47 ガルベシアの封印

 源白夜はガントレットを嵌めた拳で、何度も何で出来ているか判らない遺跡の床を殴りつけた。

 慟哭のまま痛みも無視して体を傷つける。

 ……何がリーダーだ! 何が僕がやるだ! 何が死んでいった仲間の供養だ! 結局また一人死なせただけじゃないか! 僕は、僕は! 

 白夜の手が止められる。柔らかな掌がそれを包んだのだ。

「……白夜ちゃん」細川朧は泣いていた。

「もうやめて……」

「僕じゃリーダーは無理だった! 僕なんか徳川の跡を継げるわけがなかった、そうだろ朧」

「ううん、それは違う……あの時、本田君を止められる者はいなかった」 

「違う!」白夜は朧の手を振り払う。

「もっと早くあいつの不自然さに気付くべきだったんだ。あいつがここにいるわけがなかったのに!」

「……きっとさ」口を開いたのは小西だ。

「それも誰も出来なかったよ、らららも疑問を感じなかったもん……源、だからその理由で自分を責めるなら、ららら達も責めないといけないよ」

 白夜はもう一度叩きつけようとしていた拳を止めた。何故か穏やかな本田の死に顔にそっと話しかける。

「本田、約束は守るよ、封印を解いても僕はすぐ帰らない……あいつの、あのアンデレの正体を必ずカティア姫に告げる……だから安心してくれ」

 白夜は本田の手を胸の上に組ませると、金属の音を鳴らし立ち上がり、鉄の甲で涙を拭った。

 本当は徳川のように弔いたかったが、先程のダークエルフの動向故に、急ぐ必要がある。

 もう封印は目の前だ。


 ガルベシアの封印。

 それがどんな物かは誰も知らない。エレクトラや賢者ラスタルさえ目にしたことがないらしい。

 それが今、彼等の三年四組で生き残った一四人の前にあった。

 半透明の光で形成されたドーム型の何かだ。

 場所はガルベシアの城壁の中、その残骸も何もない平らな床を全てドームが覆っていた。

 大きなシャボン玉を半分にしたように、ドームには色んな光彩が浮かんでいる。

「なんだこれ?」成田は首を傾げた。

「こんな物をどうしろと……」大谷が困惑している。

「突っ立っていても仕方がない」

 皆が躊躇する中、白夜は手を光のドームに近づけた。

「白夜ちゃん!」

 だが朧の心配は杞憂だった。彼の手は何もないかのようにすっとドームの中に入ったのだ。

「うん?」

 と今度は一歩前進してみるが、何の抵抗も、感触もなく光の中に入れる。

「なんだこれ? 無意味だろ?」

 白夜は振り返り、唖然としている仲間に聞いてみる。

「あるいは……僕が選ばれし者じゃないのか?」

 今更の問いだ。

「多分」答えらしき物を持っていたのは石田だった。

「逆に僕等が選ばれし者だからだよ。それ以外はきっと」と彼は屈んで手近な石を拾うとドームに投げる。

 石は光のドームに触れた瞬間、ばちばちと電撃のような火花に包まれ粉々に崩れた。

「ほら」石田が笑みになるが、白夜は嫌な顔をする。

「それ、順序逆じゃない?」

「だねー」成田は軽い口調で同意する。

「ま、まあしかし、僕等には無害だと判ったんだし」

 石田は慌てたように手を振った。

「だけど……」謎はまだ残っている。

「ここで何しろと?」

 光の中に入った白夜の前にはやはり何もない床しか広がってない。

「みんなで入ってみたら?」

「それしかないか」

 小早川の提案に、立花がうんざりしたように息を吐く。

「え~、らららやだよ~」

 小西の抵抗はまたスルーだ。

 最後まで渋っていたらららの腕を片倉が掴んで光のドームに入れた時、それは起こった。

『異分子反応確認。他次元世界人と断定。周囲策敵、他異分子反応無し』 

 誰かが口を開く前に、光のドームの中央に縦に長い四角の薄い板が、四枚せり上がる。

「何だ?」

 白夜は固まる仲間を背に、敢えて最初に板に近寄った。

 表面は黒くぴかぴかで、彼の全身が鏡のように写っている。

「これって?」

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