光に堕ちた魔法少女と洗脳された男

アンリミテッド

第1話

 私は魔法少女。元は悪の組織の幹部だった。けど私は魔法少女達に心を開いて、仲間になった。


 今日も仲間の魔法少女達と一緒に敵に立ち向かう。そのつもりだった。


 私は生み出された怪物を仲間達に任せることにした。本来なら私も仲間達と共に怪物を倒す。連携も最初の頃と比べて、意思疎通が出来るようになってきた。

 でも私は仲間達に怪物を任せた。どうしてもそうしなければならない。


 彼と再会する。私が女幹部だった頃の部下。そして魔法少女達よりも先に心を開いた男。大切な人。


 私と彼の2人きり。変わった彼の姿を見る。


 白のシャツに黒のズボン。背中には黒のマントがある。荒々しさがある黒の短髪。

 意外と似合っている。私なんか黒ずくめにしただけだった。姿が変わるだけで印象がこんなにも変わるなんて。


 彼の赤い瞳と目が合う。私は姿を見て一瞬で理解した。――昔の私と同じように洗脳されている。

 私はいつの間にか力強く手を握り締めていた。


「どうしても、戦わないといけないの」


 私は戦いたくない。傷付けたくない。そんな弱音が言葉として出てしまった。


「そうですよ」


 私の言葉に彼は簡単に返した。その言葉には敵意と憎悪を感じる。洗脳されている影響だ。


「それにしても、随分とお人好しになりましたね」


 悪意ある言葉が私の心を突き刺す。

 確かに前の私と比べたらお人好しになったのかもしれない。けど、私は言い返す。


「私は、自分の心に素直になっただけよ」


 前の自分じゃ出来なかったこと。魔法少女達から教わったこと。そして貴方が教えてくれたこと。


 私は純粋な心で彼を見つめた。




 悪の組織。その女幹部。

 黒のコスチューム。灰色の長髪。赤色の瞳。それが私。

 組織への忠誠心で、私は魔法少女達に挑んて来た。


 そんな私と彼が出会ったのは唐突だった。彼は私のことを知っていた。何処かで従えていた怪物に襲われたんだろう。そこで私の姿を見た。

 私は何処で、いつ見たのかすら分からない。目に入るのは怪物と敵である魔法少女達。逃げ惑う人々の顔なんて覚えていない。そもそも眼中にすらなかった。


 彼は制服だった。しかも私が潜伏している学校の制服だ。


 私は焦った。姿を見られたのだ。なんとかしなければならない。


 そんな私に予想外の言葉を彼は放った。


「貴女がいるであろう組織に入れて下さい! 僕を貴女の傍に居させて下さい!!」


 は? 今なんて言ったの?

 組織に入ることはまだ分かる。しかし何故私の傍に居たいんだ。

 彼は頭を下げている。理解出来ないことはあるが、都合が良かった。


「良いわよ。貴方を私の部下にしてあげる」


 私は彼を部下にすることにした。と言っても使い捨ての駒だ。使えなくなったら捨てる。そのくらいの考えだった。


 彼は私の言葉を聞いて嬉しそうに顔を上げた。罪悪感はあったが、感じないようにした。私の弱さにしたくない。


「ありがとうございます!!」


 彼は私に笑顔を見せる。罪悪感が増えた気がするが、気の所為だと誤魔化した。

 私も彼の馬鹿らしさに自然と微笑んだ。



 それから私と彼は何度も魔法少女達と戦った。

 彼は全身黒ずくめの戦闘員として戦う。しかし勝つことはなく、次第に相手にされなくなってしまった。


 当たり前だ。彼はただの一般人。常人の魔法少女達との戦いについていける訳がない。

 しかし彼は満足そうに笑っている時がある。何に満足しているのか分からなかった。


 戦闘では役に立たない。それどころか相手にされない。捨ててやろうと思った。


 そんな考えが変わった。



 頭が痛い。私は今、不調だった。

 怪物が戦っている時から、頭痛があった。彼にはすぐに勘付かれてしまったが、勘違いだと誤魔化した。


 そのまま魔法少女と戦い、追い詰められてしまった。


「っ!」


 頭痛が襲い掛かってくる。その瞬間、私は動けなかった。


 そんな僅かな隙を魔法少女は見逃さない。

 魔法少女は必殺技を放った。


 私は棒立ちで、避けることは間に合わない。咄嗟に両腕で顔を守る。でも、受け入れることしか出来なかった。

 魔法少女の光線が私に迫る。情けないことに、思わず瞼を閉じてしまった。


 きっと私はやられる。魔法少女の必殺技は怪物達を倒してきた。

 私も同じようにやられるかもしれない。その瞬間が、怖かった。


 何も感じない。


 私は瞼を開いて、驚いた。目の前には彼がいた。まるで私を守るかのように。その後、倒れた。


 彼が私を庇ったことを理解した。魔法少女もこれには驚きを隠せないでいた。

 ただの一般人で捨て駒しかなかった彼が、私に命令された訳でもないのに庇った。頭が追い付かない。色々な感情が混ざり合う。


「チッ!」


 舌打ちが出てしまう。

 彼を抱えて、撤退した。


 いつものように捨て台詞を放つ余裕は無かった。



 悪の組織。その一室に私と彼はいた。

 彼はベットで横になっていた。目覚めない彼に私は不安を覚え、必死に身体を揺すっていた。


「おい! しっかりしろ!」


 私は言葉をかけるが、彼は答えてくれない。傷だらけの彼の姿を見ていると自然と涙が出てきてしまった。


 涙の雫が彼の顔に落ちる。――すると、彼は目を覚ました。


 目覚めて悪いとは思った。けど私の心には余裕なんてない。開口一番に本音をぶつけた。


「なんで! どうして私を庇ったの!!」


 涙が溜った目で彼を見た。すると彼からとんでもない発言をする。


「貴女が好きだから、大好きだからです」


 私は戸惑いを隠せなかった。彼の「大好き」という言葉に動揺してしまった。本音なのも自然と理解してしまう。「好き」なんて言われたのは、初めてだった。


「心配してくれてありがとうございます。もう大丈夫ですから、涙を流さないで下さい」


 彼はまだ私の心を揺さぶろうとしている。


「心配なんてしてないわ! 貴方はちゃんと休みなさい」


 私は照れ隠しのように言い放つ。動揺していたのは大声だった。

 私は彼に言い残すと部屋を後にする。


 私は少し離れた所で、壁に背中を押し付ける。胸に手を置いて確認した。鼓動がいつもよりも遥かに速かった。

 彼の所為だ。彼の言葉に私の心は思っていた以上の反応を示していた。顔、頬辺りだろうか。熱があるように感じる。


「……馬鹿」


 誰もいない廊下。私は小声でそう呟いた。


 彼に対する印象が変わった日だった。



 それからも私と彼は魔法少女達と戦い続けた。どれだけ負けても挑み続けた。


 悪の組織への忠誠心もある。でもそれとは別に理由があった。

 彼の存在だった。彼は思っていた以上に、私に力を与えてくれた。頑張る力を貰った、気がする。恥ずかしくて言えることじゃないが。


 あの日の出来事が原因なのは明らかだ。


 でも、私には異変が起きていた。それは魔法少女達と戦う度に酷くなっていく。

 頭にもう1人の私本来の私の声が響く。最初は頭痛で済んでいたのに、声が聞こえるまでになってきた。

 そして分かった。分かってしまった。


 ――私は洗脳されていた。組織に利用されている、駒でしかなかった。


 私の洗脳はほぼ解かれている。しかし最後の一歩を踏み出せなかった。居場所がしか無かった。


 今日も1人、悩んでいた。本当の自分とか、洗脳されているとか、どうでも良い。私はどうすれば良いのか、分からない。


 そんな中で、扉をノックする者が現れた。

 私は咄嗟に身構える。もしかしたら洗脳が解かれているのがばれたのか。そしてもう一度洗脳しようと来たのか。


 答えはどっちでも無かった。


「僕ですよ」


 彼の声だった。声を聞いて、ここまで安堵したのは初めてだった。


「入っても良いぞ」


「失礼します」


 彼は部屋に入ってきた。でもなんて言えば分からない。いつも通りの接し方も出来ずにいた。


「大丈夫ですか?」


「なに?」


「最近様子が可笑しいですよ。何かあったんじゃないですか?」


 見破られていたか。でも気付かれたことに対して、嫌な気はしなかった。

 彼なら、言って良いかもしれない。


「このことは秘密だからな」


「? はい」


 それから私は彼に、洗脳されていたことを明かした。彼も驚いた様子を見せた。


「私はいったい、どうすれば良いんだ」


 私は弱音を呟いた。らしくないかもしれない。これまで見てきた私からじゃ想像もつかないだろう。でも自分1人じゃ、答えなんて出なかった。

 だから、私は彼に助けを求めていた。


 彼の表情を真剣だった。これほど真剣な表情は初めて見た。


 意を決したように彼は私を見つめる。そして口を開いた。


「答えはきっと貴女の心の中にしか無いんです。貴女自身で決めるしかない」


「私が、決断する」


 私の言葉に彼は頷いた。きっとどんな道を選んでも彼は否定しない。私自身で決めるしかないんだ。

 私は、決意する。


「私はここを離れるわ」


 私は組織を裏切る道を選んだ。洗脳されていたのだから、文句はない筈。

 それに残る理由もない。彼が来る前はただ組織の為に戦っていた。今の私に、かつてのような忠誠心は無かった。


「貴方もここから離れましょう。こんなところにいたら、貴方まで何をされるか分からないわ」


 私は彼に手を伸ばす。一緒に逃げ出そうと考えていた。断るなんてない。――そう思っていた。


「出来ません」


 彼の言葉に耳を疑った。心は酷く動揺していた。


「なんで!? 洗脳されるのよ!」


 彼が残れば、組織は利用する。同じように洗脳される。そんな目に遭ってほしくない。

 その時、彼は言った。


「僕は貴女の弱さになりたくない。きっと逃げても、利用される」


 彼自身分かっていた。自分がただの一般人であること。裏切れば簡単に消せる存在。利用されることも理解していた。

 ならどうして誘いを断ったのか疑問だ。彼が私の弱さだなんて考えられない。


「私は、貴方のおかげで!!――」


 言葉が途切れる。彼が笑ったから、思わず途切れてしまった。

 彼は告げる。


「大丈夫です。洗脳されても、貴女へのが消える訳ないです」


 自信満々で、確信しているようだった。


「この気持ちが消えるなんて、


 まるで私の不安を取り除くように言い放つ。


 この言葉を聞いて私は諦めてしまった。どれだけ説得しても彼は応じてくれない。私の為に自分を犠牲にするつもりだ。


 ――馬鹿。馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!!


 私の心は混乱する。頭に熱があるように思えた。冷静じゃない。感情的になりそう。


「分かったわよ。もう何を言っても、貴方は応じてくれない」


「すみません」


 彼は謝罪する。表情は変わっていない。謝るくらいなら着いて来てよ……


 もしも彼が洗脳されてたら、誰が助けるんだろう。多分、魔法少女達じゃ無理。

 私が助けるしかない。そして助ける為には、力が必要。


 私は、助けたい。


「もし、もし! 私が、魔法少女になったら、貴方のことを助けてあげるから」


 確定していない未来の話をする。

 私が魔法少女になっても、これまでやってきたことは許されることじゃない。仲間として認められないかもしれない。


 それでも助けたいんだ。たとえ孤独の戦いになっても。


 そんな私の話を聞いた彼は、微笑んでいた。


「それじゃあ、洗脳されていたら助けて下さい。僕じゃ、愛を忘れないことしか出来ないから」


 彼の言葉を信じた。そして私は彼に背を向ける。


 別れの時がやってきた。でも、きっとまた会える。


 扉に近付いた私は、振り返って彼の姿を見る。


「また会いましょう。今度はきっと、敵同士なんでしょうけど」


 洗脳されない可能性は無い。私が魔法少女になれば、自然と戦うことになる。今までの私のように。


「そうですね。また会いましょう。……絶対に忘れませんから」


 心強かった。彼の言葉を聞くだけで、ここまで安心するなんて。前の私なら信じないだろうな。

 でも、それが今の私なんだ。


 私は目の前の扉を見る。


「……大好きよ」


 最後の最後で本音を口にした。かなり小声だった。聞かれていたら恥ずかしい。

 でもそれが、私の気持ちだ。


 私は扉を勢い良く開け、駆け出した。




 そして今に至る。本当に魔法少女になった私。


 紫色のコスチューム。髪も紫色になり、瞳は紺色だった。

 魔法少女になり、全身から力が湧いていた。


「立ち話はここまで。戦いましょう」


 彼が私に戦いを申し込む。本当なら傷付けたくない。だが、助けるには戦うしかない。

 私は覚悟を決めた。


「絶対に、助ける!」


 誰かを助けるこの力で、貴方を助ける!


「僕はそれを望んでいない。僕は貴女を倒す」


 望まれてなくても助ける。口先だけの冷たさじゃ、惑わされない。悪意と憎悪を向けられても止まらない。

 あの日の言葉を本当にする為に!


「それでも良い! 私は私の想いを、届かせる!!」


 その言葉を聞いた彼は一瞬だけ微笑んだ。その後は、似合わない冷たい表情。あの馬鹿が絶対にしない表情。


 私と彼は戦い始めた。


 ――このという想いを届かせてみせる。

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