獣人少年の苦労譚~責任とれって言われても重すぎだし!~

スイッチ&ボーイ

枠外れのエルフとの出逢い編

第1話 後悔先に立たずを地でいく その壱



 (何でだ……何でこうなった……)


 焚き火を前にして座るひとりの少年ーー獣の耳と尻尾を持つ獣人である、コテツ・ヤイバは傍目から見てもわかる位に陰鬱な様子で体育座りの体勢で頭を抱えていた。


(故郷を出てから五年あまり経って、冒険者になってそこそこ稼げるようになってきて後はまぁそれなりの努力して一般的平均な人生を送るっていう俺の人生設計が……何でここで狂いだすんだよぉっ!)


「ん? どうした、コテツ? なにか悩み事でもあるなら私が聴くぞ」


 顔を突っ伏して何やら深刻な雰囲気をしてるコテツに、能天気な感じで声をかけてきたのはひとりの女性だったーー長身で眉目秀麗な顔立ち、ストレートロングの金髪が腰まであり、悩ましいスタイルをした極上の美女と形容できる美人だ。


 天が一物も二物も与えたような恵まれた体の持ち主だが、それも彼女の耳を見れば納得する。

 普通の人間の耳と違って横に伸びた形をしていて、それは美男美女が過半数を占めるエルフという種族の証だ。


「……強いて言うなら、俺の目の前にいるアンタが悩み事の元凶だよ」

「ほぉ? この私がきみの悩みの元なのか……なら尚更、力にならなければならないな。私が原因だというなら、誠心誠意をもって悩みを解消してみせよう」


 そう言って横に座り、こちらに微笑みかけるその様は美貌と相まって高名な絵師が描いた絵画が現実に顕現したようにさえ錯覚する。


「きみに暗い表情なんて似合わないからな。元気一杯に笑ってる顔が一番好きなんだ♪」

「…っ、そ、そうかよ、そりゃ良かったな」


 キザったらしく思える言葉も、彼女が口にすれば最高の口説き文句に変わる。イケメンばりの爽やかな笑顔もあってコテツは直視できずに目を逸らす。


日の暮れた時間帯で焚き火を背景に互いに寄り添っているというシチュエーションは告白などをするにはうってつけの場面だろう。なので、彼女も己の本心を包み隠さずに話した。



「だが、同時に私はこうも思ってるんだ……快楽で喘いでいるきみもメチャ素敵カワゆす♡とっ!!」



 拳を握って生々しい言葉をいい笑顔で宣ったーースン、と彼女の美貌にどきまぎしていたコテツの顔から感情が消え失せて虚無のごとき真顔になる。

 しかし、その変化には気付かずにつらつらとあけっぴろげに己の欲望を語りだす。


「獣耳や尻尾を弄ってあげたらイイ声で鳴いてくれて身悶えするほどに可愛らしい……でも行為となったら身も心も貪り尽くす勢いで励んでくれる野性的さがまたギャップ萌えがあって、もう今の私はきみにメロンメロンだ。と言うわけでだ、コテツ! きみの悩みはすなわち、私を抱けば万事解消というわけなんだ。さぁ、今日もまた甘いランデブーの夜を過ごしてーー」


 横を向くと当のコテツの姿は忽然と消えていた。話し込んでる隙をついて逃げたらしい……しかし、彼女は慌てるでもなくその場から立ち上がる。


「《広範囲索敵》《固定対象観測》《ライト》」


 保有するスキルをフル活用し、夜の闇にへと消えたコテツの居場所を瞬時に把握。そして暗闇を一瞬で真昼のように照らす魔法で視界を良好にすると、短距離ランナーも裸足で逃げ出す瞬足で獲物ーーもとい恋人のコテツの後を追い、ものの十秒もしない内に全力疾走しているコテツの後ろ姿をロックオンする。


「見つけたぞ、コテツ~~っ!」

「ぎゃあぁぁぁぁっ!! 来んなっ、来んなしっ! 昨日だって散々やったから今日は良いだろーーっ!」

「なにを言ってるんだっ? 愛しの恋人同士なら毎日、いや半日ごとにでも愛を確かめあうのは常識だろうっ!」

「俺を搾り殺す気かいっ!?」

「心配はすることない、私は一流の回復師ヒーラーでもあるからな。たとえ、きみが九分九厘の瀕死になっても瞬く間に復活させてみせるっ!」

「新手の拷問かよっ!!」


 捕まったら間違いなく一滴残らずに搾り尽くされる恐怖にコテツは冒険者稼業で鍛えて馬以上に速くなった種族特有の脚力を全力で行使して逃げに徹するーーが、身体強化魔法によってコテツ以上の脚力を発揮した彼女は十数センチという距離にまで詰め寄ってきて、某怪盗のごとく服を一瞬で脱ぎ去ってジャンプすると上空からコテツに襲いかかる。



「さぁっ! 今宵もまたオールナイトで楽しむぞ~~~っ!!」


「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



 下着姿の美女が空から降ってくる……淫夢のようにみだらだが、しかし、その光景はコテツにとっては悪夢にも等しかった。

 そのまま押し倒されて言葉通りに夜通し〝楽しむ〟ことになってしまったコテツは平穏とは程遠い日々を送ることになってしまった原因であるエルフの女性ーーアールエルツ・シェリーと迎合してしまった日のことを薄れ行く意識の中で思い出していた。


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