第14話 前例無しの改変 Ⅳ

「それは……一ノ瀬さんとも考えたんですけど、」


 紗奈が言うと、律希はうなずく。


「ライトストリートがSIX STORYに及ばない点は、信用度です。それは業界での歴史が浅いからですが、警察へのシステム納入が実現すれば一気に台頭できるはずでした」


「SIX STORYとしてもそれは防ぎたいですし……お互いかなり本気だったのは確かです」


 律希と紗奈が言うと、片岡は、


「分かった」


 と答える。


「どちらにしても、聞き込みは必要だな。ライトストリートも他の企業も」


 律希が同意すると、


「後はうちと連携課でやる。川野と一ノ瀬は、修正に集中しろ」


 片岡はそう言って、いくつかのやりとりを交わしてから素早く出て行く。

 その背中に、中山が、


「……私の部下に命令しないで欲しいのよね」


 と呟いた。聞こえていたかは定かで無いが、片岡は振り返らずにそのまま行ってしまう。

 芹が振り返って、


「綾ちゃん、涼誠は別に命令したつもりじゃ無いと思うけど」


 と言うと、中山は溜息をついて、「そうですね」と気の無い相槌を打った。

 彼女が、自分のペースを崩されるのを極端に嫌う事は、側にいる人間ならよく知っている。芹はそれ以上は言わずに、寄り掛かっていた机から立つと、後ろ手を組んで言った。


「さあ、私も戻ろっかな? 間接改変だと難しい……ってかほぼ無理な気するけど、何で人類滅亡まで行ったのか、調べてみる。修正の手掛かりがあったら教えるよ」


 彼女はそんな言葉を残して去った。

 すると和弥が、


「修正ソフトも立ち上がりましたし、修正デスク作ります?」


 と言って、それぞれの机を一箇所に並べ始める。

 修正デスクは、共同作業である修正をスムーズにする為に、机をくっつけて大きくする事を指す。大量の資料を置く事もある為、広い机は重宝する。


「そうね」


 中山が気を取り直して答えると、直ぐに部屋の中央に、広いデスクが出来る。


 すると不意に、紗奈が「あっ」と声を出した。


「紗奈ちゃん、どした?」


 和弥が首を傾げると、紗奈は慌てて言う。


「そう言えば、優斗君たちって、今どこに居るんですか?」


 その問いに中山が、


「あー、紗奈は知らないっけ。……でもそうだ。ずっとあいつに預けっぱなしじゃ駄目だったわね」


 と答える。


「えっ、誰ですか?」


「基礎課の坂井。このままここに置いておくと、色々聞かれてまた面倒じゃない。だから、別の所無いかな……って考えて、思い付いたのよね」


 基礎課とは、時間警察の中でも、2000から2030年までの時代「基礎時代」での時間旅行サービスやトラブルの解決を担当する課の事である。

 時代別に細かく担当課を分ける事で、より繊細なサービスを提供できると言う事で、時間警察は多くの課に分かれている。

 基礎課はその一つ、坂井拓人さかいたくとはその課長だ。


「──坂井さん、か」


 律希が不意に呟いた。


「それ、危なくないですか?」


「危ない?」


 律希の言葉の意味が分からず、紗奈は聞き返した。しかし中山は、


「……やっぱりそう思う? 止めた方がよかったかしら」


 と苦い表情で返す。


「でも、確かに心配もあるわね。……紗奈、様子見て来てくれる?」

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