現金回収

Jack Torrance

回収成功!


「済みません。お金はオンラインカジノで擦ってしまってもう手元には無いんです。少しずつでも返していくんで勘弁してください。刑事裁判だけは勘弁してください。網走の冬は経験したくないんです。お願いします。お願いします。元はといえば誤送金したあなた方にも問題があると思うでしょ?」


男は『カイジ』の焼き土下座よろしく!


でこを床に擦りつけ詫びた。


日本国民は利根川のように焼けた鉄板の上で焼き土下座しろよと思ってるに違いない。


非課税世帯への特別臨時給付金の誤送金が巷を沸かせている。


男は誤送金された4630万円をインターネットバンキングで他の口座に送金し着服した。


代理人の弁護人が言うには返す金はもう無いとの事。


差し押さえる資産価値に値する資産も有していないとの事。


町は誤送金した全額と弁護人の費用を合わせて5100万円を超える返還請求を民事提訴した。


町長と副町長、そして男が一人、その税金を着服した男の家を訪ねているという緊迫した場面である。


町長が険しい表情で男に詰め寄った。


「少しずつ返すですか。あなた5100万円を月々10万円ずつ返済していっても42年と5ヶ月要するんですよ。それは非現実的な話でしょう。途中で死んじゃったらどうするんです?」


男は覇気のない様子で「はあ?」とだけ言った。


副町長が男に尋ねた。


「全額返済するのに町長が仰った月日が掛かるのはご理解されたでしょう。あなた今の健康状態はどうなんですか?」


「け、健康そのものです。ちゃんと働いて返します。体が丈夫な事だけが取り柄なんです。寝る間も惜しんでバリバリ働いてお返ししますんで。お約束します」


町長と副町長が顔を見合わせてにやりとした。


町長が先程までの険しい表情を軟化させ朗らかに言った。


「いやー、良かった良かった、健康なんですね。いやー、私はあなたの健康状態だけが気掛かりでした。ご紹介します。こちらは臓器ブローカーの土方 売臓さんです。新選組の土方 歳三とは縁もゆかりもないとの事です」


町長が連れて来ていた男を着服した男に紹介した。


紹介された男は金髪に髪を染め長く伸ばしてポニーテイルに結っていた。


左の耳たぶには三連のダイヤのピアスが光っている。


着服した男は顔面蒼白となった。


土方が名刺を取り出し着服した男の前に置いた。


「どうも、どんな臓器でもちゃちゃっと捌く土方です。我が社はロシアンマフィア数社とメキシカンギャング数社と業務提携しておりまして全世界に新鮮ほやほやの臓器を12時間以内に提供するをモットーに現在株式上場を目指して精進いたしております。12時間以内で全世界は無理だろと思われるかも知れませんが大丈夫です。我が社は大陸間弾道ミサイルを使っておりますので世界の裏側ブラジルまで12時間以内にちゃちゃっと迅速にお届け出来るシステムを確立しました。お陰様で我が社の営業利益は売臓だけに前年度比よりも倍増しちゃっています。なんちゃって。いやー、富豪の方々は実に贅沢だ。贅の限りを尽くした嗜好品を嗜んでいらっしゃいますので臓器はもうボロボロ。心臓疾患に糖尿病。移植を必要とされておられる方が沢山いらっしゃいます。お金は有り余る程お持ちでいらっしゃるので金に糸目は付けになされません。心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、ああ、後は角膜も大丈夫です。借金で首が回らない方っていますよね。返すお金が無いんだったら体をお売りになられる女性の方もいらっしゃるでしょ。それと同じ原理です。フッフッフッフッフ。あなたくらいの年齢で健康状態も問題無しでしたら億はゆうに稼げるでしょう。まあ、身から出た錆と思って諦めてください」


そう言い終わるか終わらないかの内に土方は背広のポケットから麻酔銃を取り出し着服した男目掛けて発射した。


麻酔針が首元に命中し「うっ」と前崩れになる着服した男。


その様子を見守っていた副町長が狂喜乱舞して町長に言った。


「町長、回収成功です。余った金でキャバクラで豪遊といきましょう」


町長が越後屋のような悪人面を副町長に向けた。


「後、コンパニオンのねえちゃんも呼んで熱海辺りでしっぽりといこうじゃないか、副町長。土方さんも是非」


土方はその容姿には似つかわしくない慇懃な物腰で丁重に断った。


「ありがとうございます。折角のお誘いですが私には富豪の方々と債権者の方々の依頼が詰まっておりまして。特に債権者の方々は最後の肉片まで啄む猛禽のようでありまして使える臓器は全部取っ払って売り捌いてくれとの注文が多いものでして。なので3ヶ月先までスケジュールがぎっしりなんです」


「いやー、土方さん、それは大変ですな。上場した暁には私も2000口ほど買わせていただきますのでインサイダーでよろしくお願いしますよ」


町長が土方の肩をポンと叩いた。


「いやー、町長さんもワルですな」


「ガハハハハ」


町長、副町長、土方が気を失っている着服した男を見下ろして高笑いしていた…

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現金回収 Jack Torrance @John-D

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