11話 最初の街、ついに到着
途中で魔物を食べたりしながら順調に進んでいき、2日目の夜になった。
今日はシスティの要望で、川の近くにテントを貼ることになった。2日間の体の汚れを落とすためだ。
「お背中失礼します」
「ひょわぁぁ〜」
システィに背中を洗ってもらう。魔法の応用で泡を作れるらしい。
「……変な声を出さないでください」
「くすぐったくて……」
ある程度、背中が洗われた後、システィは私の体の前の方に手を回してくる。
「ちょ、ちょっと」
「……? どうかしました?」
「いや、前は自分で……」
「遠慮しないでください。…………なるほど、アカネはかなり豊満なのですね。意外です」
「~~! ス、ストップ!」
思わず立ち上がる。システィは微笑しながらこちらを見ていた。
「イタズラがすぎません?!」
「いえ、たまには私の方からもスキンシップをと思いまして」
「くっ、文句を言えない……」
「ほら、まだ洗い終えてませんよ? 座ってください」
……今は観念するしかない……みたいです。
体を洗った後、システィの風魔法で洗った服を乾かし、テントで過ごすことにした。
「これをこうして……完成です」
「これは……コーヒー?」
システィに渡された飲み物は、とても見覚えのあるものだった。森の中で採った豆のようなものを溶かして作ったものだ。
「そう呼ぶ人もいますね。正確にはナラモ豆と言います」
飲んでみると、よく知っている苦い味がした。2日間初めてのものばかり口にしていたので、懐かしい味に感動する。
「く〜! やっぱりこれよこれ!」
「久しぶりに飲みましたが、美味しいですね」
こんなものが存在している異世界に感謝しながら、コーヒーを飲み干す。
あとは明日に備えて寝るだけだ。
「続きは明日、か。あとどのくらいかかりそう?」
「そうですね、この位置からだと早くて3日ほどでしょうか」
は、半分も行ってないのか……。まあでも、食事に困ることはないし、こうやってテントで寝る場所も確保できるし、なんだかんだ頑張れる気がする。
でももし、テントの数が切れたら……。
「青錬石は残り3つ。焦った方がいいかもしれません」
「もし、4日以上かかるとしたら?」
「土と石の上で寝ることになりますね」
よし、今そのことを考えるのはやめよう。システィが言うには3日で到着するらしいし、それを信じよう。
「では、そろそろ明日に備えて寝ましょう。今日は抱きつかないでくださいね」
「えー、その方が落ち着くじゃん? それに、昨日の深夜にシスティも抱きつき返してきてたよ」
「そっ、そんなわけない……はず……です……」
……冗談のつもりだったんけど、まさかね?
出発から3日目。近道できそうな洞窟をみつけ、そこを進むことにした。
洞窟には多くの鉱石があり、これを掘り集めながら進んでいった。鉱石は街についたあと武器屋で売却し、資金にするらしい。
「おおっ! この青いの、レアっぽくない?」
「アイル鉱石ですね。2円程度でしょう」
「じゃあこれは!? この透明なやつ!」
「ただのガラスですね」
「じゃあこの白っぽいやつ」
「砂利です」
日本生まれ日本育ちの私には、この世界のほとんどの物が未知の素材に見える。
「そういえば、今日はこの洞窟内で寝るので、覚悟しておいてください」
「ええ!? 無理無理無理! 寝れないよこんなところで!」
洞窟には、ベタベタしたスライムみたいな魔物とか、芋虫のよう這いずり回る魔物とか、とにかく森の魔物よりゾッとするようなのが多かった。
「では、洞窟を出るまで進みますか? 明日になると思いますが。私は構いませんよ」
「……寝ます……ここで寝ます……」
4日目。洞窟を抜けると、見慣れた森の中に出た。だが、1つ決定的な違いがあった。
「城だ……城が見える!」
この位置からは、遠くの方に大きな城の上の方が見えていた。私達の目指す街、カラグの城だろう。
「あとひといき、ですね」
「モチベ湧いてきた〜!」
そこからはスムーズに進むことができた。
実はテントには魔物を近づけないバリアが貼ってあるとか、テントは城の倉庫からこっそり盗んできたものだとか、そんなことを教えてもらいながら進んでいった。
街が近いからか凶暴な魔物は少なく、私1人でも相手できる魔物が多かった。
「この辺りの魔物であれば、倒せるようになりましたね。新しい魔法を練習しても良いかもしれません」
「ほんとに? いやー、夢が膨らみますなぁ」
この日の夜はなかなか眠れなかった。明日には到着するというワクワク感のせいだと思う。もしかしたら、このテント生活への名残惜しさもあるかもしれない。
「……あとは、今のこの状況」
「う、ん……」
疲れているのか、私より先に眠ったシスティは、寝ぼけて私にガッチリ抱きついてきている。
あのシスティがだよ? 動揺して寝れないよこんなの。
とはいえ明日に備えて寝なければいけないので、今夜は無心で目を瞑ることにした。このことはいつかシスティを弄る時に使おう。
そして、5日目――。
長かった森の冒険が、終わりを迎える。
「ついに……ついに……ついた!」
目の前には自分の世界には絶対に存在しない、しかし憧れ続けていたファンタジーな街が広がっていた。
耳の長いエルフ、尻尾の生えた獣人、私より小さいドワーフ、そして前にそびえ立つ、大きなお城……辺り一面、どこをみても紛れもない異世界がそこにはある。
「………………」
転生してから5日、いろんなことがあった。森に飛ばされたり、初対面の人に土下座したり、魔物を食べたり…………思い返すと散々だな。
でも、システィと出会って、一緒に寝たり食べたり、魔法を教えてもらったり……良いこともたくさんあった。この5日間、かなり楽しく過ごせたと思う。
「どうしたんですか? 目を瞑って」
「今ね、思い返してたんだよ…………私達の"軌跡"を――」
だけど、これは"終わり"じゃない。私達の冒険の"始まり"だ。異世界での”冒険者”としての生活が、私達を待っている。
「さぁ、征こう――」
「申し訳ございませんが、冒険者登録にはお一人様1万円払っていただく必要があります。お金を準備して、再度お越しください」
街に入って早々、思わぬところでつまづいた。
「冒険者登録にはお金がかかるのですね」
街に入り、道ゆく人々に場所を聞きながらこの『冒険者ギルド』に辿り着き、冒険者登録をしようとしたが、どうやら2人で2万円かかるらしい。
「『さぁ、征こう――』などと言っているからです」
「やめてください。恥ずかしくて死んでしまいます」
「冗談です。私も想定していませんでしたし」
現在、私達の所持金は2人合わせて0円。無一文だ。冒険者登録するためにはどうにかして2万円稼ぐ必要がある。
「まずは……一昨日集めた鉱石を売りにいきましょう」
「街に興奮して忘れてた、それ」
そう、一昨日は洞窟の中でそれなりにレアっぽい鉱石をいくつか集めた。システィによるとある程度の価値がつくらしいので、まずはそれを売りにいくのが先決だろう。
「足りなければ……簡単なお仕事をする必要がありますね」
「……バイトかぁ〜」
異世界にきて最初の街で、やることがバイト……。
まぁでも、冒険者になるためには仕方ない、か……。
「よーし、行こっか」
外に出るため出口の方を振り向くと――奥の方の席に座っていた金髪の女の人と目が合う。
金髪の女性は私から目を背け、自分の作業に戻る。
「……なんか私達、目立ってる?」
ギルドへの道のりでも、このギルドの中でも、多く人から視線が集まってる気がする。
腫れ物扱いという感じではなく、単純に珍しいものをみるような視線。
「たぶん、システィのことみてるよね?」
そう、私の隣にいるのは一国の王の娘、お嬢様中のお嬢様だ。溢れ出る気品、人形のように美しい顔立ち、システィを前にして目を奪われない方が無理な話だ。
「そうでしょうか? 私にはアカネが目立っているような気がしますが」
「え? そう?」
「ええ……そんな服、普通は着ませんから」
言われて、自分の服を見る。
……高校の制服。
なるほど、目立つに決まっている。私にとっては当たり前でも、この世界の人からしたら見たこともない服のはずだ。
「服も買わないのいけないのかなー」
「そうでしょうか。私はそれでもいいと思いますが?」
「そうかな?」
「ええ、かわ……似合っているので、とても」
「ええ?! 似合ってるなんて初めて言われたよそんなの!」
そんな話をしながら、ギルドを後にする。出る前に先程の金髪の女性の方を見ると、また目が合った。
なるほど、確かに私が見られているかもしれない。
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