夜を独り占めする子供ら ①

 2度目のデートも、映画館で待ち合わせ。映画は私もあいも好きだ。過去のやりとりでも、映画の話題が顕著にわあがる。

 今から見る映画は、私の好きな制作会社が作ったホラー映画。

 カルト教団に政府が乗っ取られ、悪魔への生贄として若い子供たちが処分されていた。その中、処分されたふりをして生きていた子供たちは地下で訓練する。そして、カルト教団の祭典日に、教祖を総理大臣に据える議決が取られようとしていた。そのセレモニー中に、這い上がった子供らの復讐が始まるという話。


「ごめん待った?」


 声がした方向に、女性がいた。私が長い間望んでいた相手。とても可愛らしく、今すぐにでも抱きしめたかった。


「やっと逢えたね」


 修宇あいの周りに怪しげな人影は見当たらない。彼女は1人で、誰も連れてきていなかった。彼女を信じてよかった。


「あい、チケット代わたすよ」


 既にチケットは購入しており、財布から2枚取り出す。


「どっちがスクリーンから遠い?」

「こっち」


 私たちは映画館に入って飲料を購入した。すぐにでもカソの事や私のことをぶちまけたい衝動に駆られる。しかし、それを抑えた。理性の出処は彼女と長くいたいという願望。


「でも、今回みたいなホラー映画で良かったの?」

「やっぱ帰っていい?」

「だめ」


 まるで何事もないように振る舞う。私たちの繋がりを裂くカソは置いておく。


「あいは透明と犬の新曲聞いた?」

「新曲でたんだ」

「うん。時間あるし聞こうよ」


 私はイヤホンを取りだし、片耳を共有した。昨日購入した新曲を再生する。コンビニで流れた印象的なギターの演奏。そうして、寄り添うような声。歌詞の深みを増長する演奏。私たちの孤独な夜を思い出させた。


「いいでしょ?」

「うん」


 あいはスマホを取り出し、検索した。この場で購入しようとしている。しかし、その手が止まった。不審に思い、顔を接近した。目元から涙が落ちていた。


「どこか痛いの?」

「違う。いい曲だから」

「私も最初は泣いた」

「うん。そうだね。泣けるね」


 ハンカチを手渡すとありがとうと言い、涙を拭っている。

 

「ごめんね」

「謝らなくていいよ」


 背中を撫でると熱帯びてた。長く悩んだ末の決断をどう伝えようか悩んでは、空中分解する。そのような葛藤が彼女から感じられた。これは彼女に対する期待かもしれない。ただ、私はまだ修宇という夢から覚めていない。私が肯定してあげたい私が、修宇は事件に押しつぶされそうだと信じたいのだ。


「ううん。ごめんねごめん」


 彼女の片手を顔から離した。そして、2人で恋人繋ぎする。どうして、人と接触したら落ち着くのだろう。このいつ終わるか分からない不安定な世の中に、ひとつ確かな温もりだからか。


「聞く前に握っちゃった」

「フユなら平気。ほかは触るのいや」

「そうだったね」


 手を握り返される。周りの目は手と顔を交差し、滑っていく。観客は奇怪なものをみるようにして、それを表に出さないように取り繕っていた。彼らに気を取られるより、確かな温みを忘れないよう記憶したかった。


「ずっと会いたかった」

「私もあいにずっと会いたくて仕方なかった」

「映画、行こうか」


 私たちは自身のスクリーンへ急ぐ。人の足をふまぬよう席へ着く。

 上映が始まる。周りが暗くなり、新しい生活様式の文字が映り出された。私と世界の繋がりが極端に排除された。映画館、ラブホテル、体育館裏、文化祭。思い出が一巡した。



 上映が終わった。


「あい、先に出ようか」

「もうちょっと待とう」


 たくさんの人が階段で列になっている。人気アイドルが主演だから興味をよく持たれている証拠だ。このとがった内容が世間の記憶の1部に刻まれたなら、何にも変えられない幸福だ。製作者じゃないのに上から判断してしまった。


「かりん。こんなこと聞きたくないけど良い?」

「うん」

「今でも私を晒したい?」


 胸に槍が刺さったように痛い。血が出て取れそうになかった。罪悪感が体内を暴れ狂うから、のたうちまわりたい衝動に駆られる。何とか押さえ込んで、また関係を続けたいから適切な言葉を探す。


「弁解を聞いてくれる?」

「うん」


 私はすべてを話した。百合と別れて複雑だったこと。あいも覚えていないような些細なやり取り。フユの名前で陰口のグループに入っていたこと。


「本当にごめんなさい。あなたをずっと誤解していた。とても魅力的で眩しくて、私は親の都合で離れなくちゃいけなかったのに悔しかったの」

「マッチングアプリ越しにあったから、心の塞がらない孤独を通して理解しあえた。きっと教室ではめぐりあえなかった。その一夜の繋がりが、脱却させてくれる勇気をくれる。だから、私は謝って欲しいと思ってなかった。ただ、違うところを見ているなら辛かったから確認したの」

「気づいたことがあるの」

「教えてくれる?」

「ふとした瞬間にあなたを思い出して苦しい。わたしはこの感情が恋だってわかった。好きだよ」

「私も好き。言葉にするのが遅すぎた」


 スクリーンに残るの私とあい。列の最後からスクリーンに背を向ける。

 私は修宇あいが好き。


「ねえ、あい。まだ時間あるよね?」


 手を握った。握り返してくれるから、胸の速度のままに外へ出る。

 あまりに外が煌めくから、このまま死んでしまいたかった。

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