僕たち、私たちは、『本気の勉強』がしたい。

庵田定夏/MF文庫J編集部

プロローグ 夜が好きだ。

 夜が好きだ。

 夜は、自由だから。

 誰にもとがめられることはない。他人の目は一つも気にしなくていい。普段のしがらみを全部取っ払って大暴れしたって構わない。むちゃくちゃしたいよな、せっかくなら。

 夜は、なりたい自分でいられる。

 違う自分に成り代わったっていい。平穏無事に生きるためかぶった皮をかなぐり捨てても問題ない。誰にも邪魔されることはない。あるがままの自分でいい。最高だろ?

 夜は、心置きなく一人でいられる。

 なんだかんだと社会は群れることをよしとする。昼間っから一人でいると変な目で見られる時がある。ほっとけ。余計なお世話だ。それが夜になると立場が逆転する。夜につるんでいる方が変な目で見られることさえある。夜は一人が主流派になる。

 夜は、一人でも誰かとつながっていられる。

 一人なんだけど、一人じゃない。わかるよな? 本を読んでいる時、確かに作者と通じ合える。ラジオを聴いている時、同じように耳を傾ける誰かとつながれる。スマホをのぞむ時、画面の向こう側に誰かがいて寄り添ってくれる。一人だけど完全な孤独じゃなくて、お互いの体温で邪魔し合わない距離感を保っていられるのが、いいんだ。

 夜は、わがままな自分を受け入れてくれる。

 面倒臭い自分。嫉妬してしまう自分。自己中心的な自分。他人に優しくなれない自分。理想の姿とかけ離れた自分も、日が沈んだ後の暗がりなら許される気がする。だから夜の間は、心のトゲが減るんだ。

 昼間生きていく中で疲労し傷つく体を、夜の間にやす。

 そしてまた、太陽が昇る。

 繰り返す。

 だから夜は、生きていくために絶対に必要な時間だ。

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