第13話 最城大学Ⅳ

「さっきは『俺だけ忘れるなんてあり得ない』的な事言ってませんでした?」


「いや、まあ……俺のがカッコいいし?」


「……そ、そうでしょうか」


 確かにTVに出て来る俳優さんと言われても納得出来るくらい華やかな容姿の達紀だが、問われた紗奈は言葉を濁した。

 すると、それが心外だとでも言う様に、達紀は驚いたが、すぐ納得して1人喋る。


「紗奈ちゃんのヒーローは俺じゃなくて律なのか。あの時もだけど今もそうだったり……」


「あの、何の話ですか?」


 紗奈が聞くと、達紀は首を振った。


「いや、何でも無い。

 ごめんね。急に連れ出したりして。そろそろ戻ろうか。じゃ無いと律に怒られそうだ。……時間が、無いんだよね」


 律希はどうやら、達紀に事情を話しているらしかった。

 紗奈は「はい」と答え、達紀の後に付いて、来た道をまた走って帰る。


「待たせたね」


 部屋に入って達紀が言うと、律希は一言「遅い」と言った。


「ごめん、ごめん。でもさ、久しぶりに知り合いに会ったら驚くじゃん。つい話込みたくなるのは仕方ないよな」


 紗奈がふと顔を上げると、律希と目が合う。紗奈は達紀をちらりと見て、話を合わせるように頷いた。

 すると律希は、


「本当に知り合いだったんだ」


 と呟く。そして溜息をついて言った。


「じゃあ、もう本題に入ってもいい? 今はまだ暇だけど、時間がある訳じゃ無いんだ」


「ああ、分かったよ。ただ……俺がお前を放ったらかしたのは悪かったけどな? だからってそんなに怒らないでくれる?」


 達紀が返すと、律希は「別に怒ってない」と視線を逸す。

 達紀が軽く肩をすくめてみせたので、紗奈は反応に困って達紀の側から律希の後ろに動いた。


 達紀が咳払いをして、真面目な表情で話し始めた。


「えーっと、用件は何だっけ? ──基礎時代で歴史に沿わない出来事が起きていないか調べて欲しい、で合ってる?」


 すると、律希も切り替えて答えた。


「そう。改変が起きる前、最後に犯人が居たと思われるのが2015年で、これはTSチームが特定してる。ただ、2015年に行った社員の話では、その場所に特に変わった様子は無かったらしい」


「大規模な歴史の改変がそこで起きたとすると……何か混乱が起きててもおかしくないのにな」


 達紀が言うと、律希は自分のPCを取り出して、机の上に開いて見せた。


「だから達紀の力が必要なんだ」


 律希の言葉に間髪入れず、達紀が言う。


「よし、任せとけー! って……それ、俺に何か出来る事ある?」


 達紀が首を傾げると、律希はうなずいた。


「簡単に言えばネットサーフィン。このPCは今、2015年のネットワークに繋いである。これでやって欲しい事は分かった?」


 紗奈には分からなかったが、達紀と松永には伝わったようだった。

 2人は顔を見合わせて不敵に笑った。


「任せて下さい!」


「ああ、やってやろうじゃねーか」


 答えると、松永はすっと椅子を何脚か出して来て、PCの前に座った。

 達紀がPCを操作し、松永も一緒にチェックする。急に視線が真剣になり、2人の発する空気が変わる。

 

 ──修正の時の先輩たちみたいだ。

 

 つまりはその道のプロフェッショナル。彼らも、紗奈が憧れる人種だった。

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