第45話:自警団員アリシア 23
体を動かせるようになったアリシアは、久しぶりに自警団の詰め所へ顔を出すことになった。
アーノルドはまだ休む必要があると言っていたが、シエナの手伝いをするだけだからと何度も伝えてようやく許しを得た格好だ。
「いいかい、アリシア。本当に無理をしてはダメだからね?」
「わかっているわよ、お父さん」
道中もずっとこのような感じで、アリシアは問い掛けられるたびにクスクスと笑ってしまう。
途中、ヴァイスとジーナとも合流して到着した自警団の訓練場では――熱烈な歓迎を受けてしまった。
「アリシアちゃん!」
「元気になってよかったなー!」
「まだ無理をしちゃダメだからね!」
「体調に異変を感じたらすぐに言うんだぞ!」
わっと集まってきた自警団員に挨拶をしながら、その言葉に頷きお礼を告げていく。
「アリシアちゃ~ん!」
そんな中、ずっと訓練場の掃除をさせられていたシエナが涙目になりながら抱きついてきた。
「だ、大丈夫ですか、シエナさん?」
「もちろん大丈夫よ! 本当にもう大丈夫なの? 私のために無理しちゃダメだよ?」
「無理なんてしてませんよ。それに、みんなの顔を見たかったのは本当ですから」
「……ア、アリシアちゃ~ん!」
「はいはい、お前はさっさと離れて掃除をしてこい」
アーノルドに団服の襟を掴まれて引き剝がされたシエナは、そのまま別の自警団員に引き渡されて去っていった。
「全く。……さて、アリシア。私は行くが、本当に無理はするんじゃないぞ」
「本当に心配性なんだから、お父さんは」
「ヴァイスとジーナの訓練は引き続きシエナに見てもらっているから、二人も何かあれば私に報告してほしい」
「わかりました」
「はーい!」
こうしてアーノルドが詰め所に中に入ると、三人は連れていかれたシエナのところへと向かった。
「それにしても、訓練場の掃除ってそんなに大変なの?」
「いや、そうでもないぞ」
「お兄ちゃんも最初はシエナさんと一緒になって掃除していたもんねー」
「えっ! そうだったの?」
「あぁ。でも、そこまで大変じゃなかったよ。……まあ、俺は一週間で掃除を免除されたけどな」
どうして泣きつかれたのだろうかと考えながら歩いていると、三人はすぐにシエナのところへ到着した。
「いいかしら、アリシアちゃん? 絶対に無理はしないこと! アリシアちゃんは子の一画だけを掃除してちょうだい」
「えっ? でも、訓練場の掃除って、ここ全部ですよね?」
「いいから! アリシアちゃんがまた倒れたら、それこそ団長に殺されちゃうんだもの!」
どれほどアーノルドが怖かったのか、シエナは最後の言葉の時だけゾッとした表情を浮かべていた。
「あは、あははー。それじゃあ、まずはこの一画だけを――」
「まずじゃなくてここだけでいいから! あとは日陰で休みながら二人の訓練の様子を見ていたらいいわよ!」
「で、でも――」
「よーし! それじゃあ掃除してくるわね!」
「あっ! シエナさん!」
アリシアの言葉を聞くことなく、シエナは全速力で駆け出していった。
伸ばした右手が空中で止まってしまったアリシアは、そのまま横目でヴァイスとジーナを見た。
「……いいのかな?」
「いいんじゃないか?」
「シエナさんがいいって言うんだから、いいんだよ!」
「うーん……まあ、少しずつ掃除する場所を増やせていけたらいいかな」
今日のところは諦めて言われた一画だけを掃除することにしたアリシアは、できるだけ丁寧に掃除を進めていく。
だが、シエナは残り全ての区画を大急ぎで掃除しており、アリシアが一画を終わらせる頃には半分以上の掃除を終わらせてしまっていた。
「……は、早いね」
「まあ、一ヶ月近く掃除をしていたからなぁ」
「慣れだよね、慣れー」
それからしばらくして掃除をあっという間に終わらせたシエナが戻ってくると、ヴァイスとジーナの訓練を始めた。
その光景を見学していたアリシアは、早く自分もこの場に交ざりたいと心の底から思っていたのだった。
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