死神少女は生きています

気晴

第一章 独立機動隊の新人

第1話 プロローグ

 いくつもの足音。




 叫ぶような怒声。




 一つ、また一つと増えてゆく鈍い音。




 音が止むとともに血走った目が一点に集まる。




 そこには二人の少女がいた。まだあどけなさの残る子供が。




 そして・・・。




 そして残ったのは二人の少女だけだった。











「んっ……」




 小さなうめき声ともとれるような言葉とともに少女が目を覚ます。悪夢にでもうなされていたのか、呼吸は乱れ、汗に濡れていた。




「アルカ、大丈夫?」




少女が息を整えていると、二段ベッドの上から心配する声がかけられた。




「大丈夫だよ」




 少女-アルカは自身を心配するその声に少しばかりの安堵と、起こしてしまったのかという罪悪感とともに返事をした。




「そう。明日は試験だからしっかり寝なよ」




「うん。ありがと」




 アルカは自分を心配して起きてくれたことに感謝を述べた。


 すぐにベッドの上段から寝息が聞こえ始めた。


 相変わらずの寝つきの速さだなと、少しうらやましく思いつつ枕元の時計を見る。時刻は明け方より少し前。


 寝起きの悪い親友ならば、ほぼ必ず寝ている時間だ。




「ふふっ、寝ぼけてたのか」




 寝ぼけていても自分を心配してくれる、そんな愉快な親友に心の中でもう一度感謝をする。


ふと、アルカは自分が手に何かを握っていることに気づく。その感触から、今は亡き育ての親がくれたお守りだとわかる。枕元に置いていたのを、無意識のうちに掴んでいたようだ。


お守りを枕元に戻し、ベッドのカーテンを開け布団から抜け出した。


 スッキリしよう、と汗をかいて着心地が悪くなったパジャマを脱ぎ捨てシャワーを浴びるが、先ほどの悪夢が頭から離れない。




「夢だったらな」




 当然のことである。あれは決してただの悪い夢などではなく、事実なのだから。


 あの日、自分たちを育ててくれた親代わりの人、殺しに来た人たち、住んでいた村人すべてを文字通り消し飛ばしたのだ。


 その記憶を振り払うかのように頭を振ると、鏡に映る自分と目が合う。茶色の瞳、茶色の髪をした普通の女性。そしてピコピコと動く耳とふわふわした尻尾。そう、これが原因なのだ。人の体に動物の特徴を兼ね備えた、人ならざる者。故に殺されかけた。


 仕方のなかったこと、頭ではわかっている。あのままでは自分たちが殺されるだけだったのだと。しかしながら感情が、それを受け入れない。今でもこうやって自身を責め立てる。自分たちを殺そうとした、血走った眼をした人間の顔が浮かんでしまう。だから今はあの力を使うことができない。


 どれほど経ったのだろうか。一瞬のような、それでいてずいぶんと長かったような。どちらにしろ十分だろう。シャワーを終えると、窓の外では太陽が顔を出していた。


 それはとても美しく、少しだけ心が晴れたのだった。











「だぁ~~~~~、終わったぁ~~~~~~」


「キョウ、うるさいよ」




 はぁ、と少しばかりため息をつきながらアルカは今しがた机に突っ伏した親友-キョウに文句を言った。いつも元気なキョウの長くてシュッとした尻尾もだらしなく伸びている。それもそのはずである。あの後、目がさえてしまい試験勉強をしていたのはいいが、キョウが起床時間になっても起きず、四苦八苦して起こしていたら試験開始ギリギリになり、結果としてキョウは朝食を取り損ね、アルカは朝から本来必要のない運動をして疲れたのだ。




「悪かったって、許してくれよー。この通り」


「はいはい、分かったから。ごはん食べに行くよ」




 アルカは腕に装着している情報端末で時間を確認すると、呆れたように言った。




「よっしゃー。ごはんごはん」




何だかんだ言っても幼少期からの親友であるため、アルカ自身まったく怒っておらず、キョウ自身もそれをわかっているため、先ほどまでの態度はどこへやら、昼食と聞いてウキウキとしながら席を立ったキョウとともにアルカも食堂に向かう。




「それで、筆記試験の出来はどうだったの?」


「……」




 キョウのあまりの身代わりの速さに少しだけ意地悪をしたくなったアルカは、ふと質問を投げかけた。それは純粋に気になったのもあるが、今朝の仕返しも含んでいたのだろう。アルカの口角は少し上がっていた。そして案の定、真横を歩いているはずのキョウから返事はなかった。気になって見てみると、耳をぺたんと折りたたんで顔をそむけるキョウの姿があった。




「……」


「……何食べる予定?」


「かつ丼、大盛り。朝食べれなかった分いっぱい食べてやる!」


「で、出来は?」


「……」


「午後の戦闘試験楽しみだね」


「ずっと座りっぱなしだったから存分に暴れてやるよー!」


「で、出来は?」


「……」


「ふふっ、ふふふっ」


「だぁっ、やめやめ、この話おしまい!」




 筆記試験の出来を聞くたび、耳を折りたたみ尻尾がうなだれる姿を繰り返すキョウに、ついに笑いが抑えきれなくなったアルカは吹き出してしまった。キョウは自身がからかわれていたことを理解し、この話を終わらせた。


 そんなこんなで昼は過ぎていき、午後の戦闘試験が始まる。




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