第19話:九重姉妹とヒロ
俺はいまちょっとした問題に直面していた。今日は俺のアパートに まひろちゃんとなごみが泊ることになった。ベッドは1台のみ。しかも、そこには既に全裸になっている まひろちゃんが眠っている。
フローリングの床と違って、畳なので俺は床で寝るとしても、なごみはどこに……自分の家なのに思った通りにならない状況が目の前にあった。
「タオルケットを家から持ってきますか?」
「ああ、そうだな、頼む。ついでに持ってこれる布団があったかな?」
布団は重たくないが、大きいので俺が運ぶつもりだ。
「お客様用はあるんですが、1組しかありません。だから、それは兄さんが使ってください」
「いや、それは なごみが使ってくれ。俺は畳で十分だ」
「そうはいきません。私だけお布団使って、兄さんを畳だなんて……」
困った。こうなったら、なごみは譲らない。こんな時は、意外に頑固だ。ベッドに二人なら算数的には合うのだが、実際問題シングルベッドに二人は辛い。1人は確実にベッドから落ちる。
まあ、布団なら二人も可能だ。多少はみ出てもそこは畳。まひろちゃんを布団に移して……ダメだ。まひろちゃんは裸で触れられるところがない。目を逸らすとか、服を着せるとか色々手は思いつくけど、俺にはそれら全てが実行できなさそうだ。
「とりあえず、布団を取りに行こうか」
「はい」
俺が本家で寝たらいいのかとも思ったが、そしたら、まひろさんが一人になってしまう。あれだけ酔いつぶれた後に一人置いておくのもなんか不安だ。
*
「兄さん、良い方法があります」
本家から布団を持ってきたときに なごみが提案した。学業においても なごみは成績がいいし、学業以外の賢さの部分でも頭の回転が良い方だ。その彼女が思いついたというのだから、俺は期待した。
「教えてくれ」
もう、全パターン考えたが、唯一の正解はない。条件が変わらない限り正解にはたどり着けない。
「私と兄さんでお布団を半分ずつ使いましょう。冬と違って掛け布団は不要で、タオルケットさえあればなんとかなります」
「なるほど、俺となごみの二人で布団を使えば、万が一布団からはみ出ても畳の上で寝るだけだし、被害は最小限に……ってダメだろ!」
しまった。見事なノリツッコミをしてしまった。
「お布団が1組しかないから しょうがないじゃないですか」
「でも、ほら、年頃の男女が同じ布団だと……」
「兄さんは、私が一緒だと何かするんですか?」
何かするつもりはないのだけれど、それで済まなさそうなのが、男女というものじゃないだろうか。
「何もしないけれども……」
「じゃあ、良いじゃないですか」
「その……」
***
なぜ、こうなった。
8畳ほどの それほど広くない部屋で一番大きいものはベッド。その上には まひろちゃんが広々と寝ている。
そして、床に敷いた布団の上に俺と なごみが一緒に寝ていた。
なごみの方をチラリとみると、天井を見ている。別に取り乱したりもしていない。
「どうしたんですか?兄さん。眠れませんか?小学生の頃はよく一緒に寝ていたじゃないですか」
それはお互い小学生の時の話だろう。俺たちはもう、高校生だ。もちろん、妹が悲しむ様なことはしない。できる訳がない。
「そうだったな。今日は久々に兄妹水入らずで眠ろうか」
「はい、おやすみなさい。兄さん」
「おやすみ、なごみ」
***
翌朝は大変なことになった。
「なんだこれは⁉ なんで私は裸なんだ!? しかも!」
何がどうなったのか、目が覚めたら布団に三人で寝ていた。端で寝ていた俺、中央に真っ裸のまひろさん、反対側になごみ。流石に、寒かったのか、逆に暑かったのか、まひろさんがいち早く目が覚めたようだった。
まひろさんは身体にタオルケットを巻き付けている。辛うじてまひろさんの方向を見ることはできるのだけど、色々際どくてとても直視できる状況ではない。
「なごみ! まひろさんに説明してくれ!」
俺がなにを言っても信ぴょう性はかけらもないだろう。
「ん、んん、どうしたんですか、兄さん。朝から騒いでどうしたんですか?」
目を擦りながら なごみも目を覚ました。すぐさま状況を把握して何か言って欲しいところだけど、それは期待し過ぎと言うものだろう。
謹んで まひろちゃんの文句を受け止めることにした。そう、俺は「まひろちゃん」と呼ぶことで、乙女モードの彼女とのつながりを感じていたいと思っていた。
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