第9話 魔法少女(二十歳)

 言葉が出ない。彼女が、真理が、ヒーローもとい魔法少女になると言っている。ヒーローを支える側だった彼女が。

 大いに驚いたものの納得はしていた。少なからず可能性があった事を善継は想像していたのだ。


「…………そうか。妹に勇者がって話を聞いた時から考えていたが、候補だったんだな」


「検査した結果、あたしと由紀がだったんでね」


 精霊は誰にでも扱えるのではない。ヒーローは精霊を扱う素質と相性の良い精霊が揃う事で誕生する。そして精霊を扱う素質がある者は、ヒーローと同時に勇者となる可能性もある。だからこそこう呼ばれた。勇者候補と。


「血縁者に素質が見られやすいからな。妹さんだけでなくお前もとは……。ヒーローになれるのにメカニックやっていたのは?」


「あたしに合う精霊が見付からなかっただけだ。まあ。今はいるからこうなったんだがな」


 苦笑いをするも由紀だけは違う。嬉しそうに笑いながら真理に抱きつく。


「でも嬉しかったよ、お姉ちゃんが一緒にいてくれるって。お姉ちゃんすごく頭いいから頼りにしてるよー」


「ははは、まあ任せろ。…………と言う訳なんだ。だから善継の協力を頼んだんだ」


「……そうか。何、俺で良ければ協力するさ。給料も期待して良さそうだし」


 これだけ大きなバックがいるのだ。期待しない方がおかしい。


「勿論ですとも。少なくともスターカウント以上は約束しましょう」


「感謝します」


 玄徳と握手をする。言葉にしていないが、契約は成立したも同然だ。

 落ち着いてきたせいか善継の頭である事が思い浮かぶ。


「しっかし二十歳で魔法少女は……。流石に痛くないか?」


 そう、真理が魔法である事だ。彼女は小柄で幼い顔立ちをしているものの、立派な成人女性なのだ。年齢も二十なのだから酒も煙草も嗜められる。断じて少女ではない。


「自分でもわかってるさ。いくら見た目がこれでも実年齢を考えると……なぁ」


「だけどお姉ちゃん凄く可愛いんだから。魔法少女姉妹だなんて最強だよ」


「…………あたしが妹だと思われるだろうがな」


 誰もが首を縦に振った。善継も、伯父である玄徳もだ。

 二人が並べばどう思われるか一目瞭然。今は制服とスーツのおかげで本当の姉妹関係がわかるが、もし二人揃って魔法少女になったら……皆がこう思うだろう、由紀が姉だと。

 玄徳は場を修めようと大きく咳払いをする。


「と、とりあえずアレだ。せっかく来てくれたのだし、クロスギアと八ツ木さんの新しいコスチュームも確認してはいかがだろうか。実は八ツ木さんのコスチュームはフィギュア造形師の方に依頼しましてね」


「そうなんですか。それは楽しみだ」


 善継も気持ちを切り替えた。玄徳の言うバージョンアップしたギアも新しいコスチュームも気になる。


「では地下に。真理、由紀も行くぞ。君達のギアの確認もしたい」


「「!!!」」


 二人は一瞬身体が跳ねる。その様子を善継は見逃さない。


「そりゃ良い。こっちとしてもクロスギアがどんなのか見てみたいからな。構わないだろ、真理? 同僚のスペックも知っておくべきだからな」


「…………そう、だな」


 納得したかのように頷く。彼女が何を躊躇っているのかは善継も理解している。


 彼らは玄徳に連れられ部屋を出ると地下へと向かう。その間も真理は苦々しそうに歯噛みし、由紀は小恥ずかしそうにソワソワしている。

 そうしていると地下の一室に善継達は案内された。広い部屋だ。二十畳はあるだろう。


「ここは?」


「テストルームさ。世間にはクロスギアを隠さなければならなかったからね。ああ、こっちだ」


 玄徳が手招くと数人の研究員が集まる。その中で三十代くらいの女性が善継に歩み寄る。


「あの、メタルスパイダーさんですよね?」


「ええ」


「あはっ! お会いできて嬉しいです。もし良かったら後でサイン頂いても? 学生の頃からファンだったんですよ」


 そう興奮する女性に善継は微笑む。


「ええ勿論。昔から応援してくれたんですね」


「はい。息子は最近の若いヒーローに夢中で、メタルスパイダーみたいな昔から地球を守ってる古参ヒーローには目もくれないんです」


「仕方ないですよ。若いヒーローはデザイン面にお金をかけてますから。子供にも人気が出る」


「そうなんですよ。っと、仕事中でした。では」


 女性が一礼し離れると真理がニヤついた笑みで後ろに立つ。


「流石十年のベテランヒーローだな。やっぱり同年代に人気があるようで」


「まあな。それよりもギアを見せてくれ」


「淡白なやつだ。ほれ」


 真理から手渡されたのはいつも使っているのと同じ、ガチャガチャと腕輪を組み合わせたようなスピリットギアだ。


「見てくれは変わらないが中身はちゃんとバージョンアップしている。性能は期待してくれ。こちらが依頼した新しいコスチュームのデータも入っている」


「ほう? なら見せてもらおうかな」


 受け取ったギアを腕に巻いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る