路林和子の見解
「失敗した……」
私たちは近くのファストフード店に来た。駅前で人目のあるところだから、異常があればすぐ察知できる。路林に何かされても逃げられるようにしていた。
「路林があいの行動まで関与してるなんて想定してなかった」
ともかく2人とも無事でよかったと胸を撫で下ろす。あの集団の危険性は躊躇いなく人を襲えるところだ。彼らには自分の考えが正しくて、周りが間違っているという道理がある。その道理に適してしまえば、私たちは脅されていたかもしれない。あくまで、彼らにも目的があって接近した。
「路林は誤解と言ってたね」
「絶対うそ!」
静沼は彼女らになにか思惑があると疑う。
「あんな形でも、あいと会えた」
私のことを聞いた印象の通りだろう。なのに顔出してくれたから、まだ私たちの話を聞いてくれるのではないだろうか。
「少なくとも私から話に行くのは危険だ」
「路林?」
「いや、地車の肩入れしてしまう」
そういえば変だった。地車と静沼に接点があったとは思えない。修宇の存在を疎ましく思う前から、2人が話した素振りがなかった。それに、静沼は修宇あいのことを溺愛しているイメージだから、他者に寛容とは思えない。
「地車と何かあったんだ」
「そう」
「秘密?」
「そう」
耳が赤くなっている。彼女のしおらしい面は今後拝めないだろうと一瞬で察した。あいへの執着という疑問点は横に置き、私は悪戯心が働く。
「私と百合の関係は話したのに?」
「あ、あれは落ち込んでたから励ますついでで聞いてあげたんだよ。話すって気持ちが落ち着くところあるだろうし……」
自分の発言で、私がしたいことを語ってくれる。このメタ的な認知のさせ方で、静沼の突発的な怒りのような訴えは止まった。ここにあるのは、彼女の照れだけ。
「わかった。話すよ」
静沼は元から地車のことが苦手だった。修宇と二作の問題行動を逐一指摘してくるからだ。ある日、静沼は体育祭を怠けたくて、体調悪いと仮病を使う。すると地車が保健室まで運び、看病してくれた。その姿に興奮し、キスをする。地車が次をせがむので、保健室でセックスした。
「修宇が好きなんじゃないの?」
「そんなの私が1番そう思ってたよ!」
「ああ……。まだ静沼のなかでも答えが出てないんだ」
だから肩入れしているのか。彼女が赤裸々に話すのは普段より冷静じゃないからだ。あいさえ見たことないだろう。
「地車さんの容態は?」
地方を調べたことがある。クラスのグループは信頼なるものが流れてこなかった。地車がクラス内でも評価の高くない証拠。面倒な役員を率先して活躍してるのに、人望がない悲劇だ。
「よくないよ」
「入院してるの?」
「うん」
正面に静沼。彼女は頭を垂れる。髪の毛が下に落ちて、額にかかっていた。
「静沼は、あいとちゃんと対等に話せるなら、何を言うの?」
「わからない。どうしたいのか考える前に、答えになる前に動いていた。まだ固まってないし、不純だとは思う」
ストローを噛んでコーラを飲んだ。喉に炭酸が当たって刺激が効く。
「修宇のことは好き。でも、許せない。裁かれるべきだと思う」
「うん」
「二作はあいに全て言いたいんだよね」
「うん」
頷いたけれど、果たしてそうなのか。私は彼女の声を聞くと愛おしくなり苦しくなる。全て吐き出したくなるけれど、こう離れてみると平穏に頭が働く。
私は申し訳ないと思っている。でも、静沼のように目的は確定されていない。
「私は動く」
「次はどうするの?」
「今回みたいなケースがあるから巻き込めない。また連絡する」
「え? 一人でやるの?」
「私には兄がいる。大丈夫」
そう言って先に行かれる。私は残ったポテトを食す。冷たくて塩気が効いている。
△
カソの路林が押しかけて1週間がたった。静沼が修宇を救い出すという話をしてから連絡がない。一人で修宇を元に戻すとしても、兄の人脈を活用するとか。彼女に協力を申し出てくれないから、動けなかった。拒絶された時に心が参ってしまう。それぐらい弱っていた。
「連絡ぐらい入れればよかったな」
LINEの画面で静沼を表示する。アイコンは髪の毛を染めた彼女と兄。仲睦まじそうにしているが、兄の単語を出すだけで曇る静沼が気がかりだ。
「ん?」
チャイムが鳴り響いた。私の家は集合住宅の3階にあり、エレベーターがない。歩いてチャイムを押したことになる。尋ねてくるのは飛沼さんぐらいだ。今は母親がいるから、対応を任せることにする。
足音が遠ざかった。私の部屋はリビングを挟んで玄関がある。詳細に聞くことは出来ない。やがて、話し声が部屋に近づいていた。私の知り合いが尋ねてきたのか。
「かりん。入るよ」
「誰?」
「会えばわかる。紹介したいの」
扉が開けられた。そこは化粧を施した母と、路林だった。
「あら、寝ていたの? 久しぶりねかりんちゃん」
「え、なんで貴方が?」
携帯をベットの中に隠した。何をしているのかさえ知られたくなかったからだ。
だが、私の気持ちを蔑ろに母はいつもの調子で紹介する。
「ちょっと2人で話せる? かりんちゃん」
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