50 『選ばれし』者たち

「ご苦労だった、さすが選ばれし者達」

 どこか嘲弄するような労いの言葉に、三年四組はようやく我に返った。

「この百年、色んな者に挑戦させてみたが、まさかさほど期待していなかった貴様らが封印を解いてしまうとはなあ」

 白夜は緊張を取り戻し、剣を杖代わりにして立つ。

 彼等の前にはいつ現れたのか黒いローブに身を包み黒いフードで顔を隠した何者かが漂っている。

 ……アンデレ!

 白夜は一度ダークエルフを思い出したが、すぐに被りを振った。

 ……違う……あのダークエルフは……。

 ここまで禍々しくはなかった、と彼は額に滲む冷たい汗をガントレットで拭う。

 心を落ち着けて見回すと、あの光のドームは消えていた。

 否、消したのだ。彼等三年四組が総力を挙げて挑み、消した。

 結果、黒いローブの何者かが入ってきた。

「何者だ!」

 鋭い声で白夜が誰何すると、黒いローブはあっさり素顔を隠すフードを倒した。

「あ!」それは誰の喉から出た声か。もしかしたら彼自身かも知れない。

 見覚えのある顔があった。

 彼等がこの世界で始めて言葉を交わした人物だ。

「……エ、レクトラさ、ん」

 青藍の声は驚愕に揺れていた。

 ……そうだ……だって彼女は……。

「……生きていた、んですか?」

 赤いエルフは頬を歪めて笑った。

「愚か者め、あんな事でこの私が死ぬと思うたか」

「え……?」絶句したのは白夜だけでなく全員だ。

 エレクトラの口調が変わっていた、態度も目つきも。彼女はいつも三年四組の生徒達を『選ばれし者』と敬い、導いてくれた。なのに眼前で黒いローブに身を包んだ彼女は、まるで敵対する者でも前にしたかのように冷ややかだった。

「あの時私はお前達を見捨てたのだがな……よもや生き残るとは……」

 ……あの時……。

 白夜は思い出す。エレンの村人に追い立てられて逃げ込んだ霧深い谷で、彼等を襲った怪物達……そしてエレクトラは自らを犠牲にして……見捨てた?

「ちょっと! ウソ」

 らららが息を呑む。

 視界を転じると、黒いプレートメイルの騎士が歩いてくる。

 この世界に飛ばされてすぐに襲いかかってきた騎士。三年四組の担任教師・木戸栄一の首を斬り殺害した男。アークロードとか言ったはずだ。

『アークロードこそ世界の歪みの元凶、だから彼を封印して下さい……選ばれし者達よ』

 元々そんな話だった筈だ。

 ……封印?

 白夜は頭の中で何かが閃く。

 エレクトラは何と言ったか……封印を解いた、アークロードを封印するのではなく。

「困惑しているようだな? 選ばれし者達」

『選ばれし者』の定義がいつからか嘲笑される対象になっていた。

「よかろう。貴様等の功績に免じて真実を話そう……私が真実を話すなど今までほぼなかったことだ、光栄に思え」

 エレクトラの金色の瞳が輝いた。

「……まず、誤解を解いておこう、お前達はこの世界の神々に『選ばれた』のではない、私に適当に『選ばれたのだ』、正直お前達にはそれ程期待していなかった。何せ私はこれまで何度も『選んで』きたのだから……お前達には覚えはないか? お前達の世界で時折起こる不思議な失踪事件を。色んな時代で、旅をする人々の一団が、軍隊が、時には空を飛ぶヒコーキとやらが忽然と消えたりはしなかったか? お前達の世界に進化の道から外れた化け物の伝説はないか?」

「ちょっとー、それって……」成田はここでも空気を読まず口を挟み、

「エレクトラ様のお言葉の最中だぞ!」

 とアークロードに黒い騎士に遮られる。

「ふん、簡単に言えば、それら皆、私に『選ばれた』者だ。『選ばれし者達』よ、そして私によるお前達の世界への介入……勿論、主な目的は人材確保だ」

 エレクトラは余程機嫌がいいのか、悦に入って続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る