54 希望
目を開くと何も変わっていなかった。
迫る敵、命が灯が消えそうな朧、そして嘲笑うエレクトラ。
だが白夜の胸にはメダリオンが輝いている。それを心に留めながら、彼は朧の傷に触れていた。
「光の神よ、この者の傷を癒やしたまえ」
掌に光が満ちる。体に力と熱が戻る。細川朧の険しかった顔が穏やかになり、小さく乱れていた呼吸が整う。致命の傷は綺麗に消えていた。
「そんな馬鹿な!」
エレクトラの余裕が消え、口辺の笑みが固まる。
「聖騎士だと? しかも光の女神・アーシュ=リアの……三千年ぶりの聖騎士が、貴様?」
「僕達は『選ばれし者』ではなかった。だが『選ぶ』! 生きる事を……そうだろ? みんな、何もかも諦めるほど僕等は往生際がよくないだろ?」
細川朧をその場に横たえながら、白夜は微笑んだ。仲間達に。
それは、その力強さと温もりは希望を失った三年四組全員に伝播していく。
「まだ死ねない、きっとこの世界のどこかに宝物がある! RPGてのはそんなもんだろ?」成田隼人が弓をとった。
「不便な世界だけど、慣れてはきたわ」北条青藍は少し顔をしかめて見せた。
「らららはどこでもらららだもん」小西歌は常に元気一杯だ。
「僕は魔法をもっと知りたい」石田宗親はこの旅でかなり頼もしくなった。
「君達がいてくれれば、僕も大丈夫」相変わらず力角拓也は顔を赤らめている。
「まずは秩序よ! この世界に秩序を回復させるわ!」真田亜由美子は怖い。
「私は、アイツらがいないこの世界の方がマシ」親から虐待を受けていた朝倉菜々美の言葉は悲しい。
「この世界の奴らに美味い料理を喰わせてやる」小早川倫太郎は生粋の洋食屋の跡継ぎだ。
「ここで諦めたら死んだ仲間達に言い訳できないものね」明智明日香は凛としていた。
「英雄だ、俺は英雄になる!」立花僚は新たな夢を見つけたようだ。
「私の根性舐めるなよ」大谷環は小さな体だが根性は人一倍だ。
「和樹を、あいつをぶん殴って元に戻してやらないと」片倉美穂は決意を固めた。
ここに三年四組は復活した。
未来に期待し、待ち望み、目指す若者達としてだ。
彼等はそれぞれ武器を持ち直し、怪物達と対峙する。
「そんな事が、そんな馬鹿な事が出来るか!」
アークロードが激昂し大剣を振り、その一撃を白夜のブロードソードが止める。
「そんな都合がよく行くか! そんな思い通りになる物か!」
「くっ」白夜は自分の苦戦を認めた。体格も経験もアークロードが上なのだ。たが倒されるわけにはいかない。
白夜はすばやく剣を振るい、敵の大剣の隙を狙った。
周囲は乱戦状態となっている。オーク、サイクロプスと三年四組が戦っている。
レンジャーの矢が飛び、聖職者のメイスがオークを潰し、魔法使い達の魔法が炸裂する。 エレクトラは落ち着きを取り戻す。
「何度でも倒すがいい、魔法で蘇らせるだけだ。さっきのように魂さえあれば我が軍団は何度でも蘇るのだ、外の混沌軍も蘇っている。お前達には万が一も生はない」
「え!」一人戦う術が無く、倒れている朧の傍らにいたらららが顔を上げる。
「……ふ、ふふふふふ」彼女は突然笑い出した。
「なーんだ、問題なしじゃん。おーるおけっ」
「どうしたのららら? 今忙しいの!」
「だって青藍、アイツ、今とんでもない失言したよ……魂さえあれば魔法で蘇る……ならみんなたすかるじゃん!」
アークロードと必死に切り結んでいた白夜が思わずらららを見た。
「そんでアイツの指定した時代に行けるんでしょ? しかも思い出してよ、あのちびっ子賢者、魔法で若返られるなら何年経っても今の歳に戻れるって事だよ……だったら、ららら達は戻れるよ、みんな一緒に、卒業式前に、あの時の姿で」
白夜は脳内に電流が駆けめぐる。軽い目眩の中で彼も結論に到達した。
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