6-1-4 ゲシュタポ

1942年1月20日にハイドリヒはヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅計画を策定するためにヴァンゼー会議を主催した。


 会議には各省の次官の他、ハインリヒ・ミュラー親衛隊中将(ゲシュタポ局長)やアドルフ・アイヒマン親衛隊中佐(ゲシュタポ・ユダヤ人課課長)などゲシュタポ幹部が出席した。


 絶滅政策は1941年代からすでに始まっていたが、この会議がヨーロッパ・ユダヤ人1100万人の絶滅を初めて公式に取り扱った会議となった。


 ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅が決定されると、アドルフ・アイヒマンの指揮の下にヨーロッパ中のユダヤ人が列車に詰め込まれて移送され、絶滅収容所や強制収容所へ送り込まれるようになった。


1942年6月4日、イギリスの支援を受けたチェコ人工作員による襲撃(エンスラポイド作戦)を受けたハイドリヒがその時の負傷が原因で死去した。


 親衛隊とゲシュタポは報復としてリディツェ・レジャーキ両村の壊滅を含めたチェコ人虐殺を行っている。


 1943年1月からはオーストリア・ナチス出身のエルンスト・カルテンブルンナーが代わって国家保安本部長官となった。


 戦局が悪化する中、反体制分子の監視を強める必要性が強まり、ゲシュタポの権力は肥大化し、ヒムラーですらゲシュタポの影に悩まされることになった。


 著名なロケット技術者のヴェルナー・フォン・ブラウンが、無断で有人ロケット開発の資金繰りをしているという情報を掴み、ゲシュタポは彼を逮捕し、処刑しようとしたが、ヒトラーの仲介により取り止めになっている。その際、ヒトラーはフォン・ブラウンに「私でも説得するのに苦労したよ」と言ったという。


一方でユダヤ系の男性と結婚した女性が、配偶者の解放を求めたローゼンシュトラーセ抗議では、女性達の抗議に屈して彼らを解放するという例外的なケースも存在する。


1945年5月のベルリン宣言においてゲシュタポは軍や親衛隊とともに武装解除を命令された。


 ニュルンベルク裁判ではゲシュタポは「人道に対する罪」で告発された6組織(他にナチス指導部、国防軍最高司令部、親衛隊、突撃隊、ヒトラー内閣)の一つとなった。


 弁護側は「ゲシュタポは通常国にある政治警察と変わらない」「ヒムラーが警察長官となっても各州の警察はなんら影響を受けていない」と反論したが、認められず、有罪が宣告された。


 この認定により1939年9月1日以降にゲシュタポ隊員であったものは犯罪組織成員として扱われ、各種の非ナチ化法廷にかけられることとなった。


 しかし一部の構成員はその経験や能力を買われ、第2次大戦後の東西両ドイツの警察機構に残る者、東側諸国ではシュタージ等、西側ではBND、CIA等の構成員となり、中東や南米では治安機関の育成にあたった。


 ゲシュタポ局長だったミュラーは姿を消し、現在まで行方不明である(1900年出生なので21世紀の現在も生きていれば120歳となり健在とは考え難い)。


プリンツ・アルプレヒト街にあったゲシュタポ本部は、1945年2月の空襲と同年4月のベルリン市街戦で廃墟となった。


 ベルリン分断後にはベルリンの壁が建てられ、40年近くそのままであった。


 ドイツ再統一後の1990年代に整地、「恐怖政治の見取図(テロのトポグラフィー)」というオープンエアの博物館となった。


示せばいつでも・どこへでも・令状なしの立ち入りが出来る、専用身分証明書と、表面にナチス・ドイツの国章(ハーケンクロイツの上に鷲が止まったデザイン)、裏面に「Geheime Staatspolizei」の文字が浮き彫りにされ個人番号が打たれた楕円形の認識票を交付されたゲシュタポ要員は、ドイツ国内や占領地域において、ナチス・ドイツの暴力装置として機能し、普通の人たちにまぎれて「夜と霧」と呼ばれる深夜から夜明けにかけての予期せぬ突然の逮捕、厳しい訊問や残酷な拷問、劣悪な待遇や拘禁などで知られ、ヨーロッパ中を震え上がらせた。


 これは、人材の配分が武装親衛隊、国防軍、警察の順になっており、ゲシュタポに社会的不適格者が配属されることが多かったのも原因と言われている。


 ゲシュタポ要員は、その身なりも黒い外套や手袋、黒眼鏡などを用いて人々に不吉な印象を与え、恐怖心を煽るためにやや芝居がかった茶番劇のような手法をとった。


 さらに粗暴、野蛮さ、気まぐれな振る舞い、怠け癖、皮肉な態度や、時には欺瞞的な温容ささえ示して、思いのままに被疑者を調べ上げる権限を行使した。


 そのような彼らに対して、ドイツ国民は諦めの気持ちで従順に従った。個人で抵抗するにはあまりにも危険な組織であった。


 また、国外に逃亡したとしても、ゲシュタポの目からは逃れられなかった。ゲシュタポ構成員は、世界各国のドイツ大使館に派遣され、海外に亡命した反ナチスのドイツ人やユダヤ人の監視・摘発の任務に当たっていた。


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