二作かりんの場合

強奪と報酬 ①

 子供たちの遊ぶ声で私の目は覚める。近くの幼稚園が周辺の街を散歩しているのだろう。

 私は身体を起こして、窓を閉めた。時計は14時を指している。今頃クラスでは昼の授業を受けているときだ。地車がクラスを仕切り、修宇あいや静沼いちずが発言権を持って目立っていることだろう。わたしは二作かりんから逃れられないから、学校なんて楽しくなかった。転校しても同じだ。1度失敗したら、一生立ち上がれないのかな。そうだとしたら、わたしはもう立てないのか。

 頭のなかで、私の恥が上映される。私の裸がネットに公開されていないことを祈るしかない。


「携帯……」


 携帯はついに鳴らなくなった。私が逃げるように部屋を籠っていたら、あいが連絡してくれる。返事する気力がなくて、傍観するだけの日々を過ごす。すると、2ヶ月前から彼女からの近況も途絶えてしまった。私の露出映像の説明をしたい。しかし、もう連絡が来ないなら、私は飽きられたのかもしれなかった。だとしても、仕方の無いことだ。


「かりんちゃん」


 扉の後ろで声がした。あの男は有給をとって家にいる。その優しさをどう受け止めたらいいのかわからなかった。


「何ですか? 飛谷(とびたに)さん」

「君の友達が来てるよ」


 あいが来てくれた。住所を教えていないから変だ。不思議に思いつつも嬉しさが込上げる。

 顔を見せて謝ろう。そう決めて、ベットからでた。


「今用意するから待たせてて」

「待たせなくていいよ。二作、すぐすむから」


 扉をあけられる。そこに居たのは、修宇あいではなかった。


「静沼さん……」

「二作さん。痩せたね」

「静沼さんこそ、髪伸びましたね」



 私たちは家を出てから近くの喫茶店に来店した。店内は時間を優雅に過ごす歳を召した女性たちが近所の話題や、テレビの不倫を熱心に話している。


「あの男は父親?」


 注文を終えて、不躾な質問をされた。どうやら私とは適切な距離で仲良くなるつもりがない。

 別に私もステップをふむつもりはないけれど、1本取られた気になる。


「母親の彼氏」

「ははおやのかれし」

「もういいでしょ。何?」


 詮索されたくない。私は話を切り出す。


「あいから連絡がこなくなったでしょ」


 私は頷いた。すると、彼女はカバンから携帯を持ち出し、画面を操作する。


「それはあいが問題を起こしたからね」

「何したの?」

「地車を暴行した」


 日中が暇になったからよく携帯を閲覧する。その時に、地車が殴られたことを知った。その犯人が修宇あいだと結びつかない。彼女が手を出す理由があるのだろうか。


「あいは躍起になっていた。あなたの動画を広めたやつを探すために暴走してたの。そうしたら、地車と衝突した」

「でも、なんで地車が?」

「地車は動画の管理を任されていた。藁にもすがる思いであなたを助けようとしたんじゃないかな」


 台風の時に波が激しく荒れるように、心が黒く狂う。修宇あいが私のために復讐してくれてる。映画館の約束を守っていた。ただ、私の知る修宇あいと違う。彼女は強く振る舞うけれど一線を超えない。というのも、マッチングアプリで出会った時は箱入り娘のような印象だった。


「それで私はあいに協力してたの。あなたは知られたくないだろうけど、転校前とか調べた」

「……」


 携帯の画面には私のつぶやきが表示されていた。誰にも相手にされなくて、普通にしている人たちの長所を愚行だと偏見の目で決めつけ、ネットに放流していた。


「これ、何?」

「これは今の気持ちじゃないよ」

「実行しようとした?」

「出来なかった。私は彼女を暴露するために聞くうちに親身になってしまった。本当に好きになってしまった」

「それを信じられる証拠を出せる?」

「ない。怪しいと思うならあいに見せたらいい」

「見せても逆効果でしょ。あいなら暴走するもん」

「長く付き合ってるからよく知ってるんだね」

「そう意地悪言わないで。私が修宇あいのことマジで好きなのわかるでしょ?」

「近づかないでってオーラも伝わる」

「そんな私があなたを特定してきたのは、頼れるのがあなたしか居ないからなんだ」

「何?」

「あいを救ってほしい」

「え?」


 修宇あいは学校に来なくなった。先生や生徒は犯人だと証拠もなく決めつけ、彼女のアカウント等を炎上させている。政治家の父はコメントを差し控えていた。その時期は連絡がこなくなった日と一致する。


「わたしの言葉じゃ相手にされなかった。私が助けようとしたけれど、地車の件を境に避けられている。でも、あいが求めているあなたなら正気に戻るかも」

「待って何の話?」

「家庭尊重委員会わかるよね」


 路林和子を広告塔としたスピリチュアル団体。独特の思想と旧時代の根性論を合体させ、政治的に力を持つ中高年や偏った若者の信者を獲得している。やることは慈善活動や講演会。あの手この手て仲間を増やしているのは、カルト団体と変わらない。


「修宇あいは今そこにいる」

「な、なんで?」

「それは私にも分からない。弱ったあいがつけ込まれたのかもしれない」


 彼女の母親がカソに入り浸っているのは耳にした。彼女は嫌疑的だったのに支持するものだろうか。そこまで意志が弱いなら人を殴ったり、私を求めたりと遠慮しない。


「報酬は、リベンジポルノを晒した犯人。載る?」

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