何故福岡人は東京のひよ子に殺意を抱くのか
haco
考察
僕は福岡人である。幼少期からひよ子は身近な存在であり、正直あのもそもそした餡に水分を持っていかれるのが得意ではなかったが、しっとりとした皮や造形の可愛らしさもあって大好きなおやつであった。
成長した僕はあるとき衝撃の事実を知る。それはひよ子が東京銘菓として認識されているという理解不能な現象であった。僕はデジタルネイティヴであったので、一も二もなくそれをインターネットで調べた。結果として、福岡で誕生したひよ子が東京駅で売られ、いつの間にか東京銘菓として売り出されていたと知った。公式見解ではどちらのものでもあると言う。僕は納得できなかった。
まるでそれはシャインマスカットが韓国のものであると言われたかのような理不尽さ。いくら公式が許容していても、ひよ子が東京銘菓と信じられている事実を受け入れられるほど僕は寛容ではなかった。所属意識というのは自分のアイデンティティでもある。ひよ子は僕の故郷を象徴するものの一つであり、幼いころから慣れ親しんだ味である。僕には東京土産として渡されたひよ子がプラスチックででもできたニセモノにしか見えなかった。
福岡人は地元愛がどうやら強いらしい。それが当然だと思っているので、なぜかは正直分からない。そもそもメディアが物凄く地元贔屓なのだ。野球もホークス以外はオマケ扱いだし、地元の芸能人も大事にする。それゆえに地元の何かというのは特別なのだろう。とりわけ福岡の食べ物が一番美味しいと思っている地元民の割合は他県より多いはずだ。その地元に愛された食べ物を東京土産として買い、あまつさえそのルーツも知らずに福岡人に渡す人間を万死に値すると評価するのは、過激ではあるものの決して理不尽な感情ではないだろう。それは地元を愛する福岡人にとって冒涜であり、戦線布告と同義とすら言える行為なのである。
とは言ったもののそういった感情を表に出し、純粋に喜んでもらおうと土産を持参した人間を殴って罵詈雑言を浴びせかけるのは単なるイカれたモンスターなので、僕はぐっと堪えて喉の奥からありがとうを搾り出すのである。間違っても、「きさん何ば考えとっとか。ぼてくりこかすぞ(あなたは何を考えていらっしゃるのでしょうか。ぶっ飛ばしますよ)」などと言ってはならないのである。
福岡を愛するあなたへ。
暴力、暴言はやめましょう。ひよ子に罪はないのですから。
ひよ子を東京銘菓、あるいはどこの銘菓でも構わないと考えるあなたへ。
ぼてくりこかすぞ。
何故福岡人は東京のひよ子に殺意を抱くのか haco @asarimisosoup
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
男子校生の日常 in福岡/石橋梛
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます