僕はハーレム高校生。

首領・アリマジュタローネ

【序章】

僕はどこにでもいるハーレム高校生。



   ハーレムなんてクソくらえだ。



 上空を見つめながら僕、新垣善一あらがきぜんいちは心の中でそう吐き捨てた。


 冬の星々は嫌になるくらい輝いていて、とてつもなく胸糞が悪かった。銀河戦争でも勃発すればいいのに。


 そうだな。こういうのはどうだろう。


 おおいぬ座のシリウスとこいぬ座のプロキオンが手を組んで、地球に戦争を仕掛ける超大作スペースファンタジー。オリオン座のベテルギウスは今作ではハブられていたので、第二章から登場予定。


 勿論、オチも既に決まってある。



 [必死の抵抗も空しく、人類は滅び、地球は破滅してしまいました]



 あぁ、完璧だ。出版社にでも送り付けようか。



 一人ベンチに座りながら、あれやこれやと他愛もない妄想を膨らませる。誰もいない公園は静かでいい。

 

 「……はぁ」


 吐いた息が白く昇る。指先が痛い。ずっとダッフルコートのポケットに手を突っ込んでいるのに、寒さは収まらない。最悪な仕打ちである。


 苦し紛れの現実逃避。何もかもが辛い。こうやって想像でも繰り広げておかないと、身が持たない。現実を直視できないのは、自分でもよく分かっていた。


 「……最低だな、僕は」


 思わず自嘲気味に笑いたくなった。面白くもなんともなかった。


 頬から何かが零れ落ち、膝の上へと落下する。鼻も詰まってきたので鼻水を吸い上げてなんとか抵抗する。泣いてなんかいない。これは花粉の影響だ。


 でも言い訳は体には通用しないみたいで、ずっと我慢して防壁していた心の最後の砦は決壊し、感情の波が溢れ出てきてしまう。


 苦しみとか、悲しみとか、そういう負の感情から逃れてしまいたかった。耐えられない。一体どうすれば良かったのか。



 複数の異性に好意を抱かれることを「ハーレム状態」と呼ぶ。


 一生に一度の超絶モテ期。景気が良くなって、見るモノ全てが輝いて見える。まさに人生の絶頂期。


 だけど、それもいつまでも続かない。


 バブルは崩壊するし、宝くじで大金を手にしたものが必ずしも幸せになるとも限らない。来るべき時は必ず来る。報いは受けるのだ。現実はそこまで甘くはない。


 色んな人に振り向いてもらえて羨ましいだとか、選び放題で苦労しないとか、経験していない人たちにとっては消えることのない夢のひと時に感じるだろう。儚く、無情な、人生の一ページに過ぎないというのに。


 だから僕は持論としてこう唱えよう。ハーレムなんてクソくらえだ、と。


 今から語るのは全部僕自身の経験談。


 全ては桜の下から始まる。



 ───これはハーレム高校生の僕が、大切なモノを失っていく物語だ。

 


 

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