第39話:自警団員アリシア 17
「――アリシア! ヴァイス!」
大量の血を滴らせながら突っ込んできたシザーベア。
あまりの恐怖に固まり動けなくなっているアリシアとヴァイス。
そんな一匹と二人の間に体を割り込ませたのは――
「お、お父さん!」
「おじさん!」
「うおおおおおおおおぉぉっ!!」
『ガルアアアアアアアアァァッ!!』
振り上げられた左腕をアーノルドの大剣が受け止めるが、全体重を乗せた振り下ろしを今の彼が受け切ることはできない。
体が揺れてそのまま後退してしまうが、後ろに守るべき娘と亡き親友の息子がいることが、アーノルドの力となる。
両足に力が宿り、大きく息を吐き出しながら逆に押し返した。
「絶対に、やらせんぞおおおおおおおおっ!」
決意の炎を点した瞳で睨みつけながら、アーノルドはシザーベアを大きく後退させた。
「剛の剣――剛針!」
左足を地面に押し付けて体を前へ。
渾身の力で大剣を握りしめた右腕を後ろへ引くと、全体重を乗せた刺突を繰り出した。
本来の威力であれば体毛を切り裂き、皮膚を裂いて、肉や骨を貫くことはできなかっただろう。
しかし、今回はシザーベアが前のめりに突っ込んできていた。
故に、剛針は体毛を、皮膚を、肉や骨を貫いていく。
『グルルゥゥ……ガルアアアアッ!!』
だが、シザーベアがここで止まることはなかった。
ほとんど密着しているような距離において、鋭い牙が並ぶ口が開かれた。そして――
「ぐがああああああああぁぁああぁぁっ!?」
強靭な牙が、アーノルドの右肩へと食い込んだ。
激痛がアーノルドを襲い、彼の口から苦悶の声が発せられた。
「お父さん!」
「……いいさ、これで貴様は、逃げられんだろう!」
『ガルアッ! グルル、ガルガガアアアアッ!?』
右手で握っていた大剣の柄を、両手で握り直してさらに押し込んでいく。
絶対に逃がさないという、覚悟の表れだった。
「団長だけに、やらせるかああああっ!」
「うおりゃああああっ!」
吹き飛ばされて動けなくなっていたゴッツとダレルが、残る体力を全て使い切る覚悟で突っ込んできた。
「わ、私だってええええっ!」
意識を失っていたシエナも駆け出しており、三人はほぼ同時にシザーベア目掛けて攻撃を叩き込んだ。
そして今度こそ――シザーベアは絶命した。
「お、お父さん!」
「おじさん!」
シザーベアの顎から力がなくなり牙が抜けると、傷口から大量の血が溢れ出してきた。
苦悶の表情を浮かべながらその場に座り込んだアーノルドの下へ、アリシアとヴァイス、それにシエナやゴッツやダレルも駆けつけた。
「団長!」
「意識をしっかり持ってください!」
「俺、すぐに医療班を呼んできます!」
「お願いします!」
その場から離れたダレルにアリシアがひっ迫した声でお礼を口にすると、すぐに視線をアーノルドへ戻した。
「お父さん、ごめんなさい! 私の……私のせいで!」
「お、俺も、油断して、おじさんが……」
大粒の涙を流している二人を見て、アーノルドは怒るのではなく、普段通りの柔和な笑みを浮かべながら左手で頭を撫でた。
「……何を言っているんだ? 二人のおかげで、シザーベアを倒すことができたんじゃないか。謝る必要な、ないだろう?」
「でも……でも!」
確かにシザーベアを倒すことはできた。
しかし、アリシアにとってはシザーベアを倒すことよりも、アーノルドが無事に戻ってくることの方が大切だった。
頭に触れている左腕から力が抜けていき、徐々に温もりが失われていく。
それがどういう状況なのかを前世で何度も見てきたアリシアは、ギュッとアーノルドの手を握りしめて祈りを捧げた。
(こんな結末は絶対に嫌だ! 前世よりも悲惨な結末なんて、絶対に受け入れたくないわ!)
自分の失敗は、自分で拭ってみせる。
そんなアリシアの強い決意が――奇跡の力を呼び起こした。
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