たばこ

さくらだ

第1話

久しぶりに会った彼はタバコを吸っていた。

私の一個上の彼は、まだ高校二年生。

犯罪なんかより先に、彼の体が心配だった。

私の両親はタバコを吸っていたが、妹が生まれると同時に健康を気遣ってやめた。

しかしそれでも体に支障をきたしており、2人ともとても後悔していた。

そんな人が身近にいるからこそ、彼にはタバコを吸ってほしくなかった。

「タバコなんかやめて。」

少し強く言うと、彼は申し訳なさそうに

「吸ってないとやってられないんだ」

と言った。

いじめ、両親の離婚、友人からの裏切り。

彼の人生は決して楽なものではなかった。

この様子だと、それはきっと今も変わっていないのだろう。

心も体もボロボロに違いない。

でも、だからこそ、タバコなんか吸って欲しくないのだ。

「いいからタバコなんかやめてよ。」

彼の目をまっすぐ見つめ言うと

「ごめんな、何かに縋ってないとダメなんだ。」

と、目を逸らされた。

彼の気持ちが痛いほどわかる。

辛い時、苦しい時、何か何かと探してしまう。

少しでも楽になれる何かを、たとえそれが害のあるものだとしても楽になれるのならと依存してしまう。

私の依存相手は彼だった。

私が辛い時、いつも彼はそばで笑っていてくれた。

真面目に話を聞いて、下手なアドバイスなんかせず、ただただ慰めてくれた。

唯一心を許せる人だった。


こんなに私はあなたに依存しているのに

あなたが依存しているのは私じゃない


そんな気持ちがあったのかもしれない。

何度も何度も「やめて」と言ったが、彼はタバコを止めようとしなかった。

止めることができなかった。

私はとうとう我慢ができずに言ってしまった。

「タバコなんかに依存するぐらいなら、あたしに依存しなさいよ。いつだって呼ばれればあんたの元に駆けつけるし、いつだって電話で話を聞いてあげる。授業中だってラインしてあげる。だからタバコなんかてやめて、あたしにしなさいよ。」

と。

彼はとても驚いた顔をしていた。

しかし私の方へ向き直り、

「ありがとう。」

といい私を抱きしめた。

それから彼のタバコを吸う量は明らかに減っていった。

今では吸わなくても何とかなるぐらいになった。

タバコの匂いが大嫌いだった私も、彼の匂いなら許せるようになった。

というか、好きだった。

やっぱり依存しているのは私の方だ。

もし他の人からタバコの匂いがしたら、不快でしかないのに。

彼だから全て許せる。癒される。

私にとってのタバコは、きっと彼なんだと思う。

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たばこ さくらだ @sakurada_27

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