黒の剣鬼
一ノ瀬 遊
第1話、始まりましたけど、何か?
パチパチ...。
火が燃える音。熱気。
そんな中、俺はそっと目を開けた。
ん?
ここはどこだ?
俺は辺りを見渡すと見た事があるような街だった。
しかし、街の建物は何かに襲われた跡なのか、ボロボロに崩れてあちらこちらで火の粉が上がっていた。
なんだここは...?
まさか、地獄なのか...?
すると奥の方で、
ガキン!!ガキン!!
と何かが戦っている音がした。
俺は音が聞こえる所に近づく。
近づくと目の前には光輝く剣を持った天使と黒い鬼が戦っていた。
凄まじい天使の剣劇を鬼が防いでいく。
そして鬼の角が折れて俺の目の前に落ちた。
俺は何故だか知らないがその折れた鬼の角を手に取った。
角を折られた鬼は怒り狂って天使に猛攻を仕掛けた。
今までとは比べ物にならない鬼の攻撃に動きが鈍る天使。
そして鬼は天使を捕まえる。
逃げないように天使の翼をひきちぎり投げた。
天使の翼も俺のところに来たので、何故か拾った。
翼をひきちぎられた天使も怒り狂っている。
もうお互いが正気の顔を保ってはいなかった。
そしてお互い最後の一撃だったのだろう。
天使の剣は黒い鬼の心臓に刺さり、
黒い鬼の爪は天使の心臓を貫いていた。
俺はその様子を興奮しながら見ていた。
ボリボリッ。ボリボリッ。
何故か手に持っていた鬼の角と天使の翼を食べながら...。
凄い戦いだった...。
後で×××にも教えて上げよう...。
俺はその場から離れようとしたその時、
全身に痛みが走った。
意識が朦朧とする。
「あっ...。これはヤバイ...。」
そしてそのまま意識を失ったのだった。
▼▼▼
とある宿屋の一室にて。
ジリリリリリリーーー。
ポチッ。
......。
.......。
ジリリリリリリーーー。
ポチッ。
........。
.........。
ジリ...。
「うるせえぇぇ!!」
ガシャーン!
「何度も何度も鳴りやがってぇ!!
こっちは起きてるっつーの!!
休みの日でも同じ時間に起こしに来る母ちゃんかっての!?
.....あ。
....またやってしまった。」
俺は粉砕した魔導目覚まし時計を眺めて、
とりあえずタバコに火をつけ一服をする。
「ふぅ~。
これで目覚まし時計を壊したの何個目だ?
俺は時計会社の回し者かってんだよ?
大体すぐ壊れる設計になんてしやがって...。」
彼の名前はこの物語の主人公、クロム。
万年金欠でお金にだらしなく、
毎日ダラダラしているCランク冒険者だ。
コンコン。
ドアを叩く音が聞こえる...。
「朝っぱから誰だよ...。
新聞ならお断りだよ!!」
宿屋に新聞を売りに来る人は居ないのだが。
ドアを開けると宿の娘のシズクだった。
「なんだ...。シズクか...。
どうしたんだ?こんな朝早くから?」
「お母さんがうるさいって...。
目覚まし時計壊したとおもうから、
修理代もらってこいって言われた...。」
「はぁ~。おかみさんも悪い人だな...。
こんないたいけな少女に集金させるなんて...。」
「クロム...。私は小さくない。
これでも15才。成人したから少女じゃない...。もう、立派な大人のレディ。」
「あぁ...。もう成人になったんだっけな...。
悪い悪い。それでいくらなんだ?修理代。」
「10ゴールド。」
「10ゴールド!?なんで!?
前は3ゴールドだっただろ!!」」
「あんな粉々になってたら、
修理じゃなくて新しいの買わなきゃないんだからしょうがないでしょ...?
魔導目覚ましは高いんだから...。
ちゃんと起きないクロムが悪い...。」
「ぐぬぬ...。はぁ~。わかったよ。ホラ。」
俺はシズクに10ゴールドを渡す。
懐が一気に寂しくなった。
「クロム...。ちゃんと働かないとだよ。
なんなら私が養ってもいいけど...。」
「い、いや。それは...。ちょっと...。
俺の大人としてのメンツが...。」
「なら今日はギルドに行って仕事してきてね...。」
「あ、あぁ...。わかったよ。」
俺は頭を掻きながらシズクに言う。
「今日は私がお弁当作ったから食べてね。」
「あぁ。ありがとう。」
こんな少女に心配されるなんて大人として情けないな...。
それにしても何でこんな俺に優しくしてくれるんだろうか...?
謎だ...。
「じゃあ、準備したら食堂に来てね。」
「あぁ、わかったよ。」
そう言うとシズクは部屋を出ていった。
それにしても今日の夢は何だったのか...。
リアルな感覚だし...。
それにしても、
なんで俺は鬼の角や天使の翼なんか食べてるんだ...。
気色悪い...。
俺そんなもの食べた事ないぞ...。多分...。
あぁ~!!なんかむしゃくしゃする~!
が、考えても仕方ない。
俺は顔を洗い身支度を整えて、宿の食堂に向かった。
食堂に着くと、
「おや、クロム。
おはよう。相変わらずお寝坊さんだね~。」
「あぁ。おかみさん。おはよう。
あのベッド寝こごちが良すぎるんだよ...。
おかげでまた目覚まし時計壊しちまった。」
「次からは自分で買ってきてくれよ。
毎回毎回買いに行くの面倒くさいんだから。」
「あぁ...。わかったよ。」
「そこは壊さないように努力するって言えないのかね...。全く。」
「俺は努力とは無縁だからな!がはは。」
「はぁ~....。
シズクもこんなののどこがいいのかねぇ...。まぁ、とりあえず朝食食べてしまって。」
俺は食事が置かれてる席に座り、朝食を食べ始めた。
俺の目の前にシズクが座る。
「どうした?
俺が食べてるところ何て見ても、面白くはないぞ。」
「ううん。
いつも美味しそうに食べるから見ていて飽きない...。美味しい...?」
「あぁ。いつも美味しいよ。」
俺がそう言うとシズクは頬を赤らめた。
「良かった...。
これからも美味しい料理いっぱい作るから期待しててね...。」
「あぁ...。ってか毎日シズクが作ってたのか?」
「うん...。クロムのだけは私が作ってた...。」
「お、俺のだけ?」
「うん...。」
「何で?」
「クロムにだけ食べて欲しいから...。」
「..........。」
重い。重いぞ...。
どうしちゃったのこの子は!?
まあ、出会ったときから変わっている子ではあったが...。
「.......クロム。迷惑...?」
シズクは泣きそうな顔で言ってくる。
「ぜ、全然!め、迷惑じゃないさ!!
こんなに美味しいなら毎日でも食べたいなぁ~!なんて...。」
「嬉しい....。」
シズクは嬉しさの余りに泣き出してしまった。
「な、泣くなよ。あっ!おかわり貰おうかな~。」
「うん。すぐに持ってくるね。」
シズクは涙を拭き笑顔でおかわりを取りに行った。
「クロム...。アンタ大変ね~。
私はクロムがシズクを貰ってくれるんなら全然いいんだけどね。」
「おかみさん...。
他人事のように言ってるけど、
こんな万年グータラなCランク冒険者が夫なんてシズクが可哀想だろ。
シズクにはもっと似合う人が現れるって...。」
「そんな薄情な事を言ってシズクを泣かしたらこの宿から叩き出すからね。」
「おかみさん...。
それは脅迫と言うものでは...?」
「まぁ考えておきな...。
冒険者なんて引退してこの店で働いてもいいんだから...。」
「....あぁ。考えておくわ。」
おかみさんは他のお客さんに呼ばれたため席を離れた。
入れ替わりにシズクがおかわりを持ってきてくれたので俺はおかわりを食べた。
シズクにジッと見つめられながら。
食べ終わって一息ついた俺は、冒険者ギルドに向かう為に宿屋を出た。
シズクの視線を背中で背負いながら、そそくさと冒険者ギルドに向かうのだった。
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