先では、破壊音が響き始めた。











 岩陰から飛び出てきた人型の模型を岩ごと砕く。当然、大剣に魔力を纏わせ、的確に頭を狙うことも忘れていない。音を聞きつけてか、新たに向かってきた人形を脳天から真っ二つに破壊する。




「あっはっはっはっはっはっはっ!」




 思う存分に体を動かせることに、キョウは笑う。朝から寝坊しかけたこと、朝食をとれなかったこと、筆記試験の出来、それをネタに親友にイジられたこと、それらの鬱憤を晴らすようにただひたすらに暴れる。それらの原因が自身にあるというツッコミはなしだ。


 気が付くとキョウの周りには人形の残骸が散らばっていた。ふぅっと担いでいた大剣を地面に突き刺し一息つく。そして、




「わかってんだよなあッ!」




 キョウの耳は飛んでくる複数の物体の音を確かにとらえていた。音を頼りにタイミングを合わせ、大剣のフルスイングを決める。遠心力の乗った刃は左の人形を胴体ごと粉砕し、右の人形の頭を砕く。しかし中央の人形は少し遅れて飛んできており、大剣が届かなかった。迫りくる人形を前に、大剣を切り返すのでは間に合わないと即座に判断し、




「オラァ!」




 左の拳で頭を打ち抜く。人形は頭を砕かれ、吹き飛んでいく。視界が開け、同時にキョウは目を見開いた。四体目の人形が迫っていたのである。どうやら飛んできた人形は四つあったらしい。今しがた殴り飛ばした人形の陰に隠れていたようだ。


 キョウは即座に回避不可能と理解し、魔力を体中に張り巡ら身を守りつつ衝突の衝撃に備える。


 鈍い音とともに人形が吹き飛ぶ。頭を真っ二つにされて。同時に若干の呆れた声がかけられる。




「やっぱりね。油断大敵って言ったでしょ」




 キョウはそのジト目に対して笑いながら、




「アルカなら来てくれるって信じてた」




ぬけぬけと言い放った。











ハァ、と内心ため息をつきながら笑顔の親友を見る。何体か人形を切って追いつくと、若干ピンチ?なキョウの姿だったのだ。あの程度ではかすり傷すらしないとわかっていても、焦って必要以上に魔力を使ってしまった。しかもあのセリフである。ドラマチックな言葉をここまで胡散くさく言えるのは一種の才能ではなかろうか。


そんなことを思いつつ、今は試験中なので気持ちを切り替える。




「文句は後で言うから。早く試験を終わらせるよ」


「りょーかい」




 その後は、これといった苦戦もなくサクサク人形を倒しつつ、時折あるトラップを解除していく。




「順調だね」


「余裕で試験は合格だな。……どうした、なんかあったか?」


「簡単すぎると思わない?」


「訓練生の試験なんてこんなもんだろ」


「私たちにとって、だよ」


「……確かに」




 そう、アルカとキョウは訓練生とは比較にならないくらい強いのだ。同程度の実力でチームを組むので必ず同じチームになる。そのため訓練も厳しく、連携も格段に上手い。


 だからこそ、簡単すぎて疑問がでてくる。何かあるのではないかと。


 そしてその予感をうらづけるように情報端末に連絡が入る。




“敵を倒せ”




 たったそれだけの文だった。


 簡素すぎて逆にすぐ意味が分からず、キョウと相談しようと顔を向けたその時、


地面が爆ぜた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る