旅立ち

「ニー、早く食べてしまって」


 ニーが雷をまとう魔物の魔獣石を食べる。

 魔物図鑑を確認し、新たに登録されたD級の魔物へ系統発生させる。


 ■ニー

 ・系統:邪鳥

 ・種族名:レテプルミス(変異個体)

 ・階級:D

 ・特技:<硬殻> <雷羽> <放電> <磁界> <錯乱印> <強筋>


 ニーから、今までに無いほどの魔力を感じてくる。

 羽を広げると大人3人分以上の大きさだろう。


「ソリオン、手の上に浮いてる本はなんだい?」


 レビがソリオンの左手を指差す。

 左手の上には魔物図鑑が浮かんでいる。


「もしかして、レビさん。魔物図鑑が見えるんですか?」

「ああ、当たり前さね」

「なるほど」


 <従導士>に成った時に覚えた<特技>で<可視化>というものがあった。


 おそらく魔物図鑑を第三者へ見せることができるようだ。


「従魔士の<特技>です。ともかく今は帰りましょう」


 先ほど倒したレテプルミス雷を操る鳥の屠体を、イチにお願いして凍らせる。

 その巨体をニーが運ぶ。


 ソリオンは崩れた出入り口へ近寄り、<力作用>を放ち大きな岩を次々、投げ飛ばしていく。


(魔力が楽に操れる)


 しばらく、魔力が扱いづらい系統樹の下で、魔力を使っていたため、まるで自分の手足の様に魔力が操る事ができる。


 1時間も経たない内に、トンネルの向こう側が見えてきた。

 足元の大きな岩を退かした時、下敷きになっていた剣が目に入る。


「……襲ってきたハンターが持っていた剣だ」


 ソリオンを切りつけた直後、剣を捨てて、逃げ去った。

 その時に崩れた土砂の下敷きになっていたのだろう。


(持って帰ろう。犯人が見つかるかもしれない)


 ハンターたちの武器には特殊な彫りがある。

 所有者を特定できるはずだ。


「ソリオン、ちょっと待ちな。これも持っていきな」


 レビが爆弾の破片を投げてよこす。


「分かりました」


 ソリオンはそれを受け取り、ポーチへしまう。

 開いた穴を手で掘り、人が通れるほどの穴が開通する。


 開通するとマッシモと何人かのハンター達が待っていた。どうやら反対側からも掘ってくれていたようだ。


「ソリオン!よく生きてたな!」


 マッシモが手を握りしめる。


「すみません。ご心配をおかけしました。斧もダメにしてしまってすみません」


「そんな事はどうでもいい」


「お詫びと言ってはなんですが、邪鳥の屠体を持ってきたので、ギルドへお渡しします」


「今回のハンターの稼働分がレビが全て支払い済みだ。しかし、これはすごいな。雷属性を操るD級の魔物か」


 ソリオンはレビを振り返る。


「レビさんが…」


「いいさね。あんたのお陰で、商売は上手く行き過ぎてる。気にするほどじゃない」


「……本当に、ありがとうございます」


 外に出ると空は赤く染まり、夕方だ。

 季節はすっかり冬となっていた。肌を指す空気が冷たい。


 ソリオン達はエーエンの森を、足早あしばやに後にし、一ヶ月以上ぶりにヒロアイラの街へと帰ってきた。


「やっと街に帰って来れた!」


 マッシモが隣に並ぶ。


「お前さんの家族が心配してたぞ。早く安心させてやれ。レテプルミス雷を操る鳥の屠体は処理しておく。2日程度は掛かる」


「はい。本当にありがとうございました」


 レビがソリオンに声をかける。


「その2本の剣を出しな」


「助かりました。仲間の剣をお返しします」


「街を出る前に一度、店に寄るんだよ」


「わかりました。必ず行きます」


 ソリオンは剣を持てないレビの代わりに、マッシモへ2本の剣と、襲ってきたハンターの剣、爆弾の破片を渡して、久々の家へと帰ることにした。


 道中、巨大な鳥となったニーを見て、皆が避けていく。

 通りを曲がると、久々の自宅が見えている。

 家の使い込まれた扉を、ゆっくりと押す。


 久々の家の空気に、安心感に似た安らぎを覚える。


(……家の匂いだ)


 玄関の奥にあるリビングでは母シェーバと妹イースが、暗い顔でご飯を食べていた。


「ただいま。今、戻ったよ」


 2人は急に振り向く。


 シェーバが急に立ち上がり、玄関所まで走ってくる。

 そして、抱きしめる。


「ソリオン! 本当にソリオンなの!?」


「母さん、心配させてごめん。ダンジョンに閉じ込められてたんだ」


「私…私はもしかしたら、ソリオン、あなたが……」


 シェーバが泣き始める。

 足元に、イースも抱きついてきた。


「お兄ちゃん、勝手に居なくならないって、大丈夫だって言ったのに! 嘘つき!」


「ごめんよ。なかなか帰れなかったんだ」


 イースも泣き出した。

 しばらく泣きついてくる家族の囲まれて、玄関から動けなかった。


 落ち着いた2人をリビングへと促し、起きたことを説明する。

 特に、閉じ込められる原因となったハンターたちに対するシェーバのいきどおりは、ソリオンも初めて見るほどだった。


 ひとしきり説明を終えた後、ソリオンは真剣は面持ちで話を切り出す。


「母さん、イース。聞いてほしいんだ」


 シェーバの表情に緊張に包まれる。


「僕は旅にでるよ」

 

 シェーバはある程度、わかっていたようだ。

 反面、イースがなぜと言いたげな表情を浮かべる。


「僕は、魔物図鑑を全て埋めるために、世界中の魔物と出会う。それが僕の人生の目標だ」


 シェーバが心配そうに尋ねる。


「ソリオン、まだ行かないって言ってたじゃない。急にどうしたの?」


「僕は怖かったんだ。この家を、家族を失うんじゃないかって。でも、ダンジョンに閉じ込められて、気がついたんだよ。旅にでたら遠くに行ってしまうけど、孤独ひとりになるわけじゃないって。帰る家がある。だから…」


 ソリオンはシェーバとイースが見る。


「僕は必ず帰ってくるよ」


 シェーバも泣きそうな瞳で、ソリオンを見る。


「正直に言うね。とても不安だし、本心は反対したい。でも、あなたが決めた事も同じくらいの気持ちで応援したい」


「母さん……」


「ダトとの最期の約束に縛られて、貴方が自分を押し殺して生きるんじゃ無いかって、心配だった。あなたはいつも家族を守ってくれた。もう十分よ」


 ソリオンは首を振る。


「全然、押し殺してないよ。この家から出ていくけど、これからも母さんやイースを守っていく。それが父さんとの約束だからね」


 シェーバは席から立ち、再びソリオンを抱きしめる。

 久々に家族と過ごした食卓はとても暖かいものに感じた。



 そして、次の日は、仕事を休んだシェーバとイースと3人で買い物に出かける。

 イースはいつも以上にソリオンへ甘えてくる。普段、口にしないわがままを思う存分ソリオンに聞いてもらいたい様だ。

 ソリオンも今日ばかりは、苦笑いを浮かべながらも、イースを思い切り甘やかした。


 楽しい休日はあっという間に過ぎ、次の日、お世話になった人達へ、挨拶に向かうことにした。



 朝一番、最初に向かった場所はレビ薬工店だ。


「おはようございます」


 疲れきった顔のレビが、店と工房の間にある上がりかまちに腰を掛けている。


「レビさん!? 大丈夫ですか!?」


「ああ、ソリオンか。大丈夫だよ、問題ないさね」


「どうしたんですか。体調が悪そうです」


 ネヘミヤが心配そうに奥から出てくる。


「おばあちゃん、ほとんど寝ずに<付与>なんかするから」


「ああ、昨日は慣れないことしちまったさね」


「どうしてそんな無理を」


「ついて来な」


 慣れた工房へ入ると、そこには鞘に収められた2本の剣が床に置かれている。


「これは…、レビさんのパーティメンバーの剣」


「そうさね。付け焼き刃じゃなく、ちゃんとした魔力回路を刻んでおいた。持っていきな」


「いいんですか? 大事な仲間の剣でしょう?」


 この大きな街でトップクラスだったハンター達が使っていた剣だ。

 間違いなく良いものなのだろう。

 それに思い出も詰まっているはずだ。


「これはさね。折れるまで、使い込んでやりな」


「……そうですか。では、ありがたく使わせてもらいます」


 ソリオンが剣を掴んだ瞬間、店のドアが開く。

 ペトルッチ薬工店の店主ノエミが、息を切らしながら駆け込んできた。

 レビの腕を斬りつけた本人でもある。


「ああ、聞いた通りだよ! 本当に兄さんの剣だ!」


「ノエミ、どうしたのさ」


「それを返しな。その剣は兄さんの形見だよ」


「どうするんだい。あんたは剣なんか使えないだろう」


「うるさいね! 大切にしまって置くに決まってる」


「せっかくの剣が泣いちまうよ」


「形見じゃなきゃ、ただの出来損いじゃないか。あんたが作った剣だ。兄さんを殺した剣」


(出来損ない? この剣が?)


 一度使っただけだが、この剣は間違いなく名剣だ。


「そうかい。ところでノエミ。あんた、昔この剣に付与をかけなかったかい。わずかに残ってた魔力回路に私以外の<付与>が掛けられてた」


ノエミの目が泳ぐ。


「……知らないね」


「そうかい。もう大分消えかかってたが、剣を弱めるような魔力回路が掛かっていたさね」


「……違う。……魔力を安定させたんだ」


 ノエミは少しの焦っているように見える。

 レビはいつも通り冷静だ。諭すようにノエミへ語りかける。


「いいかい、魔工式は自分の魔力しか使わない。魔導式と違って、無理に魔力の流れをき止める必要なんかないのさ。むしろ武器としての性能を下げるだけさね」


 レビの一言ごとに、ノエミに焦りが強くなる。


「噓だ! 普通の武器にはあるはずの回路が、あの剣には無かったんだ! ……だから、欠陥だと思って、兄さんが挑む前日に…」


「上級者が使う魔工式なんて、滅多に作られないからね。知らないのも仕方ないさね」


 ノエミが再び憎しみに満ちた表情でレビを罵倒する。その表情には憔悴がはっきり見て取れた。


「お前が殺したんだ! お前が! 私は悪くないよ…悪くない……」


 ノエミは焦点が定まらない目で、うわ言のように罵詈雑言を流し続けている。


(……内心、気が付いていたんだな)


 レビへの当てつけは、不安の裏返しだったのだろう。

 誰かを攻めている間は、自らの仕出しでかした事を見ないふりができる。

 だからこそ、レビを傷つけ、レビの店を妨害し、レビに責め続けた。


(哀れだ)


 ノエミも長く苦しんだのだろう。家族の死によって。

 その様子を見てたレビが目をつむる。


「勘違いさね。魔力回路は全部、私の物だったよ」


 ネヘミヤが何かを言いたそうだ。


「おばあちゃん……」


「いいじゃないか、大切なものは他にある。ソリオン、剣を持っていきな」


「……はい」


 剣がとても重く感じる。

 ノエミは、うわ言を繰り返しており、何も言ってこない。


「それで、いつ発つんだい」


「明後日です」


「そうかい、気が向いたら見送りに行ってやるよ」


「必ず来てくれるでしょうから、楽しみにしてます」


 レビが大きくため息をつき、額に手を当てる。


「まったく、可愛げのない子だね」


「よく言われます」


 ソリオンは笑顔で挨拶をして、長く勤めたレビ薬工店をあとにする。少しの寂しさを感じるが、後ろは振り返らない。


(次は狩人ギルドだな)


「おはようございます」


 気だるそうにしていたカルロッタと目が合う。

 急に受付からカルロッタが走るように出てきた。


「ソリオン君!? 話、聞いたよ、大丈夫?」


 受付嬢のカルロッタには久しぶりにあった気がする。


「大丈夫ですよ。マッシモさんに助けてもらいましたから」


「本当!? 何かあればお姉さんに、遠慮なく言ってね」


 いつになくカルロッタの顔が近い。

 ソリオンは少し引きながら頷く。


「魔物の換算は終わってるぞ」


 奥からマッシモが、布で手を拭きながら、出てきた。


「一昨日はありがとうございました」


「礼はいい。仕事だ」


 マッシモも近くに椅子に腰掛ける。本人は何も言わないが、レビの護衛を受けのも、相当の配慮があったはずだ。

 そうでなければ、ギルド長自ら出てくる事などあり得ない。


 ソリオンはマッシモへ旅に出かける事を伝える。


「そうか。お前さんが居なくなると、捌ける肉が少なくなるな」


 マッシモがソリオンを真っ直ぐ見つめてくる。

 その目は初めて狩人ギルドに来たときから全く変わっていない。

 

「レテプルミスをバラしたが、大金だぞ。あれだけの金なら、家へ直接持っていかせる」


「それなら母に渡してください」


「お前さんは、いらんのか? お前はもうすぐ旅に出るんだろ? 旅費は大事だぞ」


「食も睡眠も必要ありませんので」


「……そうか」


 マッシモがチラリと剣を見る。

 だが何も言わない。必要なことはレビが伝えただろうと思っているようだ。

 本当に不器用な男だ。


「お前を襲った犯人達と黒幕がわかった。ハンター達は他領から悪事を重ねて逃げ込んできた奴らの集まりだ」


「黒幕? ハンター達以外に誰かいたんですか?」


「ああ、爆弾の破片からな。爆弾は魔導具ギルドだけが扱ってたものだとわかった。それも特注だ。どうやら魔導具ギルド長がハンター達を雇ったらしい。本人達は既に逃げたが、捕まるのも時間の問題だろう」


「魔導具ギルド長が?」


「余程、儲け話を潰されて、はらが煮えくり返ったんだろう。大方、ハンター崩れを雇って、お前を暗殺しようとでもしたんだろう」


(もっと思慮深いかと思ったけど、予想以上に小物だったな)


「そうですか」


「そうですか、ってそれだけか?」


「ええ。正直、あまり興味が湧いてこないです」


 マッシモは目が点のようになった後、急に笑い始める。


「ハッハッ! 流石だな!」


 ひとしきり笑ったマッシモが、ソリオンと目を合わせる。


「また、この町に戻ってきたら連絡しろ」


「はい、必ず」


 ソリオンはギルド長マッシモと受付のカルロッタへ深く頭を下げ、通い慣れた狩人ギルドを後にする。


(次は騎兵団の駐屯地かな)


 駐屯地へ向かい、エフタへ挨拶をする。


「ふむ、実に素晴らしい」


 ソリオンは<可視化>を使い、魔物図鑑を見せている。

 今開かれているページにはレテプルミス雷をまとう鳥の挿絵が載っている。


 エフタは真剣な表情で魔物図鑑を確認し、小切手をソリオンへ渡す。


「ありがとうございます」


「ふむ。ソリオン、君には感謝している」


「何をですか?」


「弟子のナタリアにテイムを成功させてくれた」


「ああ、そのことですね。また、塞ぎ込んで無いといいんですが」


 ナタリアが父親に酷く扱われ、悲しんでいた様子が頭をよぎる。


「誰が塞ぎ込んでるのよ」


 声がした方へ、振り向くと赤毛の少女ナタリアとショートボブのローレルが、部屋の入り口に立っていた、


「ナタリア様、ローレル様。ご無沙汰しております」


「なかなか来ないから私から来たわよ。……随分、大変だったようね」


「ええ、なかなか大変でした。ナタリア様の約束を守れないかとヒヤヒヤしました」


「全然、気にしてなんかないわ」


 ローレルが不思議そうな顔をする。


「約束を破られたと、随分気落ちされてたと思っておりましたが、勘違いでしたか」


「ローレル! 余計な事を言わないで!」


 ナタリアが、顔を赤くしながら否定する。


「ナタリア様、明日はフリペドのテイムに行きませんか? 明後日には、この街を発とうと思います」


「随分と急な話ね」


「先延ばしにしてたんですよ。でも、そろそろ前に進みます」


「……そう」


「ふむ。実に良い。それならば、ついでに調べ物をして来てくれないか?」


「調べ物?」


「ふむ、エーエンの森のほとりにある川に、奇妙な木が立っているようだ。森に行くなら、ついでに様子を見て来てほしい。護衛もつけよう」


(変わった木。まさか系統樹か?)


「わかりました」


「ふむ、頼んだぞ」



 翌日、ソリオンは東の湖の畔にいた。

 一緒に、ナタリアとローレル、他数名の騎兵団がいる。


 すぐ側には巨大な怪魚であるシイがいた。


「ごめんね。シイ。長い間、来れなくて」


 久々に会えたのが嬉しいのか、中々離れようとしない。

 閉じ込められていた間、随分放置してしまったと、ソリオンも申し訳なく思っている。


 騎兵団の1人が近くへやってくる。


「お前の従魔が湖から魔物は一掃したようだぞ。ここ1週間、怪魚は見られていない」


「そうですか。これで湖も元通りですね」


 ソリオンは湖を眺めた後、みんなへ声をかる。


「行きましょう」


 ナタリアをイチに乗せ、一緒に歩き始める。

 赤髪の少女は上機嫌だ。


「怪魚達はどこから来たんですかね?」


 騎兵団の1人が答える。

 

「我々もその調査を行なっている。怪しいのが、これから向かう木だ」


(エーエンの森にある系統樹に、怪魚がなる枝は無かった。つまり他のダンジョンから来ている)


「やっぱり系統樹なんでしょうか」


 一行は川沿いを進んでいく。その川はソリオンがよく血抜きに使っていた。湖へ流れ込むいくつかの川の一つで、エーエンの森近くを流れている。


 もう冬、間近。

 昼間というのに、川から吹き付ける風は冷たい。


「あなたは明日には、この街からいなくなるのね」


 ナタリアが少し寂しそうに言う。


「そうですね。やりたい事がありますから」


「……そう」


 しばらく川沿いを歩いていく。今日は他の従魔と同じく、シイは川を泳いでついてくる。

 あまり深い川ではないため、シイは泳ぎづらそうだ。


 横目にエーエンの森の境界をみながら、川の上流へと進んでいく。

 遠目に、紫色の葉をつけている不気味な木が目に入る。


「あれですか?」


「そうだ。見た目もおかしいが、怪魚はこの木より上流では見つかっていない。真偽は分からんが、この木が光った後に、怪魚が湧き出したなんて噂もある」


 その木はソリオンが知る系統樹ではなく、黒い幹と紫の葉を持つ植物に見える。


(系統樹とは違いそうだ。でも魔力は感じるな)


 剣を構え、ソリオンは歩いて、近寄る。

 だが、何も起こらない。


「特に何も起こりませんね」


 騎兵団の1人も困り果てた顔だ。


「何度か来てみたもの特に異常はない。ただ、見た目がな」


 ナタリアがイチに乗ったまま近寄る。

 ローレルが止めようとするが、ナタリアは構わず進む。


「一回、魔力を読み取ってみる。何かわかるかも」


 ソリオンも万が一に備えて、ナタリアの近くによる。

 ナタリアの手を触れ、魔力を取り出した瞬間、木が急に光り始める。


「ナタリア様……様子がおかしいです。こちらへ」


 ソリオンがナタリアの手を掴んだ瞬間、紫色の光が木の下を包む。


「え?」


 咄嗟とっさにナタリアを抱き寄せる。

 従魔達が急いでソリオンの近くへ駆け寄る。


 急に、体が大きく湾曲わんきょくするような、異様な感覚を覚える。

 周囲の者達が騒然としているようだが、突然、誰もいなくなったかの様に無音となった。

 

(何が起きた!?)


 周囲を見回すと、先程とは違う場所にいる。


 巨大な木々が生い茂る森林の中だ。

 ソリオンは唖然とする。


「ちょっと、離してよ」


 腕の中には、ナタリアがいた。


「すみません」


 ソリオンはナタリアを抱き起こしながら、辺りを探る。


 目の前には先程まで無かった大きな川があり、シイが泳いでいる。近くにはイチ達もいる。だが、ローレルや騎兵団は居ない。


 先程までは寒いくらいだったにも関わらず、むしろ真夏並みの暑さだ。

 まるでジャングルの中にいるようだ。


「ここは、一体どこなんだ」



−−−−−−−−−

第二章 少年期 (停滞と再起) 終わり


お読みいただき、ありがとうございます。


ソリオンの冒険は一旦ここで終幕とさせてください。


作者にとって初めての作品であり、

思い入れのある大好きな作品ですが……


次の更新は数年後か、あるいはすべて書き直して再スタートになる可能性が高いです。




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