美少女留学生と挑む七不思議!
いちのさつき
第1話 短期留学生がやって来た!
クラス替えがあってからひと月。ようやくクラスに馴染んできたなと感じてきた頃だった。同じクラスの飯田がロンドンに短期留学していたから、交換留学の時期が来たんだなとは思った。だけどロンドンから来る学生がここのクラスに来るとも限らない。まあ別のクラスだろうと思っていた。
「朝礼を始めるぞ」
ガタイの良い確か30歳の男の先生、羽根田先生がいつも通り教室に入って来る。先生に付いてきてる人にクラスのみんなが驚愕した。背中まである綺麗な金髪。サファイアみたいな感じの目。陶磁器のようなツルツルとした真っ白い肌。人形師が手掛けたのですかと言わんばかりに顔が整っているけど、明るい表情のおかげでとてもキュート。事務員だと揶揄されているうちの高校の女子制服を普通に着こなしちゃっている。
「その前に紹介をしておく。ロンドンにある姉妹校グレンズガーデンのアリス・ホワイトさんだ。2週間という短い期間だが、仲良くやって欲しい」
本当にこのクラスに留学生がやって来た。普段は静かなクラスでもここまで盛り上がるとは。
「こりゃ飯田、嘆きそうだな」
黒髪で眼鏡をかけているクラスメイト、オタク仲間の田中が面白そうに笑った。飯田はオタクだ。可愛い子が好きだ。確かに田中の指摘通り、アリスという留学生の写真を見せたら、おもいきり嘆くだろう。あれはいちいちリアクションがデカい奴だし。
「アリス・ホワイトと言います。グレンズガーデンからやってきました」
英語で自己紹介をするのかと思いきや、普通に日本語だった。パチパチと目を開いたり閉じたりしてしまう。アリスはきょろきょろと教室中を見ている。やっぱ珍しいものばかりだからか。
「えーっと。このクラスにカミシロという方、いらっしゃいますでしょうか。文字は確かこんな感じだったと思うんですが」
アリスの爆弾発言(黒板の文字もか)でクラスのみんなが一斉に俺を見る。痛い。視線がめっちゃ痛い。答えたくないけど、やるしかない。そこの田中、突っつくのをやめて欲しい。立ち上がって、返答しよう。
「俺です」
その答えを聞いたアリスは嬉しそうに言う。
「しばらくお世話になります」
頭が真っ白になった。日本語なのに意味が理解できなかった。それが原因かどうか分からないが、授業に集中できなかった。それだけじゃない。肝心の美術部の絵画にも響いていた。我ながら情けない。ため息を吐きながら、学校の下駄箱がある昇降口まで行く。徐々に日が長くなっているのか、夕方になっても空が明るい。運動部がまだ活動している中、俺は静かに帰宅を……誰かいる。留学生のアリスだ。日に照らされて、とても綺麗だ。誘いの言葉を告げる。
「トオル。一緒に帰ろ」
クラスの女子とつるんでばかりだから、てっきり俺の名前知らないと思っていた。いやそう言えば、幼馴染の彼奴が勝手に教えたに違いない。まあどっちにしろ。家で言うつもりだったから、問題はないのか。今後がだいぶ心配だけど、とりあえず家に帰ることを目標にしよう。
「イエス?」
英語にしてみたけど、アリスさん、発音が下手くそ過ぎて申し訳ない。笑っても良かったのに、微笑むだけだった。恥ずかしい。体が熱くて、どこか冷たいところに飛び込みたい。
そう思いながら、15分電車に揺さぶられて、その後はてくてくと歩いて家に到着。3世代が過ごす前提で建てたものだから、周りの家に比べると大きい。小学校時代、屋敷扱いされたこともある。インターフォンのボタンを押し、ピンポンと鳴らす。すぐにおばあちゃんが出てきてくれた。渋い和服を着た80歳近く、孫の自分が言う事ではないが、正直マジで80歳なのかと疑いたくなる。
「ご無沙汰しております。東洋の獣使い、上代良子様」
アリスがお辞儀をした。東洋の獣使い、おばあちゃんが現役バリバリの時に呼ばれていた名だ。アリスがそれを知っているということは……間違いなく、“あの組織”に入っている。おばあちゃんが照れくさいように言う。
「私は引退したんだ。その呼び名はよしてくれ。中二病臭くて恥ずかしい」
俺がアニメにドはまりした時、退屈していたばあちゃんにとっていい暇つぶしになったらしい。今はその話はどうでもいい。アリスがあそこに入っているかどうか、それを確認しておきたい。
「詳しい事情は中に入ってからだ。透。夕食の支度をしい」
「分かった」
そんなわけでアリスと共に家に入り、俺は夕食の支度を始める。夕食の用意は担当制で、内容は任せる形だが、今日は珍しく指定されていた。達筆で書かれていたメモが数枚あった。これ全部イギリス料理っぽいのは気のせいだろうか。レシピに従うしかない。既に野菜スープが出来上がっている。炊飯器から湯気が出ているということは炊いている最中のようだ。あとの分を作れということらしい。おばあちゃん、孫に丸投げするのもどうかと思うが、やってやろうじゃないか。初めてでも出来ることを証明してやる。
「しゃあ!」
1時間ぐらいかけて、指定された料理全部完成した。やったぜ。達成感が湧き出てくる。気持ちいい。
「ただいまー」
姉ちゃんが帰って来た。珍しく父さんもいる。同じ電車に乗っていたのか。テーブルに出来たものを持っていこう。
そして夕食の時間になって、茶髪に染めてる姉ちゃんとオールバックみたいな感じの髪型にしてる父さんが座った。その後、おばあちゃんとアリスがやって来た。アリスの目が輝いている。
「Wow! It’s amazing!」
素が出ている。声で分かる。メッチャ喜んでいる。頼んできたおばあちゃんは満足気だ。期待通りと捉えておけばいいのか?
「そうだね。相変わらずの器用な孫だよ。食べよう。そんで透。食べ終わったら話があるからね」
「うん」
話があるって何だろうと思いながら、自分が作ったものを口に入れる。自画自賛だが美味い。ただイギリス料理と言っても、日本人の口に合うようにしている。アリスが美味しいと思うかどうかは……この様子だと口に合っていたみたいだ。ふわふわとした雰囲気だし、上品に食べてるし。でも一応、聞いておこう。
「アリス。どう?」
「美味しい!」
笑顔が可愛い。眩しい。こっちが照れくさくなるじゃないか。本当に作った甲斐があった。
「良かった」
「明日からは日本の料理も出て来るんだよね? 楽しみにしてる! リョーコから聞いてるの。トオルが当番なんだよね?」
めっちゃ期待されてる。このプレッシャーはヤバイ。家庭料理しか作れない俺がどこまでクオリティを高くできるのかが。
「あーうん」
「まあいつも通り作ればいいさ。自信を持ちな。薫より断然うまい」
おばあちゃん、遠いロンドンにいるからって自分の娘をディスるな。そりゃ母さんそこまで料理得意じゃないけど。もうちょっと言い方あったんじゃ? 緊張するなと言いたいのは分かるけどさ。
「そうだ。思い出した」
ずっと喋って来なかった姉ちゃんが口を開く。嫌な感じしかない。
「明日唐揚げよろしく」
サムズアップしながら言うな。
「平日に油系を要求するな馬鹿姉!」
揚げる系統は片付けが面倒なんだぞ。出来立てほやほやを食いながら、ビールを飲みたいだけなんじゃないか? そもそも、ばあちゃんが冷蔵庫ぎゅうぎゅう詰めにしたせいで、自由に献立組められないんだけど!
「それに冷蔵庫に鶏肉ないから無理だ」
「えー」
文句を言っても覆りはしないぞ。あざとくアピールしても無駄だ。冷蔵庫があれじゃ、買い物出来ないからな。
「仕方ないさ。冷凍ので我慢しな。いおり」
冷蔵庫ぎゅうぎゅうにした主犯が言うセリフじゃない気が。
「へーい」
不満だと思うが、本当に冷凍で勘弁してくれ。自由時間だって欲しいんだ。今日も依頼をこなさないといけないし。早めに取り掛かれるように食べて、おばあちゃんから話を聞こう。
「ごちそうさまでした」
20分後に完食。姉ちゃんが片付けるっぽいし、おばあちゃんのとこに行こう。何でかアリスが付いてきてるけど、どういうこと? まあいいか。1階だと数少ない6畳の和室に入る。ご丁寧に座布団用意されてる。
「座りな。今から色々と話さないといけないからね」
ガチだ。真剣そのものだ。アリスがいる中で、何を話すつもりだ。身を構えておくしかない。
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