ミネルヴァへようこそ!~異世界転生したら俺の父親がかたつむり観光客でした~

執筆するG

あなたにとてつもない幸運が訪れた!

 桜木は夢なら覚めて欲しくないと思っていた。何故なら桜木の周りには美少女が何人もいるのだ。皆が桜木の事を好きなのか体を近づけたり、おもむろに撫でてほしいと訴えるように頭を差し出したり、何故かカタツムリがのそのそと目立つ所を歩いていたり?とにかく素晴らしい空間だった。


 出来ればこのまま一生ここに居たい。


 なんてどうせ叶わぬ願いを普段は祈りもしない神に祈った。しかし、どうやら彼はとても幸運だったらしい、なんせ神に祈りが届いたのだから。


「うみみゃぁ!」


「うおおおおお!?…あ、あれ?」


 それは不思議な感覚だった。まるで頭の中に直接語りかけてくるような…俺は正体不明の叫び声にそんな感想を抱いたがすぐにそんな事はすぐにどうでもよくなってしまった。


「ここ何処だ・・・?」


 見知らぬ壁、天井、部屋にはこれまた知らない小さな勉強机に本棚おまけに自分が寝ていたベッドすら違うときた。だが自分の体を見た時更に疑問は深まる。こんなに自分の手足は小さかったか?そう疑問に思いながらふとベッドの横にあった小さな鏡を覗き込むと…そこには知らない顔があった。



 *



 さて改めて自己紹介をしておこうと思う。俺の名前は桜木京弥さくらぎきょうや何処にでもいる男子高校生だ。勉強、運動共に平々凡々。ちょっとオタクな趣味もあるが別に普通だと思う。

 ここまでの自己紹介、まるで異世界転生してくださいって感じの自己紹介だろう?実際これで異世界転生したのだから笑うしかない。俺だってオタクな趣味を持っていたから多少の憧れはあったし、実際出来た時は飛び跳ねて喜んだ。あの時何事かと駆け付けた母上から「うちの子どうかしたのかしら」って顔で見られてたのは思い出として今もしっかり覚えている。なんだったらあの瞬間は人生で最も幸運な日が訪れたと思ってた。

 だが、この世界に来て一週間程度の俺でも声を大にして言える。異世界転生はやめとけ!いや、少なくともこの世界にだけはくるな!と何故そんな事が言えるかって?少し目の前の光景を見て考えて欲しい。酒場では冒険者風の男から、お隣の奥さんまで、お酒を飲んだ瞬間みんなで大乱闘殺し合いそれを見ている日本でいう警察官である筈のガードのおっさんはガハハと笑って止める気はゼロだ。

 ちょっと横を見ると喧嘩してる隣で演奏をしていた吟遊詩人に石が剛速球で投げられ見るも無残なミンチにされている。なに?さっきのガードのおっさんはどうしたんだって?安心して欲しい。投げたのはそのガードのおっさんだ。…あ、隣の奥さんが勝ってる。ミンチがもう一つ増えたな。

 とにかくここには倫理観だとか人の命は大切だとかそういった言葉は一切ない。いや、あるかもしれないがこの一週間で俺は人の死にざまを何度も見てきた。酒場の喧嘩に巻き込まれて死んだり演奏してたら死ぬなんてこの世界では常識だ。その証拠にガードのおっさんは相変わらず誰一人として捕まえようとしないし母上に至っては返り血まみれのお隣さんと世間話中だ。


「あんまり待たせるとニーサちゃんが退屈しちゃうからそろそろ帰るわね…ニーサちゃん?」


「あ、ごめんなさい母上…ちょっと目にゴミが入って…アハハ…」


 いかんいかん、自己紹介の途中だったのについヒートアップしてしまった。桜木京弥とは俺の前の世界での名前。今はニーサって呼ばれている。すらりとした細身の体に我ながら綺麗な銀色の髪。幼さの残る可愛らしい、しかし、きっと美少年に成長するであろう美しい顔だ。強いて容姿について問題点を挙げるとその美しい顔に成長するまでに死ぬ未来しか見えない事だ。


 ここは人の命が金貨一枚より軽い世界。

 ようこそミネルヴァへ!

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