第74話:聖女アリシア 27

 ひとまず拠点を作らなければということになり、アリシアたちは山の中で平地になっている場所を見つけると、そのままそこを拠点とした。

 人数はいるので見張りも問題なく、アリシアはゼーアに頼んで実力者を数名抜擢し集まってもらった。


「私たちの今後について、相談したいと思います」


 今後についてと言われた田舎騎士たちは、自分たちがホールトンに裏切られたという事実をすでに理解しており、体を強張らせはしたものの表情に恐怖が浮かぶ者は誰一人としていなかった。


「アリシアはどう考えているんだ?」


 田舎騎士を代表してゼーアが口を開くと、アリシアはゆっくりと自分の考えを語り始めた。


「……皆さんのことを考えると、ホールトン様を追いかけるべきだと思っています。そうすれば再雇用してもらえる可能性だってあるでしょうから」

「だが、アリシアはどうなる? 今のは俺たちのことを考えてくれた場合の話だからな」


 ゼーアがさらに問い詰めると、アリシアは苦笑いを浮かべながら答えた。


「もしも私の我がままを通していいのであれば、このまま王都ではなく別の都市へ向かい、自由に暮らすのもありかなと思っています」

「自由に?」

「えぇ。私の場合は流れの聖魔導師として治療院の真似事をしたりとか、ゼーアさんたちなら実力を活かして冒険者になるとか、そんな感じです」

「……アリシアの自由だけじゃなくて、俺たちもか?」


 まさか自分たちのことが話に出てくるとは思わず、ゼーアは聞き返してしまう。


「当然じゃないですか。私だけが自由になるだなんて、とんだ恩知らずになっちゃいますよ」

「いや、そういうわけじゃないんだが……なあ?」


 田舎騎士たちのほとんどは奴隷として買われた者や雇われた者たちである。

 中にはゼーアのように口減らしとして売られた者もいて、そういう者たちはある程度の常識を理解しており、冒険者として暮らすこともできるだろう。

 だが、そうでない者たちは一般常識すら理解しておらず、冒険者として生計を立てることすらままならない者もいるかもしれなかった。


「不安がある者は一人で生活するのではなく、誰かと共に生活をするのもありだと思うわ。協力することができれば、それは助け合いにもつながるからね」


 一番は地元や家族のもとへ戻ることができればよかったのだが、それができない現状の者がほとんどなので難しい。

 であるならば、今ある彼らのスキルを活かして自立してもらう以外に道はないと、アリシアは考えていた。


「……どうだ、みんな? やれそうか?」


 アリシアの意見を受けて、ゼーアが田舎騎士たちに問い掛ける。

 しばらくはざわついていた田舎騎士たちだったが、徐々にこれからの立ち回り方を決める者が出始めた。


「……俺、冒険者やってみようかな」

「俺も。戦う以外、できることがないしな」

「私もそうしようかしら。ねえ、一緒にやらない?」

「いいわね! 一緒に活動しましょう!」


 多くの者が冒険者を選択し、中にはとりあえず王都以外の都市へ向かってから考える、という者も少なからずいた。

 自分に何ができて何ができないのか、それを考えたいという者たちだ。


「王都に向かうのでなければ急ぎでもないし、明日まではじっくり考えてもいいと思うわ」

「それで? アリシアはどうするつもりなんだ?」

「そ、そうですよ! 先ほどおっしゃっていた治療院をやるんですか?」


 田舎騎士たちへ問い掛けるだけで、自分が何をするのか、どうしたいのかを口にしていなかったアリシア。

 ゼーアがどうするのかを問い掛けると、その場にいた全員の視線がアリシアへと向いた。


「私ですか? 私は冒険者一択ですね」

「んじゃあ俺はアリシアについていくわ!」

「わ、私もお供します!」

「……え?」


 即答したアリシアだったが、そんな彼女についていくと、これまた即答したゼーアとケイナ。

 そんな二人を見つめながら、アリシアは何度も瞬きを繰り返しながら驚きの声を漏らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る