僕は文武両道で頭脳明晰な親友がいる高校生。
駅前は沢山の人々により混雑していた。今はちょうど通勤ラッシュの時間帯らしい。
待ち合わせを親友と約束していたのだが、まだ姿は見えない。
遅刻の報告は来ていたので、遅れることは分かっていたがそれにしても遅い。
もしかして、待ち合わせ場所を間違えて連絡したか?
急いで会話履歴を確認してみる。が、きちんと『駅前東口銅像前』と送信されていた。既読だってついているし、了解のスタンプも。じゃあ、シンプルに遅刻か……。
やることもなかったので、スマホを片手にゲームを始めているとーー、
「あ、あれ? もしかして
見覚えのある姿が前方をよぎった。
知ったような顔の女性が、キョロキョロと辺りを見渡しながら、西口の方へと歩き出そうとしている。
「な、渚か!?」
居ても立っても居られなくなって、早足で追いかけてしまう。恐る恐る肩をポンと叩くと、
「いえ、人違いです」
ハッキリと否定された。
「あ、そうですか……。すいません」
恥ずかしい、ただの他人の空似だった。
女性は不審がりながら西口の方へと歩いていく。単なるそっくりさんだったかぁ……。
あまりにも似ていてついドッペルゲンガーを疑ってしまった。「君の名は?」と聞いてみたら良かったか。
数年前に引っ越した幼馴染みと駅で再会、ドラマみたいな展開ではある。
しかし、ここは現実世界。リアルワールドだ。アニメや漫画などで起こりうるお決まりのような定番も通用しない。そのような事は起きっこない。絶対にあり得ないのだ。
──運命的なモノなどある筈がない。
物思いにふけながら、イヤホンを耳に嵌めようとした時、ポンと誰かに肩を叩かれる。
「えっ!?」
「ひっ……!? ごっ、ごめんなさい……」
振り返ると一人の少女が目の前に立っていた。び、びっくりした。メリーさんでも現れたのかと思ってしまった。しかし、この人の声と顔つきはもしかして。
「なんだ、本物の渚じゃないか」
「えっ……? ほ、本物……?」
聞き返す彼女に、僕はふと思う。
あ、運命的なモノも、意外とあるんだなと。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
僕の家のすぐ近所に住んでいた幼馴染み。
彼女は小学五年生の時に転校した。今は別の土地に住んでいると聞いていたけれど、まさかこんなところで会えるだなんて。
「お、おはよっ……! 善一くんっ」
「おぉ、おはよう。渚」
久しぶりに見る渚は、どこか大人っぽくなっていた。
短かった髪は、肩まで伸びたロングヘアーになり、ぺたんこだったバストも今はしっかりとした膨らみを感じられる。
昔は黒縁眼鏡を掛けていたのだが、今はコンタクトに変貌を遂げていた。
「久々じゃないか、渚。元気にしていたのか?」
「う、うん。わたしは元気だよっ……!」
「そりゃ良かった」
思わず手を握ってしまう。よくこうやって手を繋いで一緒に帰ったっけ。石蹴りとかしてさ。
「あ、手……」
「おっと、ごめん。ところで、渚はいつこの町に帰って来ていたんだ?」
手を離して僕がそう尋ねると、渚はどこか照れ臭そうに笑って、両手をギュッと握りしめた。
彼女はいつも緊張したりとか、照れている時にはこうやって両手をギュッと握っていめていた。これは渚の癖なのである。
「さ、最近越してきたばかりで……!」
「なんだ、そうだったのか。それなら言ってくれたら良かったのに」
と、そこまで言い切って、そういえば連絡手段が無かった事に気づく。
「ぜ、善一くんはどうしてここにっ……? あ、その制服」
制服を指摘されて、僕も気付く。彼女が身にまとっていたのは、これから僕が向かう”ハゲダニ”高校の女子制服そのものだったからだ。
久々に幼なじみ三人集合というワケか!
「善一くんもハゲダニなのっ……?」
「そうだよ。という事で、またよろしくだな、渚」
「う、うんっ。宜しくお願いします……!」
なぜ、敬語になる。
恥ずかしそうに手を差し出す渚の照れ屋っぷりは相変わらずである。
差し伸べられた手をしっかりと握る。彼女はほんの少しだけ、顔を赤く染めていた。
「よし。だったら、せっかくだし一緒に学校行くか?」
「ご、ごめん……。友達と約束してて……」
誘ってみたが、丁重にお断りされてしまう。そりゃそうか。再会できるなんて、思ってもいなかったしな。
「りょーかい。なら、LINEだけ交換しとこうよ。何かあったら、また言ってくれ」
画面に表示されたQRコードを読み取って連絡先を登録と。よーし! これでまた新たな友達が追加されたぞ。
「う、うんっ……! またねっ……!」
「おう! じゃあまた」
渚に手を振り、去りゆく背中を見守った。
さて、僕もそろそろ行くか。ゆっくりしていたら遅刻してしまいそうだ。
鞄を肩に掛けて歩き出す。
ふと、何か大事なことを忘れている気がしたが、きっと気のせいだろう。
「おい、イッチー。お前、俺を置いていこうとしてるだろ?」
あ、そうだ。
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