14
無表情にあわてていると、朧月が戻ってきた。
車に常備してしているシャツとスラックスに着替えている。
あぁ、仕事の電話だったか…
「え、あれ、博士くんは? まさかもう愛想尽かされた?」
「いや…」
デッキから、カフェの下に広がる岩礁を示す。
下の岩礁では、博士くんが夏休みの少年よろしく四つん這いになって海を覗き込んでいる。いつ海に落ちるか気が気じゃない。
「あぁ、」
ロウがそれを見て、いや、あわてるオレを見て、歯を見せた。
「大丈夫だよ。フィールドのプロだから」
「…あの子、もしかして多動とか?」
オレの問いに、ロウは明らかに聞こえないふりだ。
これは…、
けれど彼は、
「なぁ、ロウ、」
「悪い。霖からだったわ。仕事入った」
(霖くんというのは彼の大切な後輩くんで、たしか博士くんと同輩だ)
「オレ、いくわ。博士くんをよろしく頼むな」
表情まで…戻ってしまった。
感情に揺れない目が辛うじて温度を残しているのは、ひとえにオレへの思いやりだ。さっきまでの陽気なお調子者は見る影もない。
こっちが、ほんとの朧月だ。
「休みなんじゃなかったのか?」
「霖だけじゃ、無理みたいだ」
「で、どこ? なに?」
ものによってはこのまま一緒に向かいたい。いつもそうしている。
朧月は一瞬の躊躇いもなく応えた。
「新逗子高校。生徒が自殺した」
「えっ、」
小さく声が跳ねて顔を向けると、
「あ、」
シーグラスを両手いっぱいに抱えた博士くんが、いつの間にか、海から上がってきていた。
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