素直になりたくてⅡ~1度目の恋よりずっと下手になっていたセカンドラブ

北島 悠

第1話 文化祭実行委員なんて柄でもないくせに

 この物語は「素直になりたくて」という話の続編です。パートⅠを読んでいない方のために簡単に背景的なお話をしますので、お読みの方は飛ばしてください。


 私はセクシャルマイノリティ、いわゆるLGBTのTに該当します。Tはトランスジェンダー。性別越境者です。性自認・性格・服装、どれか一つでも越境していればトランスジェンダーです。


 私はつい最近まで自分がトランスジェンダーである事に気づいていませんでした。なぜなら、典型的なトランスジェンダーの方は女性の服装とかお化粧をしたいという願望をお持ちですが、私はそういう願望が全くなかったからです。


 私の越境ポイントは、女性の性感と出産を経験したいという点のみです。あとは完全に男性の心を持っています。


 でも、今から考えてみるとかなり幼い頃から既に自分が普通の恋愛やセックスが出来ないという、潜在的なセクシャルマイノリティの要因を持っていた事が表れていました。前作では私の初恋のお話を題材にしました。



◇◇◇◇◇◇



 今回は2番目の恋、セカンドラブにクローズアップします。


 セカンドラブの相手はR子です。R子は中学2年の時に同じクラスになりました。この娘は私よりもずっと身長が高く、モデルのような顔立ちで一目惚れに近かったです。


 R子は当時流行っていた「THE・かぼちゃワイン」のエルみたいな娘でした。私は春助みたいになりたいという妄想に取りつかれました。


「THE・かぼちゃワイン」とは、チビで女嫌いの硬派な主人公・青葉春助と、彼に一目ぼれした大柄なヒロイン・朝丘夏美が繰り広げるコメディで、アニメ化もされた人気漫画です。ヒロインの愛称がエル(Lサイズだから)です。


 初めのうちはやはり疑似恋愛レベルだったと思います。他の女子にも興味津々でしたので。


 そして、R子の事をお話する上でどうしてもあらかじめお伝えしておかなければいけない事があります。それはかなりリア充だった中学1年から、中学2年に進級してすぐに一転して暗黒時代に転落してしまった事です。


 思い出したくないトラウマものの経験ですが、これを隠してはR子との恋も軽くなってしまうと思い、あえて取り上げる事にします。


 簡単に言えば、いじめられたという事になります。といってもクラスのみんなからではなく、ある特定の3人からのいじめで、私の事をかばってくれた人もけっこういました。R子もその一人です。


 もしクラス中からハブにされるような、もっと深刻ないじめだったら、私は今生きていなかったかもしれません。


 いじめられた原因は2つありました。まず一つがやはり女子とばかり仲良くしていた事。もう一つが、私をいじめた3人の内の1人に間違った対応をした事です。


 K男とS1男は、1年の時に仲の良かったA男(パートⅠに登場しました。お笑いタレントみたいな人物)の友達でした。だからきっとすぐに仲良くなれると思い、K男と初対面でかなり馴れ馴れしくしてしまったのです。これが気に障ったみたいです。


「H、お前とは初めて話したのに馴れ馴れしいな」私はなぜK男がそんなに怒ったのか分かりませんでした。

「ゴメン、何か変な事言ったかな」


 この日からK男と、彼の親友であるS1男の2人のいじめがはじまりました。少しして更にT男も加わり、3人からいじめを受けたのです。


 後日聞いたのですが、実はK男とS1男は一見A男と仲良さそうに見えたのですが、実は対等な友達ではなかったのです。A男は二人のいわゆるパシリにされていたようです。K男はかなりのツッパリで喧嘩っ早い人物だったのです。


 でも、中学生なので見た目ではそんな危険人物だとは全く分かりませんでした。


 私は喧嘩一つした事がないヘタレ男です。だから3人のいじめに抵抗する事も出来ません。一時は自殺も考える程にまで追いつめられました。登校拒否みたいになっていた時期もありました。


 そんな私を救ってくれたのが、S2男とR子を中心としたクラスの人気者グループの人達です。S2男は曲がった事が大嫌いなので、いじめは良くないと言って止めてくれたのです。


 S2男はサッカー部のキャプテンで、いわゆるインフルエンサー的人物でした。さすがのK男達もS2男と対立するのは得策ではないと判断したのでしょう。いつのまにかいじめはやんでいました。


 そして、R子は後日文化祭実行委員になった時に色々と話し相手になってくれました。


 これが、私がR子に本気で惚れたきっかけとなったのです。文化祭実行委員に選ばれると、その準備で遅くまで学校に残る事になります。


 R子は歌が上手で、当時流行っていた歌手H.Iの「聖母マドンナたちのララバイ」を歌いながら文化祭の準備をしていました。あまりの美声に私はすっかり虜になりました。


 R子は私にとってのマドンナだったのかもしれません。いじめで絶望し、疲れ切った私をあたたかく癒してくれた存在でした。


 私にとってこの学校は戦場で、傷を負った戦士だったのです。


 更に普段は席が離れている事もあり、ほとんど話す事もなかったのに、文化祭実行委員として連日結構遅い時間まで話をした事も大きかったです。


「М(R子の姓)歌上手いね。他にどんなの聞いてるの?」

「後は聖子とかかな。良くカラオケ行って歌ってるの」

「それで上手いのか」


 一緒にカラオケ行こう、なんて言う勇気はありませんでした。


 やはり私は1年生の頃と何も変わっておらず、相変わらず奥手なままでした。R子とはその後3年生の時も同じクラスで、2年の時の文化祭以来結構仲良くなって、休み時間にはいつも会話していました。


 当時流行っていたのが金八先生の第二シーズンと、仙八先生、飛んだカップル等で良くそういう話で盛り上がっていました。


 でも、それ以上何もする事が出来なくて、R子には気持ちさえ伝えられませんでした。卒業式の日の夜は、もうこれでR子に会えないんだと思ったら一晩中涙が止まりませんでした。女の子の事を想って泣いたのはこれが初めてでした。


 私にとっては2度目の恋は少しも上手にはなっていなかったのです。それどころか初恋よりも下手になっていたと言ってもいいくらいです。初恋の時は文字だけとは言え、一応気持ちを伝えはしたのですから。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、R子と運命の再会です。卒業後R子とは2度会う事になります。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

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