第4話 第一容疑者であるリッチの元を訪れたら怒られました
吾輩は早速捜査を開始した。
戦争大臣ちゃんから貰ったリストに載っている容疑者達、もとい重要参考人--いや、容疑者だったかな? まあどっちでもいいか!--は4人。
1人目。次席執事ちゃん。
2人目。騎士団長くん。
3人目。家庭教師くん。
4人目。留学王女ちゃん。吸血鬼。西にあるB国の第九王女で留学生で人質。若くして相当な才能を持っているともっぱらの評判だ。幼い頃から魔界一の強国を治めてきた魔王様のことを大変尊敬しているらしい。
戦争大臣ちゃんの説明によれば、一連の連続殺吸血鬼事件を成し得る人物がいるとすれば、この4人だけということだった。
うーん、4人に絞れているなら全員監禁すればいいような気がするけれど……
立場とか体面とか、色々あるのかもしれないね。
吾輩、そういう難しいのは苦手だなぁ。
■□■□■
そして吾輩は戦争大臣ちゃんの執務室からしばらく歩き、最初の目的地--本丸本郭の十五階である--にたどり着いた。重要参考人リストの一番上に名前が記された人物の部屋である。
なお、道中ではもちろん大量のデュラハンとすれ違った。
なるほどなるほど。厳重警戒下にあるって話はやはり本当らしい。
この部屋に来るまでに四一二体のデュラハンに声を掛けたよ。戦争大臣ちゃんの執務室に着くまでにすれ違ったのとは別カウントで。指折り数えたから数字に間違いはない! 多分!
多すぎるね! 昔魔王城を訪れた際は、各階に十数体くらいだった気がするな!
よって、確信した。こんな状況で暗殺なんて無理だ。少なくとも、普通の魔族には。
つまり! 犯人はここにいる!
間違いない! 吾輩の調査によればそれは明らかだ!!
分厚い扉を挟んだ向こうには、魔王様の直属として魔王城の警備責任者を務める次席執事ちゃんがいる。そう、デュラハンすべてを支配するリッチの女ならば--
「お前が魔王様に仇なす大罪人だな!! 堪忍せぃ!」
吾輩は扉を勢いよく開けた。すべての扉は力いっぱい大きな音を立てて開けられるべきだからだ。ドアノブが壊れて床に落ちた気もするが気にしない。挨拶は元気な方が良いし、大きな音がしたほうが元気が出るのだ!
「うるっせぇなぁ!! 壊れるだろうが!!!」
「ひっっ!!!」
どうやら大罪人は短気らしい。
怒られてしまったよ。
せめてもの償いに静かに扉を閉める。こんなに怖い女だとは。
戦争大臣ちゃんめ。あらかじめ教えておいてくれればいいのに。
えーと。何のためにここに来たんだっけ?
そうだ。思い出した。
「こんにちは! お喋りに来ました!!」
「は!? ぜってーちげぇだろ!!」
また怒られた!
うーむ。吾輩は空気が読めないと言われることがままある。仲良くしたい気持ちが空回るのだ。それをやっちまったのかな。
「まあまあ落ち着いて!! 可愛い顔が台無しだよ!」
「貴様ッ!! いや、いい…… 話が進まなさそうだ。落ち着いてやる……」
部屋の主は深呼吸しながら頭に手を当ててため息をついて天を仰いだ。
おお! 器用だね! 同時にそんなにジェスチャーができるなんて!!
で、吾輩はどこに座ればいいんだろう。キョロキョロと周囲を見渡す。部屋にはいくつもの椅子があるが、すべて本や書類で埋まっている。
「適当に座れ。紙束は床に置いていい」
ああそう。
吾輩は言われたとおりに椅子に座り、改めて部屋の主を見る。
いわゆる次席執事ちゃんだ。魔王陛下と魔王城の世話をする無数の執事たちのナンバー2である。リストと一緒に渡された資料には、「種族:リッチ」とあった。
リッチというのは、不老不滅のためアンデッドとなった強大な魔法使いの総称である。魔族の証である角は風化していて、元々の種族が何か分からない。吊目が目立つが紛うことなき美女だった。長いローブが良く似合っている。
魔術に長けた奴はローブを着ると相場が決まっているが、これほど様になっているのは初めて見た。うむ。この女の子、相当できる。そうに違いない。吾輩の直感がそう言っている!!
で、次は外見について。若くみえるが…… リッチは吸血鬼と並んで年齢がわからない魔族ランキングトップツーである。なお、
何歳なんだろう。
そう思いながら彼女の顔を眺めていると、次席執事ちゃんは言った。
「久しぶりだな」
「そうだっけ? はじめましてじゃない?」
「以前会った時もそう言っていた。その前も、その更に前もな」
「ごめんね! 吾輩あまり人の顔覚えられないんだ!!」
何しろ長い時を生きているのでね!
吸血鬼は死んでるけどね!!
「うんざりするほど明るいな。そんな奴だったか……? まぁ、いい。戦争大臣から貴様が来ることは聞いている。好きなだけ尋問しろ」
「じゃあ早速! 次席執事ちゃんが吸血鬼たちを滅ぼしているのかな? 魔王城のデュラハンを操っているのは次席執事ちゃんなんでしょ? じゃあ決まり! 君しか出来ない!!」
「はは! 率直なところは変わらんな!!」
彼女は笑った。
うむ、確かに吾輩は率直だ。それだけは自信がある。
「いかにも私はデュラハンマスターで、今は約三万体を動かしている。魔王城は完全に監視下にあるとも。私に気付かれずに暗殺は不可能。その筈だ」
「じゃあ次席執事ちゃんが犯人ってことだね!」
「相変わらずなのはいいが、余りにもズケズケと…… まあいい。そうだったそうだった。印象は変わっているが、貴様はそんな奴だった」
彼女は小さく息を吐いて続ける。
「……話を戻すが、違う。犯人ではない」
「それはそれで大問題じゃない? 魔王城の警備は次席執事ちゃんの担当なんでしょ??」
「……屈辱的ではあるが、私の監視は完全ではないらしい。証明するよ」
次席執事ちゃんは立ち上がった。纏ってたローブを脱いで椅子にかける。
やや、その仕草は! 戦闘態勢の準備!! 普段ローブを着ていても、戦闘時には必ず脱ぐものだ。邪魔だからね!
「おお? どうしたの!? やろうっての!? 吾輩は嫌だぞ!??」
「やらない。話の腰を折るな…… 貴様、身体を動かすのは好きだったな?」
お、違うらしい。吾輩はほっとした。
争いごとは嫌いなのだ。勝っても負けてもしこりが残る。
そんなのは御免だ。吾輩は皆と仲良くしたいのだ!
喧嘩じゃないなら大いに結構!
「そうだね! 運動は大好きだね! 最近まともに動いてないし。しっかし、本当に次席執事ちゃんは吾輩のことを知ってるんだねぇ。ねぇ! 初めて会ったのはいつかな? 教えてくれたら思い出せるかも知れないよ!?」
「本当にうるさいな貴様…… ついて来い。少しは楽しませてやる」
「いいね! 楽しいことは大好きさ!」
すたすたと部屋を出ていく次席執事ちゃんの後を追って吾輩も立ち上がる。運動は素敵だ。止まった心臓が再び動いているような気分になるからね。
あれ、何しに来たんだったっけ?
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