第31話 寄り道をしました
「次に顔を見せたら滅ぼすと伝えた筈なんだがなぁ。何故こいつはここに来たのだろう。なぁ、お前しっかりと伝えたよな?」
「ええ、『血気盛んな連中が多い』とも伝えました。ですから、滅ぼされに来たのでしょう。他に理由を思いつきません」
留学王女を処理した後、吾輩は王都の郊外に足を運んだ。王都はとても大きいが、辿り着くまでにそれほど時間は掛からなかった。何しろ今の吾輩は影潜りができるから、夜ならばどこにだって行ける。
郊外のどこかといえば、もちろん近衛師団第2連隊の駐屯地である。他に吾輩に物騒な言葉を投げかける奴らが集まる場所はない。
「お前ら、未だ滅ぼすなよ? 俺はこいつの話を聞いてみたい」
騎士団長が酒杯を煽りながら言った。彼の正式な肩書は王国陸軍近衛第1師団第2連隊連隊長であるが、長いから騎士団長のままでいいだろう。それに、名前を覚えるのは面倒だ。
「改めて聞こう。何故あんたはここに来た?」
改めて状況を説明しよう。
吾輩は昨日の昼ぶりに彼の天幕にいて、そして殺気立った大量の騎士団員達から抜き身の剣を突きつけられている。ちなみに、外にも気配が1,000以上あることを吾輩の鋭敏な聴覚は捉えていた。つまり、彼の連隊が抱える人員の約半分である。
剣は銀製だった。
大変大変、用意周到だと思った。
「分かっている癖にもったいぶらないでほしいな。素直に、吾輩の質問に答えてくれると嬉しいのだが」
吾輩は急いでいた。この近衛たちとの
騎士団長は再び酒盃を煽った。仕事中に酒を飲まないという彼の台詞を吾輩は思い出した。まるっきり嘘ではないか。大量の部下が完全武装でいるというのに、随分とまぁ。豪胆というかなんというか。評価に困る男だ。
なんであれ、速やかにお話を終えたい。
「素直だぁ? おい、先ずは俺の質問に答えろ。順序よく頼む。もし俺たちが全然分かっていなかった場合、困るのはあんたなんだからな」
「昨日の昼とは事情が違うのだ。手っ取り早く済ませても良いのだが……」
そう挑発した途端、周囲が一気に殺気立った。吾輩の白い肌を剣先が幾つもめり込んだ。おっと、血の気の多い連中ばかりというのは本当らしい。そして、
「おーおー! 勇ましいねぇ! 俺はそれでもかまわないぜ!!? 俺の部下もそうしたがっている!!」
騎士団長は目を爛々と輝かせて吠えた。
ふむ? そうか、しょうがないな。いいだろう。乗ってやるしかないようだ。
「仲良くなるための儀式が必要。そう言いたいのかね?」
「そう受け取ってもらって構わない。あんた、皆と仲良くしたいんだろうが。ほら話せ、何故ここに来た」
確かに皆と仲良くしたい。
叶うかはまったく別の話だが、それが吾輩の夢である。
「それはな……」
それに、順序を踏まないで好き勝手に振る舞った場合、魔王様に怒られてしまうことは間違いない。吾輩は魔王様に弱いのだ。ため息を一つつく。考えをまとめて、話し始める。
「……大学が半壊したのに誰もやってこなかったからだ。改修工事中とは言えありえない。あの騒ぎはでか過ぎた。警察か消防がやってくるべきだ。では、ありえないことが何故起きたか? 何故なら、君たちが近衛だからだ」
「へぇ、俺たちが近衛だとどうなる?」
「近衛の仕事は魔王城の守備だけじゃない。王都を守るのも職責の内だ。当然、王都警察や消防とも繋がりがあるだろうさ。動かないようにすることも容易かろう」
「妥当な推理だ。そうとも、王都のすべては近衛の思いのままさ。だからこその近衛だぜ。だが……」
「そこだよ。君らは今、休暇で国中に散っている。よって王都を好き放題にするのは無理だ。だが、不思議だなぁ……、それなのに何故だろう。何故、王立大学怪獣大戦争に誰も駆けつけて来なかったのだろう」
「……」
「そして今君たちは、完全武装で駐屯地に集結している。なぁ、君らにはどんな意図があるのだろうな。ああ、そうそう。ここを吾輩が訪ねることは、手紙に書いて戦争大臣に送ってあるよ。吾輩を滅ぼせば証拠隠滅できるとは、思わないことだ」
言い終わり、周囲の騎士諸君の顔を改めて眺めた。若干引きつって見えた。
そうかそうか、全部当たりだったらしい。直ぐここに来て正解だった。
「どうだろう。吾輩の質問に答えてくれる気分になったかね?」
まったく気がすすまないが、手っ取り早く済ませても良いのだよ。
そう続けてから、吾輩はにこやかに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます