【三巻後編】Over the ClockSpeed! Ⅲ C-2 Stepping
0x0C 吹雪
判らない。
何が悪いのかさえ見えていない。
僕は自分のデスクで頭を抱えていた。隣の蒼も困ったような表情を浮かべている。
「うーん……やっぱり、IPには問題なさそうなんだよなあ」
「ボードもわざわざ『生基盤』にプローブ当てて確かめてみたんですが、やっぱり伝送特性は問題ないんです」
「サブストレートは?」
「シリコンを乗せてないサブストレートでも測定してみましたが、やっぱりシミュレーションの予測範囲です。なのでサブストレートも問題ないかと」
「ぐう……何だぁ?」
聞こえてくるのは、砂橋さんたちの困惑の声。
もちろん、今までただただ困り果てていたわけではない。
「A、Bチャネルを管理するメモリコントローラ0番に負荷が掛かった時だけ問題が起きるんですよね?」
「そうそう。で、メモリを変えても板を変えても何をしても変わらないってわけ」
「となると、やっぱり製造不良のセンは完全に除けますよね。設計自体がおかしくないかぎりは」
「そうだねえ。設計の方も、これだけ見直して、みんなにも確認してもらって問題がないわけだから多分本当に大丈夫なんだと思う」
「設計も、製造不良でもないとなると……本当にわかりませんね」
問題の調査自体は進めている。必要なIPをシリコンに入れるのは二回の試作で終わっているから、砂橋さんと道香の手が比較的空いているのは本当にラッキーだった。
でも、何が悪くて、何が起きているのかははっきりしていない。
物理側の専門家二人だけでなく他のメンバーにも確認してもらい、いわば部員全員で確認しても。
「だあーっ、設計は全部終わったけどすっきりしないっ」
「これで直ってくれてるといいんですが……」
「直られても困るんだよねえ、何しろ何が悪かったかわかんないんだから」
「うーん……」
「道香、終わったの?」
「うん、終わった。作ろうと思えばいつでも作れるよ」
「……シュウ、どうするの?」
そんな状況でも、開発は進めざるを得ない。後ろが決まっていて、それ以外のCPUコア側にも改善、修正しないといけない点が山ほどあるのだ。
「とりあえず進めないことにはだもんな。よし、久しぶりに会議室でやろうか」
「そだね、おやつでも食べながらやろ」
一月の二十八日、木曜日。問題が発覚してから二十日が経ったけれど、僕たちは有効な解決策どころか原因の手がかりすら掴めずにいた。
すぐに会議室に全員が集まると、開発会議が始まる。いつも通りおやつを囲んでこそいるけれど、その表情は浮かない。
「まずは論理設計ね。入れたかったものは今回のステッピングで全部入れたわ。マイクロOPキャッシュも根性で間に合わせてみせた」
「おおー、すげえじゃん。仕様は前言ってた通り?」
「そうよ、悠に前渡した仕様書から変わってないわ。諸々の改良を入れて、コアの処理能力自体は上がってる」
「バグ修正も進めてるよん。二十個くらいは潰したかな?」
「でも、今問題になってるメモリ周りの挙動に関わるバグは無かったわ」
「わかった。論理設計側は本当に順調なんだな」
蒼は少しだけ心配そうに頷くと、星野先輩を見ながら言った。
「星野先輩が頑張ってくれてるわ。一人じゃ間違いなく死んでたわよ、こんなの」
「あたしも久々にがっつり開発できて楽しいよ」
それに星野先輩も笑顔で返す。本当に楽しんでくれている表情に見えて、僕は改めて偉大な先輩に心の中で手を合わせた。
「で、問題の物理組。どうよ?」
「うーん……シリコンの中のノイズの回り込みなんかもチェックしたけど、問題なさそうなんだよねえ。とりあえず今回のCステッピングではやりすぎなくらいに気をつかってはみたけど」
「これと論理設計側のバグチェックでどうか、ってところか」
「てか、物理設計後のメモリコントローラにIP付属のテストをいろんな条件でやってみたけど、全然再現しないんだよ」
「シリコンを使うとほぼ確実にどこかで再現するのにシミュレーションだと全然出ないのも変な話だよなあ」
このチップのために買った新しいソフトでは、色々な条件でシミュレーションができるのだという。温度や電圧、それにトランジスタの特性まで色々変えてテストをしてみたけれど、同じような症状は見えなかったと言っていた。
つまりは、理論上はメモリコントローラ単体ではほぼ起きえないということ。
「そうなんだよ、杉島くんの言う通りでさあ」
「とりあえず、シリコンの方は物理設計まで済んでるよ。というわけで、物理設計もゴー」
それでも問題が再現しない……ということは、砂橋さんの設計にも多分問題はないのだろう。
「ボードの方も、メモリ周りの信号を全部洗ったけど問題ありませんでした。シミュレーションだけじゃなくて実際のボードでもいろいろ測定してみたんですが、全部問題ないんです」
「『インピーダンス整合』とかも見たのよね?」
「はい、メモリは特に繊細なのでちゃんと見たんですが……実測で届いているボードを全部確認しましたが、問題はありませんでした」
「となっちゃうと、問題はなさそうだねえ」
「実際、起動時の『マージンテスト』は問題なく通るんです」
「ってことは、実際に動いているシリコンからメモリまでの信号品質に問題はないってことだもんな」
「柳洞先輩の言う通りです。なので、ボードとサブストレートからもゴー、とさせてください」
道香の方でも、全部の信号を洗ったらしい。メモリコントローラからメモリまでの信号の品質を、ちょっとずつ設定を変えながらチェックして問題が出ないことを確認するマージンテストも通過している以上こちらにも問題はないように聞こえる。
メモリへの配線は一つのチャネルあたり二百四十本にも及ぶ。電源を除いたとしても四チャネル分で配線の数が四倍されると考えると、どれだけ大変なチェックをしたのかは簡単に想像できた。
「いよいよもってわからないねえ」
星野先輩のつぶやきが、僕たちが判っていることの全てだった。
「ソフトウェア組は?」
「おう、俺たちの方は順調だぜ。無理やり動かしてるBステップで欲しいデータは概ね取れたし」
「オレのBIOSも大丈夫だ、賢く概ねの設定を自動でやってくれるような機能も実装できたしな」
「最初は挙動怪しかったわよね?」
「まあまあ、最初は何でもバグまみれなもんだって」
「修正を諦めて俺に何とかしてくれって言ってさえ来なければ最高なんだけどなあ」
「仕方ないだろ、BIOSをコンパイルしてるのもお前が作ったツールなんだから」
悠と宏も順調らしく、元気に胸を張って責任の押し付け合いをしている。
実際、宏が作るBIOSも全てがCPUの命令に一対一で翻訳できるアセンブリを使っているわけではない。むしろ普通のプログラムと同じように、C言語で書かれている部分の方が多いくらいだ。
当然それはコンパイラを使わないとCPUが理解できるバイナリにはならないから、ある意味責任の押し付け合いは正しい。
もちろん奴らの性根が醜いことは全く否定しないが。協力しながらやってくれよ。
そんな二人の様子を見て、砂橋さんは大きくため息をついた。
「本当に、Aステッピングを無理やりインターポーザー使って動かして大正解だったね」
「あの時サブストレート側を変えてたら、本当に動かすものが無くなっちゃってましたからね」
メモリの挙動が怪しくて負荷を掛けるとフリーズしてしまう以上、新しいボードと組み合わせての評価はまともにすることができていない。
だが、抜け道はあった。Aステッピング、最初の試作ではメモリコントローラが入っていなかったから、「下駄」ことインターポーザーを挟んでMelonField用のボードで動かしていたのだ。
宏のBIOSから無理やりメモリコントローラを切ってしまえば、電気的な仕様はAステッピングと同じ。
というわけで、今はメモリコントローラを切って、今まで通りMIHに入っているメモリコントローラにメモリを繋いで動かしていた。
最初はそれ用のBIOSの準備を面倒くさがっていた宏だけど、二日経っても問題が解決しないと見ると顔色を変えてあっという間に準備を終えていた。最初からそのペースでやってくれ、というのは野暮だろう。
何しろ、そうやってでも動かさないとメモリコントローラ以外の設計がちゃんとできているかどうかもわからないのだ。
「性能はどうなんだ?」
「んー、やっぱり伸びねえなあ。一応100GFLOPS近くまでは出てるけど、これ以上は多分本当に無理だ」
「後で話すけど、クロックはもう少し伸びる」
「だけど、メモリ律速がいよいよ厳しいぜ。ここまで速くなっちまうと」
「少なくともメモリ周りがなんとかならないと、Intechには勝てないか」
性能の方はといえば、二度目の試作でクロックは大幅に伸びた。コアの性能を地味に伸ばす改良も入ったおかげでさらに性能は出やすくなってはいるけれど、全力とはいかない。
前回のMelonFieldでさえ足を引っ張られたメモリなのだ。そのさらに五倍近い処理を行うとなればさらに首が締まってしまう。
「だな。一応だけど、キャッシュに収まるような本当に小さいプログラムを実行するならめちゃめちゃ速いぜ」
「それだとどれくらいだ?」
「簡単な自作プログラムだが、浮動小数点の行列演算で180GFLOPSくらいだな」
「よし、コア自体の性能も順調に伸びてるわね」
「ってことは、目標達成へのベクトルは合ってるってことか」
「もっとも、そんなチンケなテストで許してくれるとは到底思えないけど」
メモリにほぼアクセスしない、つまりは頭の中だけで事足りてしまうような小さなプログラムであれば目標に近い数字は出ているらしい。
もちろん悠の言う通り、そんな簡単なテストが本番で使われることはないだろう。何しろ一番メジャーなベンチマークであるLIMPACKを使ってもメモリが足を引っ張っているのだ。より実用途に近く、負荷も重いプログラムが選ばれるであろう今回の大会では間違いなく太刀打ちができなくなってしまう。
「せめてMIHが『DDR2』なんて化石じゃなくて、『DDR3』を使えたらなあ」
「MIHのプロセスって確か130ナノとかだろ? そりゃ無理だ、燃えちまうしチップ面積が馬鹿でかくなっちまう」
「ただでさえ周辺チップ用のバス全部盛りでチップ自体が結構大きいからねえ」
「きょうび車載用のCPUにも使ってないぜ、130ナノなんて」
「何年前? 90ナノでさえ化石に近いのに」
「最初が2001年だってさ。今年で十九歳だ」
「私たちより年上じゃん」
みんなのぼやきを聞いて、僕は苦笑いを浮かべた。
MIHのような周辺チップは、基本的に古いプロセスで作られている。理由は割とシンプルで、先端プロセスの製造ラインはCPUだけで埋まってしまうからだ。
それに、わざわざ高価な先端プロセスを使わなくてもいい理由もある。周辺チップに出されるような比較的遅いバスは、先端プロセスのような超高クロックを必要としないからだ。
なんなら、古いバスになると信号電圧が高かったりする。となると、もともとのトランジスタが大きく、比較的高電圧にも耐えやすい古いプロセスの方が良いことさえあるのだ。
さらには先端プロセスは一枚のウエハーを仕上げるための工程も多くなるからコストも上がる。チップセットにとってはあまり良いことがない、というわけだ。
とはいえ二十年前近いプロセスとなればさすがに古すぎる。そこまで古いと、最新の高速バスどころか、一世代前のメモリコントローラすら入れ込むのが難しくなってしまうというわけ。
「『PCI-Express』も初代だしね。『SATA』があるだけマシとはいえ何とかしてほしいよ」
「さすがにSATAすらないと『ストレージ』入れられないですよ」
「まあまあ、MIHにどんなに文句を言ったところで現状は変わらないからな。次にプロセスの状況は?」
「だいぶ改善された。良品率は二倍、クロックももう少し伸びる。4GHzが見えてきた」
「それでも良品率は四割かあ」
「まあ、それだけ取れればいいほうかしら」
「やっぱり外周部の不良率がとても高い。化学系の装置を再点検する」
「外周に近いと不良が出やすいのか」
「そう。露光こそダイを動かすステッパーを使うから中心と端で精度は変わらないけど、そのあとの薄膜を作ったりする装置はどうしても中心と外側で精度が変わってしまう」
「遠心力的な?」
「それもある。他には装置の動作端に寄るから精度が落ちたりとか、原因はさまざま」
「そんなことがあるんだな」
「基本的に、ウエハーの中心に近いほど品質が高い」
狼谷さんの報告を聞いて驚いた。てっきりウエハーに作られるものはどれも同じ品質になると思っていたけど、そういうわけではないらしい。また一つ勉強になってしまった。
「予定通り、デザインルールに変更はない」
「あーよかった、これでまたIPのとこ作り直しとかになったら死んじゃうもん」
「今回は他のIPには手を入れてないんだな?」
「そ、大きく変わるのはメモコンだけだね。もちろんコアとメモコンの配置配線はやり直したからマスクは全部作り直しだけど」
「というわけで、プロセスはゴー」
「よし、とりあえず不安要素は一杯あるけどCステップを作ろう」
皆の話を聞いている限りでは、作らない理由はない。コアの改良や修正もそうだし、砂橋さんの方でも設計を変えている。
もちろん、メモリコントローラがおかしくなる問題の根本はまだ見えていない。でもそれに引きずられすぎては、最後の試作が間に合わなくなってしまうことも考えられる。何しろ、今回のチップは製造に二週間も必要なのだから。
「わかった」
「ちゃんと動いてくれればいいんですけど……」
「そして一つ、皆に言うことがある」
それと同時に、皆にプロジェクトマネージャーとして言わないといけないことがあった。
「何かしら?」
「もし、今回の試作で二月の十五日の部活終了までに何が悪いかわからなかったら、バックアッププランに移る」
バックアッププランへの移行はずっと並行して考えていた。魔の八月を繰り返さないために。
設計変更がギリギリ間に合う日程をスケジュールに詰め込んだとき、その決断の日は約三週間後だった。
「そうか、もうそういう時期か」
「幸い、メモリのCチャネルとDチャネルだけを使えば問題なく動くことはわかってるから、その二つだけを使うのがプランA。それでも今後問題が出たら、メモリが足を引っ張るのは承知で、MIHのメモコンを使って動かそう。これがプランB」
現時点で何も動くものがなければ、今日の時点でテープインをせずMelon Hillをベースにしたチップに切り替えてもらう予定だった。
だけど、幸運なことにメモリコントローラ以外のSky Lakeはきちんと動いている。だからプラス三週間の余裕が出来た、という方がより正確だろう。
「今の検証環境が本番環境になる、ってことか」
「そうだ。メモリ帯域は半分になるけどMIHよりはマシなのがプランA、確実に動くのがわかってるけど足を引っ張るのも確定なのがプランBだ。どちらを使うかは、製造期間に並行して『ストレステスト』を走らせて決める」
「出来れば避けたいけど……こればかりは仕方ないわね」
「パワーオンから締め切りまでは丸六日になる、日程はシビアだけどそのあとのことを考えるとそうせざるを得ない」
「仕方ないですけど……何とか見つけましょうっ」
「というわけで今日は解散!」
「あ、そうだ。一応皆にも言っておくと、珪子が三十一日の夜に来るよ」
今日の開発会議で話さないといけないことを終えたところで、砂橋さんが皆に一つの情報を持ち込んだ。
それは、雪稜さんの編入試験の日程。そういえば、二月の頭って前に言っていたっけ。それまで暗い雰囲気だった会議室の雰囲気が少しだけ緩んだ。
「編入試験、そういや今週末だっけか」
「そそ。一日に六科目、二日に五科目だって」
「ひえー、定期試験より酷いな」
定期試験なら、一日四科目や三科目がだらだらと一週間続く。
だけど編入試験という都合もあるのだろう、それよりよっぽどハードな日程になっていた。
「そんなに何やるんだ?」
「国語総合、数学のⅠとA、コミュ英と英語表現、物理基礎、化学基礎、生物基礎、現社、計算機工学基礎、計算機設計Aだって」
「うへー、一年でやる科目オンパレードですね」
「というか、最後の方に聞きなれない科目があったな」
「計算機工学科の追加科目ね。普通科より普通の科目の授業時間を削って置いてるアレよ」
「週五時間はこれだからね。あーあ、テストが二つ少ない普通科がうらやましいよ」
「カリキュラムから全然違うんだな。大丈夫かな、雪稜さん」
「ま、あの子なら大丈夫だよ」
皆が少し心配する中、砂橋さんだけは楽観的に言い放つ。
確かに、雪稜さんは努力の子だ。きっとなんとかしてしまうのだろう、という信頼はある。
「そういや、星野先輩は結局進学どうしたんすか? 結局ずっとウチの部員として色々手伝っちゃってもらってますけど」
そんな進路トークの中、宏がふと思い出したように聞いた。
確かに、進路つながりで星野先輩がどうなったのかは気になる。当然のように部活に居るから、話を聞くことすら忘れていた。
張本人の星野先輩は、手をひらひらと振って笑って見せる。
「あたしならもう会津大に推薦貰ったよ。受験になってたらさすがにこんなことやってる暇ないない」
「センター試験、二週間前でしたもんね」
「そそ。君たちは頑張るんだぞー、来年からテスト変わるんだから」
「げー、そういやそうだった」
すっかり意識の外に追いやっていたけど、僕たちも高校二年生。
僕たちも来年の今頃は二次試験に向けて勉強真っ最中なのだろう。想像はできないけど。
「私たちも、うかうかしてられない」
「ま、アタシたちには星野先輩みたいに強力な推薦枠があるからね」
一方の計算機工学科は、一応受験も出来るカリキュラムにはなっている。とはいえ通常授業を結構削っているし、計算機工学を高校のうちからきっちり学んでいるということもあって推薦の枠が色々な大学に結構多いという話は、噂に聞いたことがある。
「え、結凪その成績で推薦貰うつもりだったの?多分厳しいわよ、三年分の内申見られるから」
「げ、マジ?」
「そんなにヤバいんですね、結凪先輩……」
「気の毒な目で見ないで道香、後生だから」
……なのに推薦が貰えなさそうなのだという砂橋さん。通知表に並ぶ、ギリギリ単位が貰える三の数字が並んでいるのが何となく想像できた。きっと悠と同じくらいだろう。
「本当。だから、結凪は勉強」
「こんなことなら頑張っておけばよかった……」
「気付くのが遅すぎるわよ」
「でもそうか、進路とかの時期か……」
進路の話で盛り上がるのを聞くと、いよいよ春の訪れを感じざるを得ない。
「春は、もうすぐそこね」
「ああ。大会もあと二か月を切ってるからな」
大会まで、あと七週間とすこし。
だが、その先はまだ見通せずにいる。
◇
会議をお開きにして、部活の時間をめいいっぱい開発に充てて。
家路に着いてからも春の訪れを感じさせる出来事があった。
「ただいまー。WINEした通り、シュウも一緒よ」
「お邪魔しまーす」
蒼と一緒に僕が帰り着いたのは、もはや勝手知ったる早瀬の家。
年が明けてから家に帰る頻度は半分くらいまで落ちていた。家に帰る日も夕飯はご一緒させてもらうことも多いから、もはや第二の家だ。
理由はやっぱり、あの日に受け入れてもらう怖さを払拭することが出来たからだろう。蒼と一緒に過ごせるからという理由は半分くらいあるけど。
……いや、もう少しあるな。
そこに現れたのは、満面の笑みの翠ちゃんだった。後ろ手には何かを持っている。
「お帰りなさい、姉さん、兄さん」
「ただいま翠ちゃん、どうしたのそんなにニコニコしちゃって」
「ふっふっふ、聞きたいですか? 聞きたいですよね?」
「あー、結果が帰ってくるの今日だったわね」
「もしかして、PE試験の結果?」
「はいっ!」
翠ちゃんは一週間ほど前、受験の前哨戦とも言えるJCRAのPE試験を受けていた。
「落ちてたら本当に計算機工学科は難しいわよ、見得張らないで確実なところを取ればよかったのに……」
蒼がため息をつく。うちの学校の計算機工学科では、受ける専攻の部門認定があれば入試の特設科目となる計算機工学系の試験が免除になるからだ。
翠ちゃんがPE試験を受けたのも、この免除を狙ってのこと。
「でもほら、部門認定なんて一番難しいわけだし」
「それはそうよ、そもそも在学中に取得を目指すくらいのものだから」
「だからほら、落ちても計算機工学二科目の入試くらいなら大丈夫でしょ」
「まあ、そうだけど」
さらにそのPE試験の中でも、翠ちゃんは出題範囲が一番広くて複雑な部門認定に挑戦していたのだから驚きだ。
だから年が明けてからも、蒼はもちろん、僕も、さらには金江さんまで連れてきて連日勉強会をしていた。
それまでは蒼と金江さんが先生をしていたみたいだけど、僕も増えて楽しそうに勉強をしている姿は目に焼き付いている。
一方の翠ちゃんは、不服そうに頬を膨らませて見せた。
「もうっ、姉さんも兄さんもなんで落ちた前提なんですか」
「ははっ、そうだな。落ちてたらそんなに笑顔じゃないよな」
「で、結局どうだったのかしら?」
「もちろん、合格でしたっ! 論理設計の部門認定です」
そう言って、隠し持っていたものを見せてくれる翠ちゃん。そこにはまぎれもなく、論理設計部門の主任技術者試験合格の文字が書かれていた。
「ふふっ、よく頑張ったわね。翠」
そんな翠ちゃんの頭を、蒼が撫でる。翠ちゃんは嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうにはにかみながら目を細めていた。
「おめでとう翠ちゃん、すごいじゃないか」
「えへへっ……兄さんも、褒めてくれていいんですよ?」
僕も褒めてあげると、翠ちゃんは蒼に向けたのと同じように頭を突き出してくる。
「よく頑張ったな、来年からは後輩だ」
それを蒼と同じように撫でてくれの合図だと判断した僕は、頭に手を乗せてわしわしと撫でてあげた。
「わわっ、兄さん強いですって」
「大丈夫、春からはこんなもんじゃないぞ。恐ろしい先輩たちが待ってるからな」
「……電子計算機技術部に入るの、やめようかな」
少しおどけたように、恐ろしいことを言う翠ちゃん。
「ちょっとシュウ、貴重な論理設計のエンジニアが入ってこなくなるような真似をしないでちょうだい」
蒼も仕方ないわねえ、と笑っている。
「というか、まだ試験はあるんだから気を抜かないの」
「大丈夫です。今まで戦ってきた高校数学と比べれば受験の問題なんて楽勝ですから」
「数学はまあいいとしても、国語も英語も社会も理科もあるでしょっ」
「あはは、蒼の言うとおりだ。そっちもちゃんと勉強しないとな」
「兄さんと違ってちゃんと授業聞いてますから。成績が悪くないのも知ってますよね?」
「ああ、もちろん」
クリスマスの翌日、早瀬家の居間でのんびりしていたところに翠ちゃんが持ってきた通知表には五が見たことないくらいに並んでいた。いや、蒼の通知表では見たか。
何というか、ここの姉妹は秀才なのだ。僕の通知表は金江さんや昌平さんには決して見せられない。
「ま、PEの資格を持ってればよっぽど酷くない限り落とされることはないけどね」
「うちの学校にとっても貴重な存在だろうからな」
「そうよ、入学時に部門認定を取ってるのなんて数えるほどだし」
資格なしだとほぼ満点を要求される計算機工学科の入試。そこから二科目減るし、通常の科目でも少しは下駄を履かせてくれるというのだから、だいぶ気楽に受けられるらしい。
普通科の緩い入試とは改めて大違いだ。というか、緩くなかったら僕たち三人は入れていなかっただろう。
「あの結凪だって全部PE資格を揃えて部門認定を取ったのは入学してからなんだから」
「計算機系は独学って言ってたし、当然っちゃ当然だな」
「うちが言えたことじゃないけど、二人も優秀な先生が付いてたけどね。和重技師と雪稜所長を入れると四人かしら」
「豪勢な面子だよな、ほんと」
「だから、あの子も入学したときには半分くらい物理設計部門のPE資格を持ってたのよ」
「来年には、そんな先輩と一緒に部活できるんですよね」
「ええ、そうよ。シュウがこの部を守ってくれたから」
そんなこと、と言おうとして、文句は言わせないわよ? と言っている蒼の視線が刺さり口を閉ざす。できるのは、ただ曖昧な笑顔を浮かべることだけだった。
「弘治くーん? 蒼ー? 翠ー? 夕飯冷めちゃうから早く来てちょうだい」
「ほら、呼ばれたし行かないと」
「はーいっ」
向かった食卓に広がっていたのは、豪勢な夕食。翠ちゃんの部門認定取得記念ということで、金江さんもかなり張り切って作ったようだ。
「うわ、豪華ね」
「翠の合格記念だからね。ちょっと頑張っちゃった」
「ちょっと、の量じゃないですよ」
「ただいま、うお、凄い量だな」
ちょうど帰ってきた昌平さんも目を丸くしている。そういう反応になるよなあ。
こうして、僕はお腹いっぱいになるまで温かな食卓を満喫した。食べ過ぎて次の日お腹の調子が悪かったのはご愛敬ということで許してほしい。
◇
そして、迎えた三十一日。
部活が始まって少しした頃、僕たちは玄関でインターホンが鳴るのを待っていた。
製造に入ってしまえば、少しだけ皆の時間に余裕が出来る。気持ちの面はともかくとして、今日こうやって集まれる状況になったのは本当にタイミングが良かった。
ぴんぽーん、という我が家のものより少し気の抜けた音が来客を告げる。
「はーい」
一秒も経たずに蒼がドアを開けると、そこに立っていたのは、予定通り若松へやってきた雪稜さん。
相変わらずの長身を黒いコートに包むとまた印象が変わるな。かっこいいという印象が強くなった気がした。
「こんにちは、お世話になります……って皆さん勢揃いで」
「いらっしゃい珪、遠くからお疲れさん」
「ゆい先輩っ」
まず最初に砂橋さんに飛び込むのはもはや様式美。相変わらず見えないしっぽがぶんぶんと振られているのが見える。
「迷わなかったかしら?」
「霜月祭に来てましたから、ばっちりでした」
「ちょっ、さすがのアタシも恥ずかしいって」
「すぅーっ……」
「ちょおっ、なにしてんの珪、吸うな吸うなっ、ぐうーっ逃げられない」
「ぶっ」
「ぶふっ、おい宏大丈夫か!?」
すんすんと砂橋さんを吸い始める雪稜さん、逃亡を試みるも体格と力の差で負ける砂橋さん。猫とかならともかく女の子を吸うというのはいかがわしい字面になるのを避けられない。
そして鼻血を出して崩れ落ちる宏と笑いながら介護する悠。玄関はあっという間に混沌に包まれた。
「すんすん」
「ぎゃーっ!?」
「……ゆいちゃん、ちょっと汗臭い?」
「そりゃ今日は体育の授業があったからね……」
「あ、抵抗するのもあきらめちゃったねえ、砂橋ちゃんかわいい」
「目のハイライト、消えてる」
それから数十秒後、もはや抵抗するのも諦めてされるがままになる砂橋さん。なんというか、会うたびに雪稜さんの新たな一面を見ている気がする。
良心的に捉えるなら、きっとここまで甘えられる人が高崎には居ないのだろう。
気が遠くなりかけているようにさえ見える砂橋さんを見かねてか、道香が助け舟を出した。
「あはは……元気そうでよかったっ。テストの方はどう?」
「そうだよ、入試入試! 大丈夫なの?」
「ふぁいふぉーふへふ!」
「ひいっ、くすぐったい!」
それに対して、砂橋さんの胸に顔をうずめたまま応える雪稜さん。さすがにくすぐったさが限界を迎えたからか、砂橋さんは暴れるようにして再度脱出を試みて失敗した。雪稜さんは呪いの装備か何かなんだろうか。
「ぷはあっ……大丈夫、任せて!」
「……合格点は、八十五パーセント以上と言われてる」
「大丈夫です、試験で九十点以下取ったことはないので」
「さすが、秀才」
「大丈夫そうね。よかったわ、さすが珪子ね」
テストに関しては心配ないらしい。蒼の言った通りさすがだ。さらに、雪稜さんは鞄をごそごそと漁ると一つの封筒を取り出した。そこから出てきたものは、何日か前に見たような――
「それに、こんなものも取りました」
「部門認定、しかも物理設計の!?」
「えっ、部門認定まで取ったの!?」
「はい、結果が一昨日届いたんです」
「すごいすごいっ、わたしでも物理の部門認定は手が回らなくって来年になりそうなのに」
それは、翠ちゃんが持っていたのと同じJCRAのPE試験結果の紙。こちらも独学で部門認定を取ってしまったのだというから凄い。
というか道香は物理設計の部門認定まで取ろうとしていたのか。百人力が過ぎるな。
皆ですごいすごい、と褒めていると、砂橋さんがぽん、と手を叩いた。
「あっ、ってことは入試みたいに計算機工学系の試験免除できるんじゃない!? アタシちょっと確認してくる、行こっ、珪」
「ちょっ、ゆい先輩!? 足遅いのは変わってないんですね」
「う、うるさいっ」
「どっちが引っ張ってるか、わからない」
その勢いのまま砂橋さんは部室の外へと飛び出した。といっても、足の遅さのせいで雪稜さんは早歩き程度なのが面白いが。
「やっぱり、なんだかんだで珪子のこと大好きよね。結凪」
「あはは、いいことじゃないかな? 砂橋ちゃんもまんざらでもなさそうだし」
「人見知り、大丈夫?」
「ま、何とかなるだろ。雪稜ちゃんも全然話せなくなるわけじゃないから」
「さて、僕たちは部活に戻ろうか」
「こいつは?」
「……放置しておいても大丈夫だろ」
鼻血を出して幸せそうにしている宏は放っておいて、皆で部活に戻る。
それから大体一時間ほどで、砂橋さんと雪稜さんは戻ってきた。
「おかえりー雪稜ちゃん、砂橋ちゃん。戦果は?」
「一応計算機工学分野の試験も受けてもらうけど、よっぽどじゃないかぎりそこは問題視しないって」
「おおー、よかったな」
「あれよあれよと教頭先生や校長先生と話をすることになってびっくりしました……」
「あはは、お疲れ様雪稜さん」
「一足飛びに面談なんて、よくやるよ」
「アタシも巻き込まれたんだけど」
「ゆい先輩が一緒に居てくれたから、緊張しないで済みました」
ある程度はうまくいったらしい。まあ、雪稜さんはしっかりしてるし大人と話すのも問題なさそうだ。……あの人見知りさえ発動しなければ、だけど。
空いてる席に座ってもらうと、僕たちは再び部活に戻る。
「ちょーっとアタシたちは忙しいから、一時間半くらい時間があるんだよね。その間は好きに勉強しててよ」
「うん、わかった。ありがと」
「お茶はそこの冷蔵庫に入ってるから、好きに飲んでちょうだい。あとは、何か困ったら結凪に聞くといいわ」
「ありがとうございます!」
こうして部室にもすっかりと馴染んでしまった雪稜さん。一方の僕たちは、相変わらず開発に取り組んでいる。
「蒼、最終ステッピングはどうするの?」
次の試作が、スケジュール上最後の試作になるだろう。バックアッププランに行くにしても、全てが上手く動いたとしても。
蒼もそれは織り込み済みのようで、一枚の資料を表示して見せた。
「予定通り大改良はやめて、バグ修正レベルに留めるつもりよ。よっぽどのことが起きない限り『トランジスタ層』に手は入れないつもり」
「わかった。となるとステッピングはC-1、かな」
「そうね」
ステッピング、つまり試作のたびに振っていく番号は、アルファベットがトランジスタ層の改版回数を、右側の数字がそのアルファベットでの金属配線層の改版回数を指す。
今回はA-0、B-0、C-0とトランジスタ層にまで大きく手を入れる改良をして、次は金属配線、つまり『メタル層』にだけ手を入れるC-1ステッピングになる見込み。
再設計になる部分が減るから、物理設計や製造の工数も減っていいことずくめだ。
「んお……よし」
「どうしたの?」
僕のパソコンからチャットの通知音が響き、一瞬目をそちらに向ける。届いていたのは久しぶりのいい知らせだった。
「狼谷さんからチャットが来てね。製造は今のところ順調、予定通りだって」
「そう、それは何よりだわ」
「これが……ちゃんと動いてくれるといいんだけどな」
「動いてもらわないと困るわ。きっと大丈夫よ」
「ありがと、蒼」
難しい顔になっていたのだろうか、蒼は励ますような言葉を掛けてくれた。気を遣わせてしまったなあ。
それから時間いっぱいまで開発を済ませ、雪稜さんは砂橋さんと一緒にバスに乗って帰っていった。今日は砂橋さんの家に泊めてもらうらしい。
結局、最後までべったりしていたのは特筆するまでもないだろう。
◇
そんな雪稜さんだけど、翌日の本番はさすがにしっかりしていた。
「行ってきます、みなさん」
「うん。頑張っておいで」
「任せて、ゆいちゃん」
試験開始と部活の開始時間はほぼ同じということで、校舎へと向かう雪稜さんをみんなで見送る。その表情は、今まで砂橋さんに甘えていたのが別人のように見えるほどきりっとしていた。
「すごいねえ、あんな表情もできるんだ」
「女子高の王子様と呼ばれているのも、なんとなくわかる」
「ね。普段からああだとアタシも楽なんだけどなあ」
「思ってもないことは言わない方がいいですよ? 結凪先輩だってかっこいいって思ってたんですよねっ」
「い、いやっ、そんなこと」
にやにやと笑う道香にわき腹をつつかれ、目をそらす砂橋さん。そんな姿を見て、蒼が呆れるように言った。
「どっちかといえば、甘えてくれなくて寂しがってるのよ」
「ちょっ、そんなことないって!」
「図星?」
「ちがうちがーうっ!」
そんな素直じゃない砂橋さんをみんなでいじりながら、僕たちは部活に向かった。結果が出るのは二月の十四日だという。
僕たちは、その日を楽しみにしながら今日の部活を始めることにした。
◇
「緊張、しますねっ」
「だねえ。やっぱり初めての火入れはどうしても」
僕たちの前には、インターポーザーなしでソケットに取り付けられたCPU。
クーラーを取り付けていく道香の手も、少しだけ震えていた。
「準備できたよ、ボードに『クリップ』付けたら終わり」
「オレらも大丈夫だ。ほい、BIOSのフラッシュ」
「ありがとうございますっ」
僕と蒼、それに狼谷さんは声すら出せずに見守っている。
二月の十日、月曜日。お昼ごろに製造が終わったSky Lakeの三度目の試作チップ、C-0ステッピング。そのパワーオンが間近に迫っていた。
「電源、よし。メモリ、よし。プロアナ、よし」
「ジャンパは全部所定位置だ、大丈夫」
「ありがとお兄ちゃん。蒼先輩、VRのとこのオシロは大丈夫ですか?」
「キャリブレーションも出来たし、いつでもいけるわよ」
最終確認を終えると、皆が小さくため息をついた。
皆の想いがこもったチップに、今電源が入ろうとしている。
「じゃあ、行きますっ」
道香はそう宣言すると、電源プラグをコンセントに繋いだ。ボード上のLEDがきらきらと光りはじめ、起動処理が始まったことを伝える。次の瞬間、ラボはCPUクーラーのファンが立てる轟音に包まれた。
「シリアルログ来た、ブートシーケンスは大丈夫そうだな」
「ま、前と一緒だしな」
右隣でノートパソコンを覗き込んで安堵の息をつく二人の声すら聞き取りづらいのも、もはや三度目となれば慣れたものだ。
「……本当に、うるさい」
「あ、あはは……」
左隣に居る二人の声がやっとで、その先に居る蒼と砂橋さん、星野先輩も何かを話してるみたいだけど聞き取ることはできない。
ノートパソコンを凄い速度で流れていく文字列を見ていると、見慣れた画面へと変わる。おなじみ、BIOSの設定画面だ。
「上がったぞー! 一発だ」
「やるじゃなーい!」
反対側の蒼たちにも聞こえるように、半ば叫ぶようにして伝える。まず、第一関門はクリアだ。
一台が上がれば、もう不安はない。皆で手分けをして、六台のボードにCPUを取り付けて起動させていく。
「こっちは問題なーし」
「俺らも大丈夫だー」
そうして無事に六台のマシンは動き出した。引き続きLinusを入れて、もっと実際の環境に近いテストを走らせ始める。
問題が起きるとすればこの先だ。メモリアクセスで負荷を掛けたとき……
だが、一時間ほどが経っても問題が起きたという声は聞こえてこない。
「これもパス、と。もしかして治ったか?」
「こういうよく判らないけど治ったっての、アタシ的には一番怖いんだよねえ」
一時間半もすると、ホワイトボードにいくつかチェックが入っていく。
今までなら通らなかったテストも、既にいくつか通っている。これはつまり、治ったということ……なのだろうか。
安堵のため息をつこうとすると、道香が難しそうな顔で言った。
「うーん、やっぱりSIだったんでしょうか」
「えすあい?」
「シグナル・インテグリティー、信号の完全性。つまり、この問題はメモリと通信するバスの電気の流れの問題だったってこと」
「そういうことか」
「確かにボードは問題なかったけど、でも……シリコンの中だった? それにしては……」
なんだか考え込んでいる道香。その表情は、どこか不安げなもので。
「わたしの考えすぎだった、ってことかな……」
僕もデスクに戻ろうと思ったその時、近くのデスクで作業していた蒼の表情が固まった。
「……待って、嘘でしょ」
「どうしたの、蒼?」
「悠、デバッガお願い!」
「おうよ、ほい」
「デバッガ? って、もしかして……」
「ログを取って……」
固唾を呑んで、蒼のデバッグ作業を見つめる。出てきたログを解析プログラムに掛け、その結果を確認した蒼は、
「はぁ」
小さくため息をついた。
明らかになったのは、見たくない現実。
「再現したわ。同じ問題よ、メモリコントローラがリセットしてる」
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