深海エレベーター
夏川しおめ
第1話
深海に続くというエレベーターは、思いのほか乗り心地のよいものだった。
深度二百メートル。いちめんガラス張りの室内には、僕と、親友である博士だけ。
深海の第一印象、くっら。
何も見えないが、明かりはつけるなと言われている。なんでも、目を慣らすためらしい。どういう意味かは分からない、聞いても、いいからいいからとはぐらかされていた。
「外よく見てて、いくよ?」
博士の聞こえ、「ジッ」という音とともに彼の手元から火花が散った。
一瞬、目の前の深海に無数の青白い光が浮かんだ。
「わ、何か光った」
「見えたかい? あれは深海の生物が発する光なんだ。僕が擦ったライターの火花に反応して光ったのさ」
その光はとても美しかった。
「深海生物は光に反応して光ることがよくあるんだ、光は深海の言語なんじゃないかって思えてくるよ」
光が言語とは、深海、
「どうだい? 面白いだろう?」
「うん、面白い!」
「でしょ! ライター、君の分もあるんだ、一緒に深海の会話を楽しもう」
僕と博士が火花を散らすとあちこちで光が起こり、それに応じてさらに光が起こる。僕は夢中になってライターを擦った。
いつの間にか、辺りは点滅する光であふれていた。
それは星がきらめく宇宙のようで、どこまでも幻想的だった。
その中に、素早く移動しながら一際強い光を放つのがいた。
チカチカチカッ、チッカチッカチッカ、チカチカチカッ。
「博士あれ見て、すごい綺麗」
チカチカチカッ、チッカチッカチッカ、チカチカチカッ。
「本当だ、明るいなー」
チカチカチカッ、チッカチッカチッカ、チカチカチカッ。
眺めていると、突然プツリと光が途絶えた。
光のあった場所には、サケくらいの魚がぼんやり光って姿を現した。チカチカチカっと再び光りだしたのがお腹の中に透けて見えている。
……食われた。
あ、
急に思い出した。僕はあの点滅の仕方を知っていた。たまたま、本当にたまたま、それだけ知っていた。多分、戦争映画とかで見たんだ。
(
(
(
SOS信号。
え? そういうこと? ホントに?
どんな生物か知らないけど、助けを求めていたのかもしれない?
信号はしだいに弱くなり、とうとう消えた。
深海エレベーター 夏川しおめ @colokke
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