どうせ何もない未来に期待できない。早く死にたい
電話を終えた彼女は画面をつけたままで布団に乗せる。路林と彼女の父親から着信やメッセージの履歴が届いていた。その複数ある連絡をあいは一括に消去する。
「静沼は会ってくれることになった」
「謝るの?」
「うん。地車にも謝りたいけど、それは相手が決めることだと思うから」
「許すか許さないは地車が決めるって怒ってた」
あいは静沼の名前を出すことで記憶から出来事を引っ張りだした。彼女の言い分は正しいと肯定する。
「今の私ができることは静沼に謝罪することだ。彼女の兄の友達のことを知らなかった。犠牲にするつもりがなかった。それを説明したい。大切な友達だから」
私は自分の醜い感情に蓋をした。友達だと言ってくれたことを安心してしまっている。あいにたいして適切な距離感ではないと、友人間の関係を衝突させてしまう。既に支配的な面が出てきている私だ。
「でも、場所がない」
カソが修宇家を取り囲んでいるに違いない。だとしたら、彼女のケジメをつけたい思いが達成されないままで流れてしまう。
ラブホテルでも侵入してくる人達だ。適切な箇所を把握されている可能性がある。
「あ、それならひとつあるよ」
「どこ?」
「私を信頼出来る?」
△
現在、ショッピングモールの屋上駐車場に軽自動車が入口近くに泊まっていた。運転手席に座っていた飛谷は携帯灰皿を片手に外へ出ている。タバコを吸いながら当たりを警戒していた。
「本当に良かったの?」
「うん。彼は私に頼ってって言ってたし」
カソは大人を前に強引振る舞いに出ないと踏んだ。彼は私の母親を本当に好きで傷つけることはしない。その裏付けで、私を心配していたのだろう。協力を望んだら承諾してくれた。
「それで、3日間も姿をくらました言い訳は何?」
静沼は状況など興味なく憤りを隠しきれていなかった、膝を揺すって腕を組んでいる。
助手席に私が座っていて、背もたれに腹をつけて、後部座席のふたりの行方を見守った。
「かりんとデートした」
「そりゃ楽しかったやろうな。だって連絡も無視するぐらいやし」
「心配かけたね」
「そうだねいつも心配と迷惑をかけるね。ここのショッピングモールだってそうだよ。トイレに行ったら私を放置して帰ったやつ」
「あ、あー。あの時もごめん」
「あいは自分勝手に突っ走るくせに尻拭いはいつも私なんだよね。だから前のめりになるなって忠告してる」
「ごめん」
ふたりは幼少の頃から付き合いがある。その過程が思い出話から感じた。二人の関係に少しでもいいから関わりたくなる。
「今回も私が何とかしてあげるつもりだった。いつも暴走はしてたけど、ここまで事態が広がるとは思わなかった。全然話せなくなるとは思わなかった」
「うん」
「どうして私と向き合ってくれなかったの?」
膝の揺すりが停止した。腕を組んでいる姿は怒りから来るものではなく、不安から身を守ってるようにも取れる。その恐れが、次の答えを待ちながらも無視されることもと望んでるような複雑さが交じっていた。
「いつも、向き合ってこなかった。いちずの想いも知っていた。私たちは必要なやり取りを1度も交してこなかった。距離の近さを言い訳にした」
「あいが私の思いを知っていることも知っていた。その優しさに甘えて付け込んでいたし、憎んでいた。献身してるのに見返りがないのかと腹黒いこと考えていた」
「いちずも私も継続を望んでいた。でも、私は友情で、いちずは愛情。道は違っていたんだ」
いちずは腕を解いて、右腕を助手席の頭部を掴んだ。指の力がおんねん込めて強く触られる。
「ふふ。かりんの前で聞くなんて屈辱的だよ」
「ごめん今しか言えないんだ」
「わかってるよ。あなたは私の事なんて1度も考えたことなかったから」
「いちずは兄が嫌いなのに調べさせた」
「なんだわかってるんだ。今度は『大丈夫だよ』に近いこと言って慰めなくていいから楽だな」
「でも、分かってないこともあった。いちずがセクハラうけてるなんて知らなかった」
「……好きじゃない歌を入れられたり、エロい目で見られただけだよ。そんな事で一々傷ついてたら身が持たないよ」
「でも、私は想像より被害を受けててショックだった。私が二次被害をうんだ。それをずっと謝りたかったんだ」
あいはずっとミラー越しの飛谷のタバコの煙を目で追うのをやめた。隣の友人に心の距離を近づけようとする。1度壊れた橋を修繕しながら、また繋がれるかと手を伸ばそうとしていた。ふたりの目が交差しつつ、過去を引き合いに出している。
「文化祭の準備する夜に、あいは電話してくれたでしょ。そういう優しさが身にしみたの。謝ってくれたのは嬉しい。でも、私はあいの謝罪を受け取れない」
「どうして?」
「私は怒りに任せて周りを混乱させたの。かりんのことも、ごめんなさい」
真摯に向き合う視線からそらす静沼。目を伏せて、自身の膝を両手の拳でこする。
「かりんの事を地車に話したのはわたし。地車は状態が重くないのに、辛くなればいいと過剰にしたのは私。私のせいなの。謝罪は受け取れない」
「……」
車内の空調を運転席のボタンからいじる。空気が密集して暑くなった気がした。涼しい風が切り替わっていく。
「だから私には謝らないで。代わりに、地車に会ってほしい」
「え?」
「地車は回復してからずっとあいと会いたがってた。私が止めていたの。謝罪させてやるってカソごと憎んでいた。でも、カソはカソで嫌いだけどね。そこで、全部話して」
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