第12話 もう一人の吸血鬼に話を聞きにいきました
大きな扉を勢いよく開けたその向こうで、戦争大臣ちゃんは相変わらず書類の山に囲まれていた。机の脇には酒瓶が何本も転がっている。朝から数が増えている気がした。
立ち寄るべき場所とは、何を隠そう戦争大臣ちゃんの元である。留学王女ちゃんとのお喋りを経て、吾輩には
彼女は胡乱げな表情で問うてくる。
「なんだ、騒々しい。もう犯人を見つけたのか?」
「ハッハ! まっさかぁ!!」
「そうだな。そうだろうともさ。期待はしていない」
「……ところでだけど、戦争大臣ちゃん。飲み過ぎじゃない? 大丈夫?」
「ん? ああ、掃除してないだけだ。今日はまだ3本しか飲んでない」
「吾輩が言うまでもないと思うけど、そんなに飲むと……」
「ならば言うな」
「じゃあ言わない!! 本題に入るね!」
吾輩は
「戦争大臣ちゃんって、血を飲むと何ができるようになるんだったっけ?」
そう、戦争大臣ちゃんも吸血鬼だ。吸血鬼は死んだその時から年を取らないから、幼女の姿でいるのはそれが理由なのだった。
飲んでいた赤い液体ってのは、もちろん葡萄酒ではない。血だ。
個体差があるが、吸血鬼は血を飲むとあれこれ強化される。留学幼女ちゃんレベルまで色々できる例は珍しいけれどね。
戦争大臣ちゃんの場合、血を飲むことで体力が湧いてくるんだろう。仕事が終わらないなら大いに飲むべきだろう。
だが、飲みすぎると反動が出る。
めちゃくちゃ眠くなってしまうのだ。
最低でも数日スパンで寝てしまう。
吾輩、血を飲みすぎた後で五十年寝たことがあるよ?
毎日出勤することのほうが大事じゃない?
戦争大臣ちゃんには仕事があるんだから……
吾輩はごめんだ。
吸血鬼ってのは、朝に寝て夜に起きるものなのだ。
そう言う吾輩が今日朝から活動しているのは、まぁ、魔王様の命令があったからということになるね。吾輩も頑張っている!
ともかく。
吾輩の質問を聞いて、戦争大臣ちゃんは顔をしかめた。
「……馬鹿にしているのか?」
「全然してないよ! なんでそうなるのさ!!」
どうやら怒らせてしまったらしい。
幼女姿の戦争大臣ちゃんが怒ってもちっとも怖く見えないけれど……
「まあいい…… 身体強化と
「なるほど。それって普通だよね?」
「煽ってくれるじゃないか…… 私の影潜りはなかなかのものだ。今日は3本飲んだからな。今なら魔王城くらいの広さなら自由に移動できるぞ。これほどの力を得るまでに何十年かかったことか」
「そうなんだね! 吾輩最近痴呆が激しいから、影潜りがどんなものだったか忘れちゃったんだよね!!」
「馬鹿にしているな?…… おい待て。貴様、どこに行く」
「ごめんね! 用は済んだから!! ばいばい!!」
「本当に馬鹿にするためだけに来たのか? おい!! ふざけ」
吾輩は勢いよく扉を閉めて歩き出した。大量のデュラハンたちを横目に見ながら、戦争大臣ちゃんとの会話を振り返る。
なるほど、なるほど。
気になっていたことは、確かめることができた。
今回の『吸血鬼連続殺人事件』を難しくしている最も大きな要素は、犠牲者が吸血鬼であるという点だ。不意打ちで心臓を突けばあっさりと吸血鬼は滅ぶけれど、吸血鬼は暗殺しやすくない。目も耳もいいからね。回復力は血を飲まなくても強いし、しかも血を飲めば色々強くなる。
でも、暗殺者が同じ吸血鬼だったならば?
しかも、圧倒的な強さを持つ吸血鬼だったならば?
戦争大臣ちゃんでも、血を飲んで発動する能力は3つ。しかも、影潜りは城の中だけ。確かに魔王城は途方もなく広いけれど…… パッとしないね。
一方、
留学王女ちゃんは15歳なのに、能力は9もある。しかも明らかに、魔王様の腹心である戦争大臣ちゃんより強い。身体強化は十分以上だったし、影潜りの距離も必要以上だ。ドラゴンになれるのならば、何か便利なものに変化することも楽勝だろう。つまり、圧倒的な強さを持つ吸血鬼というわけだ……
つまり犯人は--
うーん。分からないなぁ。
取り敢えず、魔王様の意見を聞きに行こう!
今日はもう遅いから、明日ね。また寝室に忍び込んで怒りを買うのはゴメンだなのだ。
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