第8話 バイオメダル
「バイオメダル……?」
色以外は精霊メダルと変わらないように見える。寧ろ模造品かと思ったくらいだ。
しかし真理がそんな冗談を言うはずがない。それが不安と期待を抱かせる。
「勇者は直接体内に精霊が混ざっている。当然地球の技術では精霊の移植は不可能。ならばとそれに近づける研究をした結果、人間の遺伝子を付与してメダルの方を人体に近づける方針にしたんだ」
「そうしてわが社はバイオメダルを開発した。しかし遺伝子提供をしたヒーローしか使えず、既存のギアでは性能も満足のいくレベルではなかった。そこで真理に協力を依頼したんだよ。バイオメダルの性能を引き出せるギアの開発のね」
流れは理解した。より勇者に近いヒーローの開発、それが彼らの目的だ。
「そんで作ったのがこれよ。由紀」
「あっ、はい」
由紀が内ポケットから手の平サイズの金色の物体をテーブルに置いた。パッと見はチェーンのついたコンパクトミラーのようだ。
「バイオメダル対応型スピリットギア、クロスギア。現行のギアよりも出力は七十パーセントは上だ。それにもう一つ凄い機能がある。勇者が使えるんだよ」
目を見開き驚く。
スピリットギアは精霊の力を引き出す物。同じように精霊の力を使う勇者にも使えると世間では思われていた。しかし実体は違う。勇者にはギアを使う事が不可能なのだ。
「勇者にも?」
「そうだ。ヒーローが使うギア、それにより生成されるコスチューム。世間からの評価を得られるようデザイン面ではかなり気を使っている。中には著名な漫画家やデザイナーに依頼しているヒーローもいるくらいだ。そんな変身アイテムを勇者がほっておくか? 否、自分も格好つけたいに決まっている。しかし勇者にはスピリットギアは使えない」
ざまあみろと言いたいような表情で真理は笑っている。
「体内の精霊と拒絶反応を起こしギアが機能を停止してしまうからな。だけどこいつは違う。バイオメダルが使用者に近いおかげで体内の精霊と共存し、一時的に精霊をもう一体追加するのと同等になった」
「なので私は勇者なんですけど、同時にヒーローでもあるんですよ」
胸を張る由紀。一瞬揺れる双丘に目がいきそうになる。
だがそれよりも驚愕すべき事がある。勇者が強くなる、より強大に。その道が開かれた事だ。
その危険性を玄徳も理解している。
「勿論この事は内密に。勇者に知られれば……」
「こぞってこいつを、クロスギアを求めるでしょう。しかし……となると妹さんは」
「そうさ。由紀は理論上地球最強の勇者だ。勿論勇者本来のスペックや経験、技量で上下するが、ギアを保有している分戦力は並の勇者を超えている」
真理が由紀の肩を叩くと照れるように笑った。
「そいつは凄いな。だけど何で魔法少女になるんだ? 確かに……その、何だ。魔法少女が持ってそうなデザインだけど」
可愛らしいデザインだと思う。女の子が喜びそうな、表面に宝石で六芒星が描いてある。
「デザインは後で変更されたんだ。本来は現行ギアと同じデザインの予定だったんだよ。実はメダルの生成で問題があったんだ」
真理がパソコンを操作する。そこには採血を受けている真理の写真があった。
「バイオメダルの性質上、メダルに付与される遺伝子は使用者のもののみ。メダルは完全に専用のものとなる。今までは相性が合えば他ヒーローのメダルも使えるだろ?」
「ああ。中には殉職したヒーローのメダルを引き継いでいるのもいるな」
「しかしバイオメダルは違う。由紀が使うメダルは由紀の遺伝子を付与しているせいで、彼女だけにしか使えない。そして遺伝子の付与は女性にしかできないんだよ。ねえ伯父さん」
玄徳も頷く。
「残念な事にな。現在男性ヒーローのバイオメダルは作成できない。女性ヒーロー専用の装備なのだ。よってビジュアルによる宣伝を考慮した結果、魔法少女のチームとなった」
「成る程な……。だけどそれなら何でお…………私が選ばれたのですか? こう言うのも何ですが、私はあまりヒロイックなコスチュームではありません。こういったデザインを好むファンはいますが、魔法少女とは縁は無いかと」
善継の変身するヒーロー、メタルスパイダーはどちらかと言うと悪人面だ。怪人蜘蛛男なんて呼ばれてもいる。
「そこも承知の上です。しかし真理が貴方を強く推薦していましてね」
「真理が?」
真理は咳払いをしながら慌てたようにそっぽを向く。
「フン。人格、経験、それらを考慮した結果だ。他意はない」
「私としても貴方の経歴なら表立たずともオルタナティブの力になっていただけると確信しています。十年ものキャリアのあるヒーローはそうそういませんからね」
「……そりゃどうも。評価していただけるのはありがたい。そうだったな、司令官って話だ。表立たないのだからビジュアルは気にしないって訳ね」
真理から聞いた話では善継に求められているのは司令官だ。ヒーローとしての経験から、由紀に足りない視野や状況判断力をフォローするのが仕事なのだろう。
「勿論場合によっては前線に立っていただく可能性もあります。ヒーローとしての戦力も期待していますから。ですので貴方の新しいコスチュームも用意しています」
「ついでにギアもバージョンアップしてやる。クロスギア程ではないが、今までよりは確実にパワーアップしているぞ」
「そいつはありがたいな」
新しいコスチュームと言うのも気になる。更にパワーアップもできるなら至れに尽くせりだ。
善継はふとある事を思い出す。
「そういえば他のメンバーは? 妹さんが中心ってコンセプトなら他にヒーローや勇者がいるんでしょう? その、魔法少女が」
「ええ、勿ろ……」
「んん!」
玄徳の言葉を真理が咳払いで遮る。彼も察したように真理に促した。
「現在のメンバーはリーダーである由紀、指揮をする善継…………それとヒーローが一人の三名だ。まだ選定がすんでなくてな。外部にクロスギアの正体を漏らさないようにする必要があるから」
「それはわかる。で、そのもう一人が誰なんだ」
真理はたじろぎながら目を反らす。手は震え言いずらそうに口ごもっていた。
「…………あたしだ」
「は?」
「あたしがもう一人の魔法少女なんだよ」
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